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2022年1月

1月 04 2022

建物明渡の実例(断行まで進むも不在で終了)

先年末に建物明け渡しが完了しましたので、大まかな流れをまとめたいと思います。従前同様、手続上重要ではないところについては事件の特定を避けるため一定程度フィクションが入っております。

 

1 事案

ご相談いただいたのは、家族で暮らすような2LDKのアパートで数年に渡って家賃を滞納されておりました。当初は滞納されるたびに保証人である親族に連絡すると払ってくれていたのですが、ついに親族からこれ以上は援助できないとのことでしたので、解除に向けて動くこととなりました。

これまでに入居者自身が家賃を支払うことはほとんどなく、相手の方の勤務先も「夜の商売」ということくらいしか情報が無かったため、家賃の回収は保証人からできる限りの額を、入居者についてはどのような理由があったとしても早期の明渡しを進めるということでご依頼いただきました。

 

2 入居者及び保証人への通知

家賃を滞納していてもすぐに明け渡しを求めることはできず,明け渡し請求の前提として、まずは未払い賃料を請求し、それでも賃料の支払いが無いとなって初めて賃貸借契約を解除ができ、明渡しを求めることができます。

これは、賃貸借契約の解除は賃借人の生活の本拠を奪うことになるため、簡単には解除はできないようになっています。

ただ、すでに数年分の滞納があり、保証人も支払うつもりは無いとの回答がありましたので、通知を送っても支払われることは無いと思っていました。

解除の基準の詳細についてはこちらをご覧ください。 → 賃料未払いの場合の解除の基準

 

また,解除の通知は相手方に届く必要があり,訴訟手続においても届いたことを立証する必要がありますので,通常は内容証明郵便(配達証明付)で送付しますが,これに加えて特定記録でも同内容の書面を送付します。これは,相手方が日中常に留守にしているとのことでしたので内容証明郵便を受け取らないということも十分考えられることから,内容証明ほどの証明力は無いものの,とりあえずいつ相手の住所に配達された(受取ではなくあくまで配達)ことは証明できるからです。

ただ、今回の事案では内容証明郵便が届きましたので、この点は特に問題ありませんでした。

 

 

3 訴訟提起~判決

相手方に内容証明郵便が届きましたが、予想通り支払いはありませんでしたので、入居者及び保証人を相手方として訴訟を提起しました。

この点、保証人には裁判所からの書類が届いたのですが、入居者が受け取らなかったため裁判所からの指示を受けて現地調査を行いました。その結果、入居者が居住していることが分かりましたのでその旨を裁判所に報告し、「書留郵便に付する送達(付郵便送達)」にて手続を進めました。

送達についてはこちらをご覧ください。→ 想いよ届け!【書類の送達】

 

裁判の期日において、保証人は出廷したため保証人と未払い賃料の支払いについて和解が成立し、入居者は出廷しませんでしたのでこちらの言い分をすべて認めたこととなり勝訴判決となりました。

 

4 再度の通知

強制執行となると、強制執行に関する裁判所や当事務所の費用に加えて、荷物の搬出費用や保管費用、鍵の開錠費用などたくさんの費用がかかるため、判決に基づき任意の明け渡しを求める通知書を送付し,回答を待ちましたが連絡はありませんでした。

 

5 明渡し及び動産執行の申立て

まったく連絡が取れず任意の明け渡しが期待できないことから、明渡し及び室内の動産を差し押さえる動産執行の申立てをしました。なお、訴訟手続と異なり、強制執行に関しては司法書士は書類の作成はできるものの代理人にはなれないため、強制執行の際には大家さんもしくは関係者に立ち会っていただく必要があります。今回は、大家さんの親族の方に立ち会っていただきました。

 

6 明渡催告

 

強制執行になってもいきなり退去を迫るわけでは無く、1か月弱の猶予を与えて退去を求める「明渡催告」をまずは行います。

今回、明渡催告に行ったところ、入居者が在宅であり、久しぶりに話ができました。入居者としては話し合いをしたいとの希望でしたが、これまでに何度も裏切られてきているので少なくとも今後も居住し続けるという点について拒否し、もし早期かつ任意に退去してもらえるのであれば未払い賃料等については柔軟に対応する旨を伝えました。

 

7 断行及び動産執行

明け渡し催告から1か月弱の日を断行日と指定され,その前日までに明け渡すよう催告がされていましたが,任意の明け渡しはされませんでした。といいますか、まったく連絡が取れない状況が続きました。従前の話だと、入居者も断行日には室内にいるとのことでしたが、時間になっても応答は無く、開錠業者さんに鍵を開けてもらって室内に入ってみると、大量のごみ以外の家具等(タンス、テレビ、冷蔵庫、洗濯機等)についてはすべて搬出済みでした。

したがって、断行という強制的な手続で終わることになったものの、実際には不在でしたので特に揉めることなく明渡しは完了となりました。

 

8 トータルの費用

今回、当事務所の費用及び裁判所に支払う費用等の実費を合計すると、明渡しに関する費用としては50万円程度となりました。ただし、今回は未払い賃料の回収ができておりますので、その分の成功報酬がかかる代わりに、そこから費用をいただいておりますので大家さんから直接費用はいただきませんでした。

ただ、それよりも大変なのが原状回復費用になると思います。原状回復費用は強制執行にかかわらず、すべての賃貸借契約において関係する話ですが、強制執行で退去せざるを得ない人がきれいに室内を保っているはずもなく、それでいて原状回復費用を支払ってくれることは考えられませんので、室内の状況次第では原状回復費用の負担が大きいケースもあると思います。

 

以上、明渡の実例でした。

 

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