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7月 25th, 2018

7月 25 2018

二段の推定

「二段の推定」というのは,民事訴訟における書類の作成に関する論点であり,民事訴訟法の勉強をすると出てくるテーマなのですが,先日,実際にこの点が争点になった訴訟がありましたので,今後の備忘も兼ねてまとめておきたいと思います。

 

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その書類は真意に沿って作成されたもの?

 

今はインターネット社会であるため,通販などであればクリック一つで物が買えてしまうため,契約書等の書類に署名をしたり押印することはありません。また,コンビニでの買い物や自動販売機での購入など,必ずしも契約する際に書類に署名等をするわけではありません

しかしながら,不動産の売買だったり,住宅ローンの契約だったり,大きなお金が動く契約に関しては,やはり契約書に署名し,実印を押印することがあろうかと思います。

何もトラブルがなければ契約書が問題になることはないのですが,契約後に何らかの問題が起こった時には,その契約書の内容によって処理されることとなりますが,その前提としてその時に作成された契約書が偽造されたものではなく当事者が正式に作成したものでなければなりません。

と,言葉で説明するだけだと簡単なのですが,この「偽造されたものではなく当事者によって正式に作成された書面である」ということを証明するのは実はなかなか難しいです。

例えば,筆跡が似ているなどある程度は推定できるかと思いますが,筆跡を似せるプロが書いた偽物かもしれません。また,契約書に署名等をするときの状況を録画するということも考えられますが,今の技術だとそれすらも編集などでどうにかできてしまいそうです。さらに,印鑑に至っては誰が押印しても同じ印影となりますので,ますます本人が関与したのかどうか分からないということも考えられます。

 

このように,「偽造されたものではなく正式に作成された書面である」ということを確定させるのは実際のところは難しいのですが,すべての取引においてこれを言い出すと社会が回っていかないのもまた事実です。

そこで,法律ではある程度画一的に判断することとなっています。

 

民事訴訟法の規定と事実上の推定

 

文書が真正に成立(作成)されたかどうかに関する条文としては以下のものがあります。

民事訴訟法228条4項 → 「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」

 

ここで言うところの「署名又は押印」は,当然ながら本人の意思に基づいてなされたものでなければなりません。

署名の場合は,自分の手で書いているので本人の意思が無いということは考えにくいのですが,押印の場合は,すでに名前が印字してある(記名がある)契約書に第三者が勝手に押印することということも考えられ,このような場合には「本人の意思に基づいた」とは言えません。したがって,押印については,ご本人が押印したか,ご本人の了承のもと第三者が押印していなければならず,書類が本物(真正に成立した)だと主張する人は,本人の意思に基づいて押印されたことを立証しなければならないのですが,現実的には大変です。

 

ところが,判例により,押印されている印鑑の印影が本人の印鑑のものである場合には,本人の意思に基づいて押印されたものであると推定されることになっています(最判昭和39年5月12日)。

 

以上により,本人の印影が捺印がされた書類については,次の二段階によって真正に成立したものと推定されることになります。

 

一段目

・本人の印鑑が押印してある → 本人の意思のもとに押印されたものと推定する。

 

二段目

・本人の意思のもとに押印された書類がある → 民事訴訟法228条4項の規定により,文書が真正に作成されたものであると推定される。

 

となり,結果としては,本人の印鑑が押印してあれば「偽造されたものではなく正式に作成された書面である」という推定を受けることになります。

なお,「本人の印鑑である」ということを確実かつ容易に立証する方法は,実印+印鑑証明書のセットです。これにより役所が本人の印鑑であることを証明してくれますが,仮に認印だったとしても,基本的には本人が押印したものであると推定してくれます。

 

これはある意味恐ろしい話で,例え認印だとしても,ご自身がいつも使っている印鑑を盗まれてしまった場合,自身のまったく関知しないところで契約書に押印されているかもしれません。

もっとも,あくまで法律上の規定は「推定する」となっているため,反証を出すことで覆すことができます。例えば,契約書に署名等をしたとされる日は海外にいたことをパスポートなどで証明したり,まさに筆跡鑑定でご自身の字ではないことを立証することも考えられます。

とはいえ,あらぬ紛争に巻き込まれかねませんので,印鑑,特に実印については大切に保管されますようお気を付けください。

 

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