6月 22 2017
訴え提起前の和解(即決和解)
借金に関する契約書については特に形式が決まっているわけではありませんので,自分で手書きで作成しても良いですし,文房具屋さんなどに売っている定型のものを使っても大丈夫です。
この点,借金に限らず,お金の支払いに関する書面を公証役場にて作成し,執行認諾文言を入れることで,裁判をしなくてもいきなり強制執行ができるような書面が出来上がります。この書面は,一般的に「執行証書」や「執行認諾文言付公正証書」などと呼ばれています。ちなみに,上記の「執行認諾文言」とは,文字どおり「強制執行されることを承諾します」という趣旨の文章が書かれているものとなり,たとえ公正証書で金銭消費貸借契約書などを作成したとしても,執行認諾文言が入っていなければ強制執行はできません。
このような,執行証書は債権者としてはかなり便利な書類ではありますが,実は金銭の支払い(その他代替物など)に関するものしか強制執行ができません(民事執行法第22条5号)。
例えば,建物の明け渡しだったり,物の引き渡しだったり,登記手続への協力だったりといった金銭の支払い等に関するもの以外は公正証書で合意書などを作成してもその公正証書では強制執行ができず,改めて訴訟を提起し,主張や証拠として提出して裁判所から判決をもらったうえで,やっと強制執行にたどり着くことになります。
建物の明け渡しなどでは,「本来はすぐに退去してもらえるけど,○月までに全額を支払えば,その後も住んで良いですよ。ただし,支払いが遅れた場合にはすぐに出て行ってくださいね。」というような話し合いが成立することはよくありますが,上記のとおり公正証書で合意しても明渡の強制執行はできませんし,かといって,和解をするために訴訟を提起するのも何かおかしな話です。
そのようなときのために訴え提起前の和解(即決和解)という制度があります(民事訴訟法275条)。
今年に入って半分近くが経過していますが,先日とある裁判所に即決和解の申立てをしたところ事件番号が第1号でしたのであまり使われていない制度かと思われることから,今回は即決和解についてまとめておきたいと思います。
即決和解を行うための条件
1 和解が成立していること
当たり前ですが,当事者間で和解(話し合い)が成立していることが必要です。話し合いが決裂しているのであれば訴訟や調停を行うこととなります。
2 当事者が裁判所に出頭できること
書面による和解ができないことになっておりますので,当事者が裁判所に出頭する必要がありますが,裁判所の許可があれば親族などが代理人として出頭することも可能です。もちろん,弁護士や司法書士(ただし,140万円以下)を代理人とすることも可能です。
即決和解のメリット・デメリット
公正証書の作成や訴訟などの法的手続と比較した場合の即決和解のメリット・デメリットを記載いたします。
1 金銭の支払以外についても強制執行が可能
上記のとおり,執行証書では金銭の支払いに関するもののみ強制執行が可能ですが,即決和解では金銭の支払以外に関しても強制執行が可能です。もちろん,金銭の支払に関するものも可能です。
2 公正証書よりは時間がかかり,訴訟よりは早い
公正証書の場合は,公証人との予定があえば,最速で1~2日で書面を作成することができます。一方,訴訟となった場合は最短でも2~3か月はかかりますし,相手が争ってくれば解決まで年単位の時間がかかる可能性もります。
この点,即決和解は,当事者の呼び出しや申立書の内容の調査などの時間がかかりますので,およそ1か月程度の時間がかかります。
3 費用が安い
公正証書の場合は,和解する金額にもよりますが1万円から数万円程度の実費がかかります。訴訟に関しても金額によって差ありますが,同じく数万円の実費がかかります。
この点,即決和解は争いになっている金額に関係なく一律2000円の収入印紙と当事者に送達するための郵券代のみとなりますので,3000円あれば十分足りると思います。ただし,弁護士や司法書士の依頼した場合には報酬が別途かかります。
4 管轄が限定される
公正証書については特に管轄はありませんので,全国どこの公証役場でも作成可能です。訴訟に関しては,金銭の支払を求める場合は,債権者または債務者どちらかの住所を管轄する裁判所で行うことができますので,債務者が遠方に住んでいる場合でも,債権者の住所地を管轄する裁判所を選択することもできます。
この点,即決和解に関しては,相手方(通常は債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所(140万円以上でも簡裁。)に限定されていますので,債務者が遠方に住んでいる場合は移動が大変かもしれません。
5 債務者に不出頭のペナルティがない
訴訟の場合,理由なく裁判所に出頭せず書面も提出しない場合は,債務者(被告)が言い分をすべて認めたものとして,債権者(原告)が勝訴となる場合がありますので,被告としては無視することなく対応しなければなりません。
この点,即決和解に関しては,万が一出頭しなくても出頭しなかったことに対するペナルティはありませんので,口頭での和解が成立していても,和解直前になって一方的に破棄されるという可能性があります。
以上のように,即決和解には一長一短がありますが,条件が合えば,安価で強力な書面が出来ますので,和解ができそうな場合であれば即決和解という方法もお考えいただいてはいかがでしょうか。