9月 18 2019
賃貸借契約における保証人に関する改正
先日,平成28年から建物明渡及び賃料請求の手続を進めていた件について,無事全額回収して終了いたしました。
この判決文に記載のある「被告ら」となっているのは,賃借人と保証人の双方を含んだ表現であり,約92万円を支払う内容になっていますが,実際には遅延損害金なども含めて保証人から150万円近く回収しております。
このように,現状では賃貸借契約についての保証人となってしまうと,契約から生じる様々な債務について際限なく負担しなければならないことになっております。大家さんとしてはその方が回収可能性が高まるので良いのですが,実はこのような保証契約に関して法律の改正が予定されております。
今日はこの点について,まとめたいと思います。
現在の規定
現在の保証に関する条文は,以下のとおりとなっております(一部抜粋)。
【民法446条】
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
【民法447条】
保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。
つまり,保証契約は書面でする必要があり,利息や違約金,損害賠償債務なども丸っと負担することになっています。
したがって,上記の判決にあるように,滞納している家賃に加えて,明渡しまでに発生する賃料相当損害金についても保証人についての支払い命令が出ています。こうすることで,例え賃借人が逃げてしまっても保証人から回収する道が残されています。もちろん,保証人にも逃げられてしまった場合には,なかなか回収は難しくなります。
改正の内容
実は民法の改正は近時たくさん行われており,つい先日も相続に関する改正がなされたばかりです。
そして,今回は債権法と呼ばれる分野の改正法が令和2年4月1日から施行されることになっております。この改正法は保証だけでなく,瑕疵担保責任から契約不適合責任などたくさん改正があるのですが,今回は賃貸借契約に関する保証の部分だけ記載いたします。
1 上限の定めのない根保証契約は無効!
根保証とは,一定の取引から生じるすべての債務について保証するというものです。一番分かりやすいのは上記のとおり賃貸借契約から生じる保証契約であり,滞納した賃料だけではなく,建物の原状回復費用や損害賠償債務なども保証することになるので,保証人としては保証契約をした時点ではどれくらいの金額を保証しているのか確定しません。
一方,例えば住宅ローンの保証人となった場合,最大でも借りた金額+利息等となりますので,ある程度保証する金額が確定します。このような通常の保証契約は今回の改正の対象には含まれておりません。
これまでと同様に,上限金額を決めないで根保証契約をした場合には根保証契約自体が無効になります。つまり,保証人が存在しない状態になるということになりますので大問題です。
ということで,根保証契約を締結する場合は,具体的な上限金額を決めなければなりません。
例えば,「100万円を限度に保証する。」,「月額家賃の10か月分(総額100万円)を限度に保証する。」などと定める必要があります。なお,法律上上限額に関して定めはありませんが,仮に「月額家賃の1万年分」などと定めてしまうと,事実上上限がないので無効になってしまう可能性があります。当然ながら裁判例などはありませんので具体的な金額は難しいのですが,最大でも月額家賃の2~3年分程度くらいにしておいた方が良いかと思います。
2 上限を超えた場合は保証が及ばない
当たり前の規定となりますが,極度額を超える金額については保証人に請求することはできません。上記の例で言うと,仮に120万円の滞納家賃があったとしても,20万円については保証人に請求できないということになります。
3 特別な事情による保証契約の終了
現行法においては,保証人が死亡した場合,保証人の相続人が保証債務を相続することになります。本件とは直接関係ありませんが,過去に当事務所では,ご自身は一度も借金をしたこともないし,誰かの保証人にもなったことがないのに自己破産の手続を進めたことがあります。これは,ご自身の父親が保証人になっており,その父親が亡くなったことから,保証債務を相続したことによるものです。
話を戻し,このように「保証人の死亡」というものは保証契約の終了事由にはなっておりませんし,金額を確定する事由にもなっておりません。
しかし改正法においては,保証人が死亡した場合,保証債務を相続することは変わりがないものの,保証する金額が死亡時点で確定することになっています。
例えば,保証人が死亡した時に,賃借人に3か月分の家賃の滞納があった場合は,保証人の相続人は3か月分の滞納家賃は支払う必要がありますが,それ以降の分については支払う義務がありません。
また,上記については,保証人の死亡のみならず賃借人の死亡にも該当します。つまり,賃借人が死亡した時に3か月分の滞納があった場合,それ以降の家賃については保証人は支払い義務を負いません。なお,勘違いしそうになりますが,賃借人が死亡した場合,賃借人の相続人が賃借権を相続することになりますので,原則として賃貸借契約はそのまま継続することになります。もっとも,上記のとおり,保証契約は賃借人の死亡時点で保証額が確定することになりますので,別途保証人の追加を求められることになると思われます。
4 賃借人の情報提供義務
事業用(店舗や事務所等)の賃貸借契約に限定されますが,賃借人は保証人に対して財産の状況や他の債務の有無などについて情報提供する義務があります。
もし,正確な情報提供をせずに保証人が保証契約を締結した場合は,保証契約を取り消される可能性があります。したがって,大家さんとしては,保証契約書の中に,「債務者が保証人に対して適切な情報提供を行い,保証人は当該情報提供に納得した上で保証契約を締結した」というような文言を入れておくべきだと思います。
なお,保証人が会社(例えば,家賃保証会社など)の場合には適用されません。
5 経過措置
上記の改正法は,施行日(令和2年4月1日)時点で有効な契約については,従前のままとなります。したがって,現在契約中のものについて契約書を作り直す必要はありません。しかし,一般的には契約は数年に一度更新の時期を向かえますので,その時に上記のような改正法を踏まえた契約書に変更しておかないと,保証契約が無効になるなど大変なことになってしまう恐れがありますので注意が必要です。