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11月 16 2015

貸金回収の実例(後編)

前回の記事の続きとなります。

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個人に対する強制執行

 

勝訴判決を得ることはできましたが,その時点でもBさんの預金口座やその他の財産を見つけられていませんでしたので,とりあえず確実に支払われていると思われる給与(役員報酬)を差し押さえることとしました。正直なところ,給与を差し押さえても会社が支払ってくれるとは思えませんでしたが,もし無視された場合には取立訴訟を行うことで最終的にはA社の財産を差し押さえることができますので,Bさんの財産を探すよりも簡単です。

なお,強制執行手続に関しては司法書士は代理人となることはできません(ただし,少額訴訟債権執行を除く)が,書類の作成をすることはできますので,当事務所は書類作成者として関与しております。

 

会社に対する取立訴訟

 

給与の差押え手続をしたものの予想通り,A社からは何ら連絡はなく,月日が流れていきました。そこで,4か月ほど経過した時点でA社に対する取立訴訟を行うこととしました。もちろん,事前にA社に何度か電話をしましたが,担当者不在&折り返し無しが続いたので,もうA社からの支払いはまったく期待できない状況でした。

 

ここでいくつか補足致します。

まず,今回差し押さえたのは正確には給与ではなく役員報酬となります。

給与の場合,全額を差し押さえてしまうと差し押さえられた人の生活ができなくなってしまいますので,原則として給与の手取り額の1/4しか差し押さえが出来ないこととなっています(民事執行法152条1項2号)。具体的には,総支給が30万円で,税金等が控除されて24万円であれば6万円しか差し押さえができないことになります。

しかし,役員報酬は正確には給与ではないため,このような制限がなく全額差し押さえることが可能です。この理由は,契約形態が雇用契約ではなく委任契約であること,取締役は役員報酬だけで生活が成り立っている訳ではないことが挙げられていますが,役員報酬で生活している方はたくさんいるので,正直なところ説得力のある理由ではないと思います・・・。

 

それはさておき,差し押さえる側としては全額押さえられるのは良いことですので全額の支払いを求めますが,毎月支払われない都度訴訟をやっても不経済ですので数か月待つことになります。

例えば,請求額が100万円で,役員報酬が毎月20万円だとすると,20万円が支払われなかった時点で20万円については取立訴訟を起こすことは可能ですが,翌月も支払われない場合は別途手続をしなければなりません。しかし,5か月待ってから取立訴訟をすれば一度の手続で済みます。

今回の事件は4か月経った時点で全額回収できる金額になりましたので,すぐに取立訴訟を提起しました。なお,この取立訴訟に関しては,強制執行手続の一環ではありますが,140万円以下であれば簡易裁判所の管轄となりますので司法書士が代理して訴訟を進めることは可能です。

 

取立訴訟に対するA社の対応

 

A社に対する訴訟を提起したものの,実は本気で反論されてしまうとどうなるかわからない事情もありました。

というのは,実際にBさんに対して毎月いくらの役員報酬が支払われているか確実には把握していませんでしたので,もしかしたら株主総会決議をして役員報酬がゼロになっていると反論される可能性もあり得ます。株主総会を行った場合は株主総会議事録を作成することになりますが,この書類はA社が作成する書類ですので,本当はそのような決議はされていない場合でも,さもあったかのように証拠を作出することができてしまいます

この点については,顧問税理士とも打ち合わせをして,訴訟提起後に税務署に対する調査嘱託等(民事訴訟法186条)を行うことで,仮にそのような証拠が出されても「実際は役員報酬を支払っている」との立証はできると思っていましたが,ウソではなく本当に役員報酬がゼロになっているとどうにもなりません。

また,会社に対する訴訟となると従業員の生活もかかってきますので,しっかり反論がなされて長期的な戦いになることも想定されました。

 

 

 

が,まさかの何も反論無しでしたので,特に証拠を提出することもなく勝訴判決が出てしまいました。顧問税理士と何度も打ち合わせをしたり,税務署にも相談したり,各方面色んな証拠関係の調査をしましたが,良い意味で無駄な労力となりました。

 

会社財産に対する差押え

 

さて,これでいよいよ会社の財産を差し押さえることができるようになりました。A社の財産で差押えが可能なものとして考えられるのは,社内にある動産,事務所の賃貸借契約の際に入れているであろう保証金,金融機関の預金,取引先に対する売掛金などがありました。

しかしながら,社内の人間であれば財産的価値があるものや換価が簡単なものがわかるでしょうが,外部の人間ではそう簡単にはいきません。

 

・動産

一般的に価値はありませんし,どのような動産が社内にあるのかわかりませんし,何より動産執行は債権執行と比べて裁判所に納める予納金が高いので費用倒れになる可能性が十分あります。

 

