9月 27 2013
借金と詐欺
借りるときには「絶対に迷惑かけないから大丈夫!」と言われ,返済を督促すると「○○日にまとまったお金が入る予定があるからもうちょっと待って」と言われたものの,まったく返済されない。
こんな場合,「詐欺だ!!」と思われるかと思います。
実際に,当事務所でも返済されない方について詐欺罪での刑事告訴の手続を進めたことがあります(司法書士は検察庁に,行政書士は警察署に提出する告訴状をそれぞれ作成することができます。)。
しかし,「返済しない=詐欺罪(刑法246条)」になるのではなく,例外的な場合に限って詐欺罪が適用されるに過ぎませんので,正直なところなかなかハードルが高いのも事実です。
詐欺かどうかは借りる時点で決まる
基本的に問題になるのは返済が滞っているタイミングだと思いますが,実は詐欺になるかどうかは返済のタイミングではなく借りるタイミングが重要です。
詐欺罪というのは,端的に言えば相手を騙して財産を受け取ることです。借金の場面に当てはめると,「返すつもりが無いのに適当な理由を言って借金をした」となると,その借りた時点で詐欺罪が成立します。
なので,その後に借金を返済したかどうかは実は関係ありませんので詐欺罪は成立しています。ただし,借金が返済されたのであれば,現実的に誰にも被害が無いので問題になることは通常はありません。
ポイントは「返すつもりがないのに」
最初から返す意思がないのに借りたということが重要なので,最初は返す意思があったけどその後の理由(職を失ったなど)により借金が返済できなくなったという場合には詐欺罪は成立しません。「迷惑はかけないから」という発言と比べると,結果としては確かに騙していることになるのですが,騙そうとして騙しているわけではないので詐欺ではないわけですね。
返済の時点での詐欺もある
ということで,基本的には借金の返済をしないことそれ自体は詐欺ではなく,あくまで最初から騙すつもり(返済しないつもり)で借金したのでなければ詐欺罪は成立しませんが,借金返済の時点で詐欺罪が成立することがあります。それは詐欺利得罪(いわゆる二項詐欺)です。
この詐欺利得罪というのは,通常の詐欺罪と異なり,相手を騙して何らかの財産(物)を受け取るのではなく,何らかの利益を得た場合に適用されるものです。
借金をするときには返す意思があったものの,返済の時点でお金がなく払えなくなってしまった場合には,上記の通り詐欺罪は成立しません。しかし,返済時点になって「実は,父親がガンになったからその手術代を支払わなければならない。本当に申し訳ないんだけど返済ができなくなってしまった。」という嘘をつき,相手が「そういう事情ならしょうがないね。もう返済はいいよ。」となったとします。そうすると,借金をした人は相手を騙して返済義務を免れるという利益を得ています。この場合は,詐欺利得罪が成立いたします。
それでもなかなか難しい
実は,当事務所で関与した事件も詐欺利得罪の成立に関するものです。
というのは,通常の詐欺罪はあくまで借金をする時点での話なので,本当は返すつもりがあったのかなかったのかということを後になって立証するのは極めて難しいですが,返済の時点での嘘だと調べれば大体嘘かどうかはすぐわかりますし,すでにその時点では借金をした方について不信の目で見ていますので,録音等によって証拠を集めることができるからです。
こういった証拠がバッチリ揃っていたので詐欺利得罪での告訴を進めていましたが,担当の警察官によっても見解が異なり,なかなか告訴状の受理まで進まないのが実情です。
受理され,捜査まで進むと効果は大きい
借金の返済について,相手を騙すような人なので,そのような方は大概お金を持っていません,
しかし,告訴が受理され,もし逮捕,勾留まで行った場合,多くのケースで相手は示談を持ちかけてきます。示談が成立することによって,起訴を免れたり,もし起訴されても執行猶予が付くなど有利に作用するからです。とすると,相手がお金を持っていなくても,相手の周りの人が支払ってくれることがあります。
ただし,これは諸刃の剣でもあります。周りの人がお金を持っていて返済してくれるのであれば良いのですが,そのような方がいない場合,本人は逮捕,勾留などにより職を失ってしまうこともありますので,ますます返済に窮することが考えられ,最悪の場合は自己破産の申立てをされる可能性もあるためです。そのような恐れがある場合は,例え詐欺罪が成立しそうでも,告訴はしない方が回収の可能性は高くなると思います。なので,この点をしっかり見極めるために,相手の状況を綿密に調べてから行動しなければなりません。
ということで,借金の返済をしないこと自体は詐欺罪にならない可能性もありますし,仮に成立したとしても逆に回収可能性が低くなることがありますが,場合によってはうまく行くこともありますので,可能な限り証拠は残しておいた方が良いと思います。