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2016年7月

7月 08 2016

法律上または事実上回収できないケース

債権回収のご相談の際に,回収の方法について説明させていただきますが,その中で回収できないケースについても説明させていただいております。

回収できないケースは大きく2つに分かれており,1つ目は「法律上回収が不可能またはほぼ不可能」なケース,2つめは「事実上回収が不可能なケース」となります。

以下,この2つについて具体例を記載いたします。

 

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法律上回収が不可能またはほぼ不可能なケース

 

日本は法治国家であるため,請求するためには法律上の根拠が必要となります。日々の生活の中で厳密に法律を意識してお金の貸し借りなどをすることはないと思いますが,多くの場合は法律も常識に沿うようにできておりますので,常識内の取引であればまず問題なく請求ができます。したがって,下記に記載しているのは,事例としてはあまり多くないケースだと思っていただいて大丈夫です。

 

(1)自己破産

言葉としてはお聞きになったことがある方が多いと思いますが,相手が自己破産をしてしまうと法的には請求ができませんし,それどころか破産した後に相手方やその家族などに支払いを求めると,犯罪になってしまうことすらあります(破産法275条)。ただ,これだけだとあっさりしすぎているので,もう少し詳しく説明いたします。

 

①相手が法人の場合

売掛金の請求や未払い賃料の回収だと相手が法人というケースがあります。法人が破産した場合,会社が消滅してしまいますので破産されてしまうとどう頑張っても回収することはできず,破産手続の中で配当があることを願うしかありません。また,会社の役員が保証人であれば別ですが,そうでなければ役員に対して会社の債務を支払うよう請求することもできません。ただし,役員としての任務懈怠等があった場合には損害賠償請求ができる場合があります(会社法423条)。

 

②相手が個人の場合

相手が個人の場合,破産をしても直ちに借金が免除されるわけではなく,免責許可を得て初めて借金が免除されることになります。

数としては極めて少ないですが,破産申し立てをしても,何らかの理由で免責が許可されない場合があります。例えば,詐欺的な借入だったり,借入理由がすべてギャンブルだったり,帳簿を改ざんしていることが発覚した場合などです(破産法252条1項)。もし,免責が不許可となった場合は支払いが免除されていませんので,法的には請求することは可能です。しかも,破産手続によって時効が中断されていますので,10年間は請求が可能です(民法152条破産法124条3項民法174条の2第1項)。

ただし,破産手続を行っているような経済状況ですので,現実的に支払い能力があるかどうかは別問題ですが・・・。

 

③免責許可後の支払い

上記のとおり,免責許可がされている方に請求すること自体が犯罪になる恐れがありますが,逆に相手方から任意の支払いをされるようであればそれを受けることは問題ありません。これは,破産手続によって貸金が消滅するのではなく,自然債務になるからだと考えられています(破産法253条1項)。

→ 自然債務とは

もし,自主的に支払っていただけるようであれば,ありがたく頂戴しましょう。

 

④破産後に支払う旨の約束

「今回破産手続はするけど,あなたの分は破産手続が終わったら必ず支払うから。」と約束をされる方がいますが,たとえ覚書等の書面が作成されていても何ら効力はありません

また,破産手続開始決定後,免責許可の前または免責許可の後に,破産債権に関して支払う約束をしたとしても上記同様に無効であると考えられています。これを認めてしまうと,改めて破産債権について訴訟等で請求できることになり,破産手続が無意味になってしまうからです。

 

(2)消滅時効が完成している場合

お金の支払いを求める権利については,一定期間請求しないと時効により消滅してしまい,請求することができなくなってしまいます。一般的な個人間の貸し借りであれば10年,家賃や売掛金等の商売に関するものであれば5年,診療報酬は3年となっていまいます。

この時効ですが,実は期間が経過しただけでは消滅せず,相手方が「時効なのでもう支払いません」という意思表示をする必要があります。これを「時効の援用」と言います(民法145条)。

