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6月 19 2017

動産執行って効果ある?

5:42 PM 全手続共通

最近はあまり見かけなくなりましたが,以前はドラマなどで,「自宅の中に勝手に人が上り込んで,赤い紙などをタンスやテレビなどにペタペタ貼られて差し押さえられてしまう。」なんて描写がありました。

実際にはこんなことはあり得ないのですが,「裁判所の執行官が事前連絡なく家にやってきて,様々なものを差し押さえる。」ということは現実にあり,このような差し押さえを「動産執行」といいます。

今日はこの動産執行について掘り下げて書いてみようと思います。

 

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動産執行では,ほとんど差し押さえができない。

本サイトの「裁判を始める前と裁判が終わった後にとる手続」のところにも記載しておりますが,自宅内にあるすべての財産を差し押さえることができるわけではなく,「差押禁止財産」という文字どおり差押が禁止されている財産があります(民事執行法131条)。むしろ,実際は原則と例外が逆転しており,大多数が差押ができない財産となっています。以下,差押が禁止されている財産について列挙していきます。  

 

【債務者等の生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用具,畳及び建具】
→これが一番差し押さえ禁止にひっかかるもので,ほぼすべての生活道具の差し押さえが禁止されています。したがって,タンスやテレビなど生活に必要なものは原則として差し押さえをすることができません。もっとも,「原則として」と記載した通り,例外もあります。例えば,価値のあるテレビが何台もあるようであれば,2台目以降は差し押さえることが可能ですし,高価なブランド食器などは差し押さえができる場合があります。
生活必需品には該当しない物としては,高級腕時計や貴金属,ゴルフクラブ,絵画などになります。  

  

【債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料】

→文字どおりそのままで,食料や灯油などは差し押さえができません。そして,仮に差し押さえができたとしても,食料などは価値が低いため現実的にも差し押さえるメリットはないと思います。 

 

【標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭】

→預貯金は債権執行となりますが,現金は動産執行の対象となります。しかし,66万円までの現金は差押が禁止されています(民事執行法施行令1条)。

ちなみに,現金については,一般家庭というより店舗や事務所などの動産執行の際に差し押さえができる場合があります。以前,過払金の返還事件が多かった時に,とある消費者金融のATM内の現金を差し押さえるということが多くみられました。 

 

【主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物】

【主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物】
【技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)】

→端的に言うと,このようなものが差し押さえられてしまうと,債務者が収入を得る術がなくなってしまいますので,禁止されています。  

 

その他,下記のものも禁止されています。債務者にとってなくてはならないものである反面,債権者としては財産価値がなく差し押さえても現実的な回収ができませんので意味がありません。

【実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの】
【仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物】
【債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類】
【債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物】
【債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具】
【発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの】
【債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物】
【建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品】

 

留守だと意味がない

 
動産執行は,執行官が債務者の自宅に赴く手続であるため,基本的には在宅している時間帯を狙って訪ねてもらいます。執行官の都合もありますが,かなり融通を効かせてくれて,朝の7時台に訪ねてもらったこともあります。それでも留守の場合は原則としては自宅に入れませんので空振りとなってしまいます。ただし,債務者宅の開錠費用や立会人の費用(概ね1.5万円から2万円程度)を支払うことで,債務者が留守の場合でも自宅に立ち入ってくれます。もっとも,上記のとおり現実的な回収は難しいので,開錠費用や立会人費用を支払ってまで強制的に自宅に入るメリットがあるかどうかを検討する必要があります。 

また,裁判所によっては,留守だった場合でも執行官が来た旨の書面を入れてくれることもありますが,私が関与させていただいた件では,執行官は留守の場合はそのまま帰ってしまうため,インターホンに画像が残っていない限り,債務者は執行官が来たことに気づきません。とすると,留守だとあまり何の意味も無い手続ということになってしまいます。 

 

本気度を相手に認識してもらい任意の支払いを促す

 

本人が在宅している場合,執行官と直接会うこととなりますので,それなりのインパクトがあります。 

上記のとおり,多くのケースで動産執行そのものは回収することはかなり難しいと思いますが,執行官が自宅に来たことで,こちらは「本気だ」ということが伝わり,任意の返済が期待できることがあります。実際に,当事務所で関与させていただいた件でも,動産執行自体は不能でしたがその後に本人から連絡があり分割弁済で和解でき、全額回収できたケースもたくさんあります。 

 

動産執行にかかる費用 

 
申立て時に3万円から6万円程度(裁判所によって異なる)の予納金を納め,余りがあれば返金されます。これに加えて,弁護士や司法書士に依頼された場合には,代理人報酬や書類作成報酬がかかります。

執行官から聞いたところによると,留守だった場合だと2000円程度の費用がかかるそうですので,5回訪ねてもらっても1万円程度で済むことから,1度や2度留守だったとしても繰り返し自宅を訪ねてもらった方が良いかもしれません。 

 

 

ということで,手続きそのものでの回収は難しいですが,かといってまったく無駄ではなく,費用もそれほどかからないので,めぼしい財産が無い場合は動産執行の申立てをするということも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。

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