・保証金

金額的には差し押さえができれば一括で回収できそうな金額の保証金が入れられていると思いますが,A社が退去するまで返還されませんし,万が一賃貸借契約の特約で100%償却となっていれば,まったく意味がありませんので,実効性が高いとは言えません。

 

・預金

口座にお金が入っていれば,銀行が拒否することはないので確実に回収できます。しかし,差し押さえのためには支店を特定する必要があります。この点,A社のHPには取引銀行名は書いてあったものの,支店名までは書いてなかったので,支店名の特定がカギとなりますし,もし差し押さえができても口座にお金が入っていなければ空振りになってしまいます。

 

・売掛金

売掛金は,まず取引先がどこなのかを突き止める必要がありますし,さらに,どういう売掛金なのかを特定しなければなりませんので一番大変です。ただ,もし主要取引先の売掛金を差し押さえられるとA社は取引を打ち切られ,最悪の場合倒産の恐れも出てきてしまうので,もし,特定ができればかなり大きな情報となります。

 

差押え財産の特定

 

最近は,フェイスブックやツイッターなどのSNSをやっていない人の方が少ないのではないかと思えるくらいSNSを利用されている方が多いですが,個人ではなく会社名義でのSNSもたくさんあります。また,今では少し廃れ気味ですが会社や社長のブログもあったりもします。

そこで,差し押さえが可能な財産を探すべくA社名義及びBさん個人のツイッター,フェイスブック,ブログなどを片っ端から全部読みました。そこから,さらに従業員のツイッターまで探し当て,隅から隅まで読みました。もう,ある意味「自分はネットストーカーなのかも」と思えるくらい読みました。

その結果,2つの大きな情報を見つけました。

 

1つは取引銀行の支店名です。Bさん個人の数年前のブログに書いてありました。

もう1つは取引先です。Bさんのフェイスブックに取引先であるC社主催のイベントに参加された記事が載っており,C社のフェイスブックにも同様の記載がありました。また,恐らくではありますが,そのC社との取引が打ち切られると倒産するレベルの取引先であることもわかりました。もっとも,上記のとおり売掛金を差し押さえるためにはC社という取引先がわかるだけではダメで,どういう売掛金かを特定しなければなりませんので,C社という名前が判明しただけではまだ次へ進めません。

 

預金の差押え

 

ということで,多くのお金が入っていそうな給料日前の日付を狙ってA社名義の預金口座に関する強制執行の申立書を作成しました。

その結果,見事差押えは成功したものの,全額を回収するには至りませんでした

ただ,それよりも良かったのは,これを機にBさんから電話が掛かってくるようになり,やっとまともな交渉ができるようになりました

その交渉の中で,Bさんとしては「3回程度の分割で全額支払うから,保証金やC社への売掛金の差し押さえはしないでほしい」との要望がなされ,こちらとしては,「保証人を付けてもらい,さらにC社との契約書を開示すること」を要望し,無事和解が成立しました。

これで,売掛金の差し押さえに必要な情報がすべて揃いましたが,上記のとおり売掛金の差し押さえはA社の倒産を招いてしまう恐れもあったので,できる限り分割で支払ってくれることを期待していました。

 

売掛金の差押え

 

分割の支払いで和解したはずですが,残念ながら約束通りの入金はありませんでしたので,依頼者より依頼を受けて,売掛金に関する強制執行の申立書を作成しました。

その結果,こちらの請求額を超える売掛金がありましたので,申立てから10日程度で全額が支払われ,事件は終了となりました

なお,これ以降,A社,Bさん及びC社とは話をしておりませんので,A社とC社との関係がどうなったのかわかりませんが,A社から受領したC社との契約書には,差し押さえがあったときには契約を解除することができる旨の規定がありましたので,もしかしたら取引を打ち切られているかもしれません・・・。

 

回収率

訴訟を2回(Bさん個人への貸金請求訴訟及びA社への取立訴訟)行っており,強制執行の申立書を3回(役員報酬,預金口座,売掛金)作成しておりますので,その分の司法書士報酬はかかっておりますが,2回分の訴訟費用(収入印紙や郵券等),3回分の執行費用(収入印紙や郵券等)については,強制執行手続の中で全額回収しておりますので,各手続の実費は実質タダになっています

さらに,訴訟期間中も貸金に対する利息は付いていきますので,実際に回収した金額から報酬等を差し引いた実質的な回収率は約75%でした

今回の事件は着手金あり(成功報酬15%)でお受けしましたが,もし着手金なし(成功報酬25%)だと実質的な回収率は約65%となっていましたので,今回の依頼者については着手金ありにされて正解でした。もっとも,回収までに時間がかかっておりますので,回収できない間は着手金ありにされたことを後悔されていたかもしれませんが,最終的にはご期待に沿うことができて良かったです。

 

すべての事件について必ず回収できることを保証するものではありませんが,可能な限り回収すべく手続を進めていきますので,同じようにお困りの方は一度ご相談いただければと思います。

 

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