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1月 16 2026

「地面師事件で司法書士逮捕」の解説

新年早々、司法書士業界を揺るがす悪い意味での大事件が起きてしまいました。

 

以下、報道されている記事を引用いたします。

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大阪・キタの住宅と土地の所有者の代理人らになりすまし、不正に登記を書き換えたとして、大阪府警は14日、司法書士の男(34)ら2人を電磁的公正証書原本不実記録・同供用などの疑いで逮捕した。捜査関係者への取材でわかった。所有者の実際の代理人弁護士によると、この不動産は登記が書き換えられた後、第三者に売りに出されていたとみられる。司法書士の男らが所有者らになりすまして不動産を売買する「地面師」の手口で、金をだまし取ろうとしていた可能性がある。他に逮捕されたのは、不動産会社「ネットラチェック」(解散、三重県桑名市)元代表の男(33)。捜査関係者によると、司法書士の男らは共謀。昨年1月頃、法務局に対し、大阪市北区の住宅と土地について、所有者の男性がネットラチェックに売却し、所有権が移転されたとする虚偽の申請をし、不正に登記した疑い。

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以上引用終わり

読売新聞オンライン( https://www.yomiuri.co.jp/national/20260114-GYT1T00378/ )2026年1月15日閲覧

 

今回は、報道されている範囲でのこの事件の概要及び一体何が起こったのかを解説してまいります。

 

 

1 事件の概要

(1)登場人物・不動産

Aさん→80代男性で甲土地の所有者

M司法書士→登記申請の代理人司法書士

ネット社→三重県内の不動産会社

→ネット社の代表者

甲土地→Aさんが所有する大阪市内の土地

 

※M司法書士は事件への関与を否定しておりますので、実名での記載は控えております。

 

(2)時系列

【時期不明】

M司法書士とK、その他の人物が共謀してAさんの運転免許証を偽造したうえで、Aさんの住所変更をし、印鑑証明書を不正取得(印鑑証明書自体は役所発行の本物)

【令和7年1月】

甲土地についてAさんからネット社への所有権移転登記申請についてM司法書士が代理人として申請し、登記完了。

【令和7年3月】

甲土地について、Aさんが仮処分の申し立て(事実上、ネット社が甲土地を第三者に売却できなくなる。)

【令和7年5月】

Aさんがネット社を相手に訴訟を提起し、甲土地の名義がAさんに戻る

【令和8年1月】

M司法書士とKが逮捕

 

2 登記手続に必要な書類

本件に限らず、土地の名義変更を行うにあたり、所有者側の必要な書類は下記のとおりです。

 

①いわゆる権利書(登記識別情報通知・登記済証)

不動産を取得した際に発行される書類であり、20年ほど前からパスワードが記載された登記識別情報通知という書類が発行されておりますが、それよりも前は登記済証という和紙のような紙に赤の大きなハンコで「登記済」と押印されている書類が発行されていました。本件では2回の相続に分けて相続により不動産を取得されていらっしゃるようなので2通の権利書があるはずです。

不動産の所有者しか持っていないはずの権利書を提出させることで所有者本人が手続に関与していることを証明します。

なお、紛失したとしても再発行されない書類です。

 

②印鑑証明書

発行から3か月以内のものが必要です。上記の権利書と同様に所有者本人であることを証明するための1つの資料として提出いたします。

 

③ご実印

上記印鑑証明書の印影として登録されているハンコです。

 

④ご本人確認のためのマイナンバーカード(または運転免許証)

登記手続そのものには必要ありませんが、司法書士の本人確認として必要になります。

 

3 通常の地面師事件の場合

地面師事件は、売主さんに成りすました地面師グループが、仲介業者、買主さん、登記手続を行う司法書士を騙して買主さんから売買代金を騙し取ることを目的とた事件です。

司法書士は、不動産取引に立ち会う際には地面師事件に巻き込まれないよう、上記①~④について確認し、売主さんに質問して「売主さんご本人であるか」、「本当に売却の意思があるか」などもあわせて確認します。

地面師事件においては、売主さんが別人であることは当然として、①~④の書類についてすべて本物が揃っているということは通常はありませんので、理屈の上ではどこかで気づくチャンスがあります。

 

①権利書

基本的には所有者が所有している書類であり、再発行されない書類でもあるため、地面師グループが本人から盗んでいない限り、本物を持っていることは通常は考えられません

上記のとおり現在の登記識別情報通知についてはパスワードになっているため、パスワードが分からなければ偽造する意味がないのですが、それよりも前に発行された登記済証の場合は精巧に偽造されている登記済証が使われていました

 

