6月 19 2017
動産執行って効果ある?
最近はあまり見かけなくなりましたが,以前はドラマなどで,「自宅の中に勝手に人が上り込んで,赤い紙などをタンスやテレビなどにペタペタ貼られて差し押さえられてしまう。」なんて描写がありました。
実際にはこんなことはあり得ないのですが,「裁判所の執行官が事前連絡なく家にやってきて,様々なものを差し押さえる。」ということは現実にあり,このような差し押さえを「動産執行」といいます。
今日はこの動産執行について掘り下げて書いてみようと思います。
動産執行では,ほとんど差し押さえができない。
本サイトの「裁判を始める前と裁判が終わった後にとる手続」のところにも記載しておりますが,自宅内にあるすべての財産を差し押さえることができるわけではなく,「差押禁止財産」という文字どおり差押が禁止されている財産があります(民事執行法131条)。むしろ,実際は原則と例外が逆転しており,大多数が差押ができない財産となっています。以下,差押が禁止されている財産について列挙していきます。
→文字どおりそのままで,食料や灯油などは差し押さえができません。そして,仮に差し押さえができたとしても,食料などは価値が低いため現実的にも差し押さえるメリットはないと思います。
【標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭】
ちなみに,現金については,一般家庭というより店舗や事務所などの動産執行の際に差し押さえができる場合があります。以前,過払金の返還事件が多かった時に,とある消費者金融のATM内の現金を差し押さえるということが多くみられました。
【主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物】
→端的に言うと,このようなものが差し押さえられてしまうと,債務者が収入を得る術がなくなってしまいますので,禁止されています。
その他,下記のものも禁止されています。債務者にとってなくてはならないものである反面,債権者としては財産価値がなく差し押さえても現実的な回収ができませんので意味がありません。
【仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物】
【債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類】
【債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物】
【債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具】
【発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの】
【債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物】
【建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品】
留守だと意味がない
また,裁判所によっては,留守だった場合でも執行官が来た旨の書面を入れてくれることもありますが,私が関与させていただいた件では,執行官は留守の場合はそのまま帰ってしまうため,インターホンに画像が残っていない限り,債務者は執行官が来たことに気づきません。とすると,留守だとあまり何の意味も無い手続ということになってしまいます。
本気度を相手に認識してもらい任意の支払いを促す
本人が在宅している場合,執行官と直接会うこととなりますので,それなりのインパクトがあります。
上記のとおり,多くのケースで動産執行そのものは回収することはかなり難しいと思いますが,執行官が自宅に来たことで,こちらは「本気だ」ということが伝わり,任意の返済が期待できることがあります。実際に,当事務所で関与させていただいた件でも,動産執行自体は不能でしたがその後に本人から連絡があり分割弁済で和解でき、全額回収できたケースもたくさんあります。
動産執行にかかる費用
執行官から聞いたところによると,留守だった場合だと2000円程度の費用がかかるそうですので,5回訪ねてもらっても1万円程度で済むことから,1度や2度留守だったとしても繰り返し自宅を訪ねてもらった方が良いかもしれません。
ということで,手続きそのものでの回収は難しいですが,かといってまったく無駄ではなく,費用もそれほどかからないので,めぼしい財産が無い場合は動産執行の申立てをするということも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。