ですので,時効期間が経過している債権であっても,時効の援用がされていないようであればとりあえずは請求することは可能ですし,それを受けて相手が支払ってくれるのであれば問題ありません。もっとも,相手が調べれば時効の援用のことはすぐにわかりますし,仮に相手が時効の援用に気付かない間に訴訟をしても裁判官が助け船を出すことがありますので実際に回収できることはなかなかありません。

しかしながら,なぜか当事務所では何度か支払ってもらったことがあります・・・。

 

(3)違法・不法な債権の場合

民法90条に,「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とする」と規定されており,前半部分は略して「公序良俗違反」と呼ばれています。

具体的には,麻薬や覚せい剤,拳銃などの禁制品の売買代金,違法な賭博の勝ち金,愛人契約のいわゆる「お手当」,ヤミ金からの借金などです。したがって,麻薬の売買代金を支払わない,賭博で勝ったのに払ってくれない,お手当を払ってくれない,ヤミ金の債務者が払ってくれない,という事情があったとしても,法律上無効なので請求することはできません。逆に,麻薬の買主が「覚せい剤の契約は無効だから支払ったお金を返せ」とか「愛人契約はむ無効だから今まで払ったお手当を返せ」ということもできません。これを「不法原因給付」と言います(民法708条)。ただ,愛人契約以外は公序良俗違反どころか犯罪ですので,そのような債権回収のご依頼が来るとは思えませんけどね。

なお,愛人契約に関連して,当事務所ではいわゆる水商売・風俗などのお店で働いている方への貸金についてご相談を受けることが多々あり,その中で相手方の反論として,「貸金は愛人契約を維持するためのお金であって不法原因給付だから返還義務が無い」と主張されたことがあります。一般論として,単にお客さんとしてお店に通っているだけであれば水商売等の方への貸金が愛人契約維持目的と判断される可能性は極めて低いと思いますが,状況次第では可能性がゼロではありませんのでご注意ください。

 

事実上回収が不可能またはほぼ不可能なケース

 

法律上,請求が可能だとしても,現実的に回収できないケースがあります。実際にご相談をいただくケースのほとんどが一般的な貸金であるため,法律上請求できないというケースはかなり少なく,請求を断念する場合はこちらの理由となることがほとんどです。

 

(1)相手方に資力がない場合

相手方が任意に支払ってくれれば良いのですが,そうでない場合は最終的には訴訟等を行い,強制執行をして回収することになります。しかし,強制執行をして押さえる財産がなければ事実上回収ができません。いわゆる「無い袖は振れない」ということであり,専門用語では,「手元不如意の抗弁(てもとふにょいのこうべん)」と呼んだりします。これは,債権回収に関して回収できないもっとも多い理由であり,この問題は相手方の経済事情によるため,一流弁護士さんにご依頼されたとしてもどうにもならないことが多いと思います。

ただし,預金や不動産などの資産が無くても,相手方がどこかで働いているようであれば,給与を差し押さえることで回収できる場合があります。

また,相手方自身に支払い能力が無くても,親族等に保証人になってもらい,その親族等に支払ってもらうということは考えられますが,親族は保証人になる義務はありませんので,しっかりと説明してご納得いただいたうえで保証人になっていただくことになります。

保証人については,こちらをご覧ください。→支払の担保となるもの

 

(2)相手が行方不明の場合

相手が行方不明だと連絡先がわかりませんので事実上請求をすることができません。

なお,相手が行方不明でも訴訟を行うことはできますし,証拠があれば勝訴することもできると思います。

→ 公示送達の訴訟

とはいえ,相手は裁判を起こされたこと自体知らないと思いますので任意の支払いは一切期待できず,強制執行以外での回収はできません。そして,行方不明になるような人の財産を把握することは極めて困難ですので,回収は難しいと思われます。

このようなケースで回収できるとすれば,親名義の不動産などがあり,すでに相続が発生しているものの登記が未了となっているような場合など,かなりレアなケースになると思います。

 