ここで重要なのが、権利書が無い場合において司法書士が売主さん本人であることを確認した場合は、権利書が無くても登記申請が受理されるという特例があります。この書類のことを「本人確認情報」といいます。本人確認情報は権利書の代わりになるような強い効力がある書類であるため、万が一、司法書士が虚偽の本人確認情報を作成した場合は刑事罰が科されますし、当然ながら損害賠償の対象にもなります。

地面師側としては、売主さん本人であることになりすまして司法書士に本人確認情報を作成させるというのが地面師側としては詐欺を成功される一番大きなハードルと言っても過言ではないと思います。

 

②印鑑証明書

印鑑証明書については、偽造する場合と、本人になりすまして役所から不正取得する方法の2つがあります。

ドラマ「地面師」の元となった積水ハウスの事件では、犯人側は印鑑証明書を偽造し、司法書士は騙せたものの、法務局が偽造に気づき登記申請は却下されました。

一方、本人になりすまして印鑑証明書を不正取得された場合は、その書類自体は本物であるため司法書士も法務局も見抜くことは不可能です。

 

③ご実印

こちらの偽造をそれほど難易度は高くなく、上記印鑑証明書の印影と同じハンコを作れば良いだけなので、現在の3Dプリンタの性能であれば作成は可能かと思います。

 

④ご本人確認のためのマイナンバーカード(または運転免許証)

こちらも印鑑証明書と同様に、偽造する場合と本人になりすまして不正取得する方法の2つがあります。

現在、マイナンバーカードや運転免許証にはICチップが内蔵されていますので、私どもが確認させていただく際は券面を確認するだけではなくスマホのアプリを使ってICチップの読み取りも行っています。ただ、マイナンバーカードはパスワードが無くても読み取りができるのですが、運転免許証の場合はご自身がパスワードを覚えていないと読み取りができないようになっているため、可能な限りマイナンバーカードをご準備いただけると幸いです。

とはいえ、そもそも本人になりすまして不正取得されたものである場合は、上記の印鑑証明書と同様に見抜くことは不可能です。

 

以上の次第で、通常の地面師事件では、①権利書の偽造ができないようであれば司法書士を騙して本人確認情報を作成させ、②印鑑証明書を不正取得するか精巧に偽造する、というのが詐欺を行う上でのキモとなります。司法書士の立場としては、書類が偽造されていればその痕跡を見つけたり、所有者の本人確認に際して話に矛盾がないかなどで見抜くことになります。

なお、私自身は幸いにして地面師事件に巻き込まれたことがないため、実際に偽造された書類を見たり、所有者になりすました人に会ったことはありません。

 

4 今回の事件の場合(あくまで報道内容を前提とした場合)

M司法書士は関与を否定しておりますので、下記について事実かどうかは不明です。ここでは、報道されているようにM司法書士が地面師グループだった場合という仮定での解説となります。

 

①権利書

上記のとおり、司法書士を騙して本人確認情報を作成させるというのが大きなハードルですが、そもそもM司法書士が地面師グループなのであれば何もハードルはありません

 

②印鑑証明書

偽造した運転免許証を基に印鑑証明書を不正取得しているため、本物の印鑑証明書となりますので、法務局も見抜くことは不可能です。

 

③ご実印

上記印鑑証明書を基に偽造すれば良いため、ハードルは高くないと思います。

 

④ご本人確認のためのマイナンバーカード(または運転免許証)

運転免許証を偽造したようです。ただ、司法書士が地面師グループだった場合はスルーするため特に問題とはなりません

 

仮に司法書士が地面師グループだった場合、事件のキモは②印鑑証明書を不正取得できるかどうか、の1点になります。もしこの事件が未遂で終わっていた可能性があるとすれば、印鑑証明書を不正取得する際に役所の窓口の方が運転免許証が偽造であるかどうかを見抜けたかどうかになります。手続上、法務局に提出された書類はすべて本物であるため、法務局が見抜くことは極めて困難です。あり得るとすれば、司法書士が作成した本人確認情報が不自然だったり、添付された運転免許証のコピーに明らかな偽造の形跡があるような場合くらいかと思います。

 

5 事件の不自然な点

この事件を聞いたときに、いろいろと不思議に思った点があります。

 

1 ネット社に名義変更後に買主を探している

通常の地面師事件の場合、買主さんからお金を払ってもらった時点で犯人側として目的を達成しており、実際のところは司法書士さえ騙せていればその時点で売買代金はもらえるので、その後に法務局まで騙せて登記が受理されるかどうかはあまり大きな問題ではありません。

今回の場合、不動産の名義がAさん→ネット社に変更されていますが、この時点ではネット社は単に不動産の名義を取得しただけでお金を取得したわけではありません。このあとネット社が買主を見つけたうえで売買代金を受領して初めて詐欺の目的を達成することになります。今回の事件では、あらかじめ買主さんを探しておくことをせず、いったんネット社に名義変更をしてから買主を探しており、そんなことをしている間にAさんが甲土地の名義がネット社に変更されていることに気付いたため、仮処分→訴訟という手続を踏んでAさんが自己名義に戻しており、Aさんとして不動産を失わずに済みました。地面師事件としてはかなり杜撰であると思います。

