5月 09 2017
定期建物賃貸借契約
これまでに何度か記載しておりますが,現在の法律ではアパートなどの賃貸借契約においては借主の保護が図られており,軽微な契約違反では強制的に退去させることはできません。
また,賃貸借契約の期間の多くは2年となっておりますが,例え2年の契約期間が満了したとしても,それなりの理由が無い限り契約を終わらせることができないようになっています。
そこで,それを解決する手段として,定期建物賃貸借契約をお勧めしております。先日,強制的に退去させられるほどの事由はないけど,近い将来に退去していただくことで話し合いがまとまり,定期建物賃貸借契約を締結しましたので,この契約に関する注意点などをまとめたいと思います。
定期建物賃貸借契約とは
文字どおり,決まった期間で賃貸借契約が終了するものとなっており,契約の更新がありません。ただし,改めて契約を締結することはできますので,契約期間が満了しても再契約をすることで事実上更新したのと同じように住み続けていただくことも可能です。
その他,通常の賃貸借契約と異なるのは次のとおりです。
①1年未満の賃貸借契約も可能。
→通常の賃貸借契約だと,1年未満の契約は期間の定めのない賃貸借契約となります。
②借主からの中途解約の特例
→通常の賃貸借契約だと,借主からの中途解約は契約の特約によります。例えば,「退去予定日の1か月前に貸主に通知すれば解約できる」などです。定期建物賃貸借契約でも同じような特約があればそれに従いますが,仮にそのような特約が無かったとしても,転勤や介護などのやむを得ない事情があれば中途解約できることとなっております(借地借家法38条5項)。なお,このやむを得ない事由による中途解約をできないようにする特約は無効となります。
③借賃増減額請求ができない
→通常の賃貸借契約だと,周辺の相場と大きく相違する場合などに貸主または借主が家賃の増減を請求することができますが,定期建物賃貸借契約において互いに家賃の増減を請求することができない旨の特約を設けることで増減額請求を排除することができます。
定期建物賃貸借契約の要件
通常の賃貸借契約と異なる契約であるため,定期建物賃貸借契約を締結し,その効力を生じさせるためにはいくつかの要件を満たす必要があります。
①公正証書による等書面による締結
→「公正証書による等書面」というあまり聞かない用語が出てきますが,端的に言えば書面による契約が必要(口約束は不可)ということになります。
②契約書の中に「契約の更新が無い」旨を記載
→契約の更新が無いことを契約書に書いておかないと当然通常の賃貸借契約になってしまいます。
③契約の更新がないことの説明が必要
→上記②のとおり,契約書の中に更新がないことが書いてあるのは当然ですが,それに加えて契約の更新がないことを説明し,その旨を記載した書面を契約書とは別に渡す必要があります。
④契約終了前の通知が必要
→契約期間が1年以上の場合は,契約が満了する半年前から1年前までの間に,「○月○日をもって契約が終了します」という通知書を送付する必要があります。契約期間が1年未満の場合は通知は不要です。
法的な契約終了と明渡の強制は別
上記のとおり,定期建物賃貸借契約を締結し,各種の要件を満たすことで契約満了をもって明け渡しを請求することができます。ただし,あくまで法的に明け渡しを請求できるだけであって,契約期間満了後に賃借人が任意に明け渡さない場合は訴訟や強制執行が必要となる可能性はありますのでご注意ください(契約終了と同時に勝手に鍵を変えるなどの強硬手段は執れません。)。