11月 20 2015
貸金請求でよくあるご質問
法律を扱うものとしては,当たり前だと思っていることでも一般の方の中にはかなり誤解されていることがたくさんあり,ここ数日同じようなご質問をいただいたのでまとめてみます。
親兄弟,その他の親族に請求することはできません
よく貸金請求の際に,「本人に払ってもらえなかったら親に払ってもらえますよね?」とご質問いただくことがありますが,残念ながら例え親兄弟であっても別人格ですので,本人以外の人に請求することはできません。
ただし,以下の場合には請求することができます。
① 保証人になっている場合
親兄弟が貸金について保証人になっているのであれば,親兄弟として請求するのではなく,保証人として請求することができます。
② 本人が亡くなっている場合
借主本人が亡くなっている場合は,その相続人に対してであれば請求することはできます。この点,相続人が相続放棄をしていると支払義務はありませんので結果としては請求できませんが,そのようなことは外部にはわかりませんので,とりあえず請求してみることになります。
③ 日常家事債務の場合
借金の理由が日常家事に該当する場合は,配偶者に請求できる場合があります。
借用書の有効性
個人間の貸金の場合,非常にざっくりとした借用書を取っていることがありますが,その借用書の有効性についてかなり心配されている方が多いように思います。
実は,借用書が無効であるケースがそんなに多くなく,概ね有効な借用書になっていると思います。ただし,借用書が無効ではないことと証拠の証拠力の問題はまったく別問題ですので,借用書があれば必ず訴訟に勝てるというとそうでもありません。
以下,よくご質問いただく点を記載いたします。
① 収入印紙が貼っていない
借用書は印紙税法の「消費貸借に関する契約書」に該当しますので,金額に応じて収入印紙を貼付する必要があります。
しかしながら,印紙が貼っていないことと契約書の有効性には関係ありませんので,収入印紙が貼っていなくてもその借用書は有効です。
正直なところ,私は個人間の借用書で収入印紙が貼ってあるものを見たことはありません・・・。このような借用書でも当然裁判の証拠として提出していますし,その借用書を根拠に何度も勝訴しています。
とはいえ,印紙を貼るのは法的な義務ですし,もし印紙を貼らないまま税務署に見つかると本来納める額の3倍を納めなければなりませんので,必ず借用書には収入印紙を貼りましょう。
② 印鑑がない,または拇印である
日本社会において,印鑑,特に実印は重要視されていますので,書類にはご捺印いただいた方が良いですが署名があれば問題ありません。もちろん,署名+実印でのご捺印であれば借用書の成立に争いがある場合でもかなり有利になると思いますので,ご捺印いただくに越したことはありませんが,ご捺印いただくことによって契約が有効になるわけではありませんので,ご捺印が必須という訳ではありません。
なお,拇印については,実印同様,唯一無二の印影(?)であるため,指紋の鑑定などを行えば本人が関与したことの証明になるとは思いますが,拇印をもらうよりは署名の方が良いと思います。なお,拇印があることによるデメリットはありませんので,例え拇印であってももらえるのであればもらっておいた方が良いと思います。
③ 貸付の日ではない日に借用書を作成してもらった
借用書は,必ず貸付の日に作成しなければならないという決まりはありませんので,事後的にもらっても問題ありません。
借金があることを認めた上で分割で支払う場合などにおいては,「債務承認弁済契約書」という契約書を作成するくらいですので,事後的に書類をいただくというのはよくあることです。
督促しないまま訴訟
これは貸主というよりは借主の質問としてよく聞かれるお話ですが,督促をまったくしていない,もしくはあまりしていない状況で訴訟を起こした場合に「まったく交渉していないのに訴えるなんておかしい」と言われることがあります。
期限が到来しているのであれば,法律上当然に支払義務があるのであり,督促して交渉することは義務ではありません。したがって,期限到来後したのであれば一切督促せずに訴えることはできますし,保証人などに請求することもできます。ただ,むやみに訴えるのは訴訟が必要でないケースでも訴訟をしてしまうことになるので,事前の督促は法律上の義務ではないものの,やはり事前に督促はした方が良いと思います。当事務所でも,いきなり訴訟を起こすことはなく,必ず事前に書面で通知をして回答が無い場合や回答があっても交渉がまとまらないときに初めて訴訟を提起しています。
公正証書で作れば必ず回収できる
正確には,「金銭の支払いを求める内容の執行認諾文言付公正証書」であれば,裁判をすることなく強制執行ができますので,万が一延滞があったときには迅速に執行手続に進むことができますし,公正証書で作成したことそれ自体の効果として延滞が少なくなるということはあるかと思います。
しかし,最終的に強制執行ができるだけであって,相手にまったく財産がなければ強制執行で差し押さえる財産も無いので,公正証書であっても回収できないことは多々あります。
預金口座はずっと差し押さえられる
強制執行をする場合,一番多いと思われるものが金融機関の預金口座を差し押さえる方法です。給与の場合は,給与を支払うべき会社が協力してくれないケースもありますが,金融機関が協力してくれないということはあり得ませんので,口座にお金さえ入っていれば確実に回収することができます。
預金を差し押さえた場合,差し押さえることができるのは,その瞬間に口座に入っている預金のみであって,差し押さえ後に入金されたものについては対象となりません。
この点,給与振込口座を押さえれば自動的に口座に入金される給与の全額回収できると思われている方がいらっしゃいましたが,そのような回収はできません・・・。
したがって,預金口座を差し押さえる場合は,口座にお金が入っていそうな日を狙って申立てをすることになります。
ということで,また新たなご質問ありましたら随時更新していきたいと思います。