 

2 絶対にバレる

通常の地面師は売買代金の受領さえできれば良いので、その後に何が起ころうとも基本的には関係ありません。売買に際しては当然ながら本名を名乗っていることもないでしょうし、表面化していないだけで最後まで逃げ切った地面師もいることでしょう。

一方、司法書士はその後も司法書士として仕事をしていくわけであり、本人確認情報を作成する以上、司法書士であることを証明する必要があるため偽名を使って登記申請をすることもできません。

M司法書士は、自身も騙されただけの被害者であると主張されているので現時点では真実は分かりませんが、仮に地面師グループだとしたら絶対に捕まるのになぜこんなことをするのか不思議でなりません。強いて言えば、今後生活に困らないくらいの多額の報酬をもらっており、司法書士の資格を捨てて海外に逃亡する予定だったということであれば理解できなくもないですが、M司法書士は普通に生活していたようですので恐らく将来の生活が困らないレベルの多額の報酬をもらったという事実ははないでしょう。

 

6 地面師事件を防ぐためには

現在の制度上、完全に無くすことは難しいと思います。例えば、権利書や印鑑証明書について所有者の自宅から盗んできており、しかも司法書士に依頼せずにいわゆる本人申請を行った場合は、誰も本人確認をしませんし書類としてはすべて本物ですので法務局が不正な登記を防ぐことは不可能です。

ただ、下記を行うことができれば、少しかもしれませんがその被害を減らすことは可能かと思います。

 

(1)本人確認情報作成時のICチップの読み取り必須化

司法書士が本人確認情報を作成する場合、原則としてご本人確認のためのマイナンバーカードまたは運転免許証を確認します。少なくても令和8年1月時点において、券面の偽造はあってもICチップまで偽造されたという情報はありません。とすると、ICチップの読み取りを必須にすれば偽造されたマイナンバーカード等で本人確認情報を作成することはありません。

もっとも、司法書士自身が地面師グループだった場合は意味がないです。

 

(2)役所窓口でのICチップ読み取り必須化

近年は印鑑証明書の偽造も難しくなっているので、本人になりすまして役所から印鑑証明書を不正取得するケースが多くなっております。不正取得された印鑑証明書自体は本物ですので、いったん発行されてしまうと本物として流通してしまいます。そこで、役所の窓口でもICチップまで確認した本人確認が徹底されれば不正取得の件数は圧倒的に減ると思います。

もっとも、マイナンバーカードや運転免許証それ自体を本人になりすまして不正取得されてしまうと見抜くことはできませんし、登記申請の件数とは比較にならない件数の印鑑証明書の請求があると思いますので、役所の窓口業務が大変なことになるのは想像に難くなく現実的ではないのかもしれません。

 

(3)事前登録型本人通知制度

役所にてご本人以外の第三者が住民票や印鑑証明書を取得した場合、役所いから、「いつ」、「何の証明書を」、「何通」、「代理人または第三者」が取得したかを通知してくれる制度です。

これ自体では特に何も地面師事件を防ぐ効力はありませんが、まったく身に覚えがない場合においては察知するきっかけになりえます。

→ 本人通知等制度(名古屋市)

 

(4)不正登記防止申出

法務局に事前に申請しておくことで、申請対象となった不動産に対する登記申請が出された場合に、所有者に対して通知が出されるとともに、内容に疑義がある場合は法務局は申請人に対して調査を行う制度です。権利書を紛失した場合などに限定されるため、単に第三者が住民票を取得したという事実だけでは難しいと思いますが、知っておいて損は無いと思います。

ただし、有効期限が3か月であるため、完璧に防ごうとすると3か月ごとに申請をしなければならないというのが手間かと思います。

→ 「登記識別情報を紛失したのですが,どうしたらよいのですか?」(PDF)

 

7 最後に

権利書が無い場合、基本的には司法書士の本人確認情報を作成すれば良いという前提で記載しておりますが、実はそれ以外の方法もあります。とはいえ、不動産取引においては事実上、本人確認情報以外の選択肢が取りにくい状況にあるため、過去の司法書士が築いてきた信頼を基に本人確認情報という制度が誕生しました。

M司法書士は否定しているため現時点では真実は不明ですが、仮にM司法書士が地面師グループだった場合はこの先人が築いてきた信頼を根底から覆すような大変な事件であり、制度自体が大きく改正される可能性もあろうかと思います。

私どもとしては、この信頼を再び得られるよう日々業務を進めてまいります。


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