(3)相手が亡くなっており,相続人がいない場合

相続という制度は,家や預金などのプラスの財産だけでなく,借金などのマイナスの財産も相続することになっています。したがって,相手方が亡くなっていたとしてもその相続人に対して請求することができます

ところが,相続については家庭裁判所で「相続放棄」の手続をすることで相続人ではなかったことになり,同順位の相続人がいなければ次順位の相続人に相続権が移ります(配偶者は常に相続人)。具体的には,子どもが相続放棄をした場合は親に,親が相続放棄をした場合は兄弟姉妹に順次相続権が移っていきます。そして,兄弟姉妹も相続放棄をし,配偶者がいないまたは配偶者も相続放棄をしている場合は,相続人が不存在という状況が生じてしまいます(相続放棄を前提に説明をしてしておりますが,当初から子どもや兄弟がおらず,親はすでに亡くなっているという場合でも同じ状況は生じます。)。

このような場合,亡くなった方名義の財産があれば,相続財産管理人の選任申立てを行うことで相続財産から回収できる場合もありますが,相続放棄をされるような方に財産があるとは考えにくいため,事実上,回収が困難である場合が多いと思います。

 

いろいろとまとめてみましたが,事実上回収できない場合というのは結局は「相手方に財産が無い」ということに尽きます。そして,相手方の財産の有無は債権回収における一番重要な要素であるため,この点の検討をせずに債権回収を進めることはありえないこととなりますので,事前の情報収集が極めて重要となります。

 

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7月 05 2016

明け渡し催告と動産執行

先日,建物明け渡しに関する強制執行にに立ち合ってきました。

 

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家賃の未払い等で明け渡しをお願いする場合,強制執行の申立てをしてもすぐに出て行っていただくのではなく,概ね以下のような流れとなります。

 

強制執行の申立て

↓ およそ2週間

明け渡し催告

↓ およそ3週間

断行予定日(売却日)

↓ およそ1週間

引渡期限

↓ 2~3週間

売却日

 

つまり,順調に手続が進んだとしても,強制執行の開始から明け渡し完了まで2か月程度かかることになります。

 

(1)強制執行の申立て

明け渡し請求を認める判決が出された場合,その判決に基づき強制執行の申立てを行います。また,多くのケースで家賃の未払い分についても判決を得ていますので,その場合は未払い分の回収のために賃借人の室内にある動産を差し押さえる「動産執行」の申立ても併せて行うこともあります。この明渡+動産執行に関する裁判所へ納める費用(予納金)は9万円前後です。

なお,当事務所は司法書士事務所であるため強制執行の代理人になることはできませんので,書類作成者として関与させていただくこととなり,以降の手続においては大家さんの立会いをお願いすることとなります。

 

(2)明渡催告+動産執行

①明渡催告

強制執行の申立てをしてから2週間程度で裁判所の執行官が明渡の物件に赴き,賃借人に対して明け渡すよう催告を行います。この時には大家さんの立会が必要となりますので,事前に打ち合わせの上,執行官に来ていただくことになります。

明け渡し催告の際に行うこととしては,執行官が室内にある動産や表札,郵便物などを見て,賃借人がその部屋を使っているかどうかを確認し,特に問題がなければ賃借人に対して明け渡すよう告げ,断行予定日などが記載された催告書を手渡します

催告の際に賃借人が留守の時もありますので,その場合は合鍵で開けるか解錠業者にきてもらってドアを開けて立ち入り,上記同様,動産や表札,郵便物等で賃借人が使っていることを確認のうえ,壁に催告書を貼ることになります。さらに,公示書という書類も貼り,賃借人以外の第三者に対しても強制執行の効力が及ぶことになります。

すでに賃借人が退去しており,室内が空っぽである場合は,執行官が大家さんに引き渡して明渡手続を終了する場合もありますが,通常は多くの動産が残されている場合が多いため,専門の業者の方に来ていただき,室内の荷物の運搬費用や処分費用などの見積もりをお願いすることになります。これは業者さんによっても違いますし,室内の動産の量にもよりますが,一般的なワンルーム程度であれば10~30万円程度になることが多いと思います。

