11月 06 2015
貸金回収の実例(前編)
長きにわたる貸金の回収が無事終わりました。
本当にいろいろすんなりいかないことが多く,途中はどうなることかと思いましたが,無事全額回収することができましたのでどのような手続を踏んだのかまとめてみたいと思います。
ただし,法的な観点と無関係なところはフィクションを入れております。
前提事情
ご依頼をお受けしたのはもう2年ほど前になります。相手は中小企業であるA社の社長Bさんでしたが,資金繰りがあまりうまくいっておらず友人や知人にBさんが個人的に借り入れをしているようで,依頼者の方も同様にA社ではなくBさん個人に貸付けをしていました。また,簡単なものではありますが借用書もありました。
A社は社長であるBさん個人が友人や知人から借り入れをしているくらいですので,役員報酬もほぼ全額を会社に対する貸付金として処理しているようでした(実質的には役員報酬ゼロ)。また,預貯金はほぼ無さそうでしたし,その他に差押えができそうな資産はこちらではわからない状況でした。したがって,仮に法的手続を進めたとしても差し押さえられる財産は給与(役員報酬)くらいとなりますが,そもそもA社の社長がBさんな訳ですからA社相手に給与を差し押さえ手続をしても,それすら無視されるであろうことは容易に予想できる状況でした。
以上から,法的手続を進めても時間も費用もかかるうえ,実効性が薄いので可能な限り任意の交渉で回収すべく動くことになりました。
受任通知及び交渉
まず,借用書に記載された住所にBさんが今も住んでいるのかを確認するため住民票を取得しましたが,変更は無かったのでBさん個人に受任した旨と返済を求める旨の通知書を送りました。ところが,実際は転居しており返送されてきてしまいました。会社の代表者(代表取締役・有限会社の場合は取締役)については,会社の登記簿にも住所の記載がありますので,念のためA社の登記簿を取得しましたが住民票の住所と同じ住所であったため,やむなくA社宛に再送付しました。
こちらについては問題なく配達され,到着後2週間ほど待ちましたが残念ながらまったく回答はありませんでした。また,こちらからA社に連絡をしましたが,従業員の方に折り返しをお願いしても一度も連絡はありませんでした。
訴訟提起
上記のとおり,差し押さえができそうな財産が給与しかなかったため訴訟をしても費用倒れになる可能性はありましたが,訴訟を起こすことでBさんが裁判所に出頭することも考えられるので,どちらかと言うと判決を取るためというよりも話し合いをしたいということで訴訟を起こしました。この点,調停という選択肢もありましたが,それまでの対応を考えると調停を無視される可能性が高く,無視された場合は時間も費用も無駄になってしまうため,訴訟を選択しました。
なお,Bさんの住所は住民票上の住所しかわからないので,被告の住所は住民票上の住所を記載し,送達先として会社の住所を記載しました(住民票上の住所には住んでいない旨の上申書も提出しています。)。
訴訟の期日及び判決
無事,会社宛に送達され訴訟の期日を迎えましたが,Bさんは出頭せず,かつ反論の書面を出さなかったため数日後に判決となりました。
相手が出頭せず,かつ反論の書面を出されない場合,「擬制自白」といってこちらの主張をすべて認めたことになります(民事訴訟法159条)。そうすると,証拠は必要ありませんし,まず間違いなく勝訴判決が出ることになります。実は,借用書の記載だけでは不十分なところがあったので,本気で反論されたときに備えてメールやLINEを証拠として出す準備もしていたのですがすべて不要となりました。
そして,数日後,無事勝訴判決が出ました。
再度の交渉と次の手続
判決には仮執行宣言が付いていたので,すぐに強制執行を行うこともできましたが,まずは話し合いを優先し,判決が確定したのを確認してから話し合いを求める手紙を送りました。
本来,強制執行を行うためには判決が確定しなければなりませんが,判決が確定する前に「仮」に強制「執行」をすることを認める「宣言」が付いている場合には判決確定前に強制執行の手続を行うことができます。また,判決確定を待ったのは,判決確定前に交渉をして難航したときに,万が一控訴されると時間も費用もかかってしまうため,判決確定まで待つこととしました。
しかしながら,これに対する回答は無かったため,やむなく強制執行の手続に進むこととなりました。
長くなったので,「貸金回収の実例(後編)」に続きます。