 

②動産執行

動産執行の申立てを併せて行っている場合は,執行官に財産的価値がありそうなものを差し押さえてもらうことになります。

ただ,家賃の未払いが原因で明け渡しの手続をされている方の室内に財産的価値のある動産が存在している可能性は極めて低く,加えて,動産については差押禁止財産(民事執行法131条)が多く定められていることにより,動産執行が奏功することは多くありません。雑談として執行官に聞いたところ,動産執行でうまくいったケースは10件に1件もないくらいの割合とのことであり,成功したときの動産は,骨董品,絵画,高級時計,ゴルフ用具とのことでした。

<差押禁止財産の例>

・テレビ,洗濯機,冷蔵庫などの生活家電(ただし,2台以上ある場合は,1台を残して換価できる場合あり)

・衣類,食器,布団,ベッドなど生活に必要なもの

・学習用具

・現金(ただし,66万円を超える場合は超えた分については差し押さえ可能)

・実印,日記,帳簿など

・仏像,位牌などの宗教関連

 

実際に,先日私も立ち会った件については,特に財産的価値がある動産は無く,動産執行は中止となってしまいました。

 

(3)断行

断行とは,強制的に明け渡しをさせる手続です。賃借人が拒否しても室内の動産は業者さんによって搬出されますし,賃借人自身が退去しない場合でも強制的に出て行っていただくことになります。もし,暴れたりする場合には警察の力を借りることもあります

明渡催告の時に,執行官から賃借人に対して断行予定日が知らされておりますので,その前日までに退去していただくこともありますが,荷物まできれいになくなっているということはなかなかないため,賃借人がいなくても断行は行われることが多いです。具体的には業者さんに室外に荷物を搬出して倉庫などに運んでいただき,鍵を新しいものに交換して終了となります。もっとも,特に財産的なものがないようであれば搬出せずに,室内に荷物は置いたままで断行が終わる場合もあります(いったん荷物を搬出し,保管場所として室内に戻したという扱いです。)。

この時に,室内にある動産(目的外動産)の売却がされることがありますし,2~3週間は保管し,その後に売却するということもあります。この,「目的外動産」とは,室内にあるすべての動産のことを指しており,目的「内」動産というものはありません。また,目的外動産の売却は動産執行ではありませんので,差押禁止財産のような制限はなく,生活必需品であっても関係なく売却されることになります。

 

(4)引渡期限

明渡催告の1ヶ月後が引渡期限となります。

単に「引渡期限」と書くと,この日までに退去すれば良いような感じがしますが,上記のとおり賃借人は断行日まで退去しなければなりません。では「引渡期限」とは何かというと,強制執行の有効期限だと考えていただければ良いと思います。

例えば,強制執行の手続中に,第三者が賃借人の許可を受けて占有を開始したとしても,引渡期限内であれば改めてその第三者を訴えることなく賃借人に対する強制執行で第三者も排除することができます。しかし,引渡し期限後に賃借人や第三者が占有を開始した場合には改めて訴訟を提起する必要があります。したがって,(元)賃借人に侵入されないよう,鍵の交換は必須ですね。

 

売却日

断行日に目的外動産の売却がされなかった場合には,断行日から2~3週間程度保管のうえ売却します。

もっとも,売却とは言ってもどなたかが買いに来られることはありませんので,事実上は大家さんが買い取ることになります。ただし,現実的に大家さんがお金を出すわけではなく,目的外動産の保管料と相殺することになりますので,単に目的外動産の所有権を取得するだけの手続となり,その後は大家さんの方で自由に処分していただいて強制執行は終了となります。

もちろん,(元)賃借人が売却日よりも前に引き取りに来た場合には引き取ってもらうため,売却は行われないこともあります。

 

 

ここまで書いたように,明渡の強制執行は時間がかかるうえ,何より多額のお金がかかります。強制執行を行うメリットはほとんどありませんので,何とか任意に退去していただくことを願うばかりです。

 

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