10月 24 2018
欠席判決=勝訴ではない
先日,弁護士さんの懲戒請求に絡んだ損害賠償請求で,被告(懲戒請求者)が敗訴したという記事がありました。
この記事に対して,「欠席判決だから意味が無い」というようなコメントがあるようです。確かに,欠席判決の場合は,被告の主張を聞かずに判断され,極めて高い確率で原告勝訴となりますが,意味が無いというものではありません。今回の訴訟は懲戒請求が不法行為に該当するかどうかの訴訟であるため,意味が無いどころかかなり影響があるものだと思います。
ということで,私は上記の懲戒請求とはあまり関係ないのですが,今回は欠席判決全般についてまとめてみたいと思います。
1 通常訴訟の流れ
訴えが提起されると,裁判所から被告に対して訴状等の関係書類が送付されてきます。送付された書類の中には2つの重要な期日が書いてあり,1つが答弁書提出期限,2つ目が口頭弁論期日です。
答弁書とは,被告側の初回の反論の書面のことであり,「被告の請求を棄却する。との判決を求める。」だったり,「原告から借りたお金は○月○日に返済した。」など,その理由を記載することになります。
通常,答弁書提出期限は口頭弁論期日の1週間程度前が設定されており,口頭弁論期日にとりあえずの原告と被告の主張が出て,審理が始まることになります。
この答弁書提出期限はあくまで目安であり,遅れたとしても特にペナルティはありませんが,答弁書を提出せず,口頭弁論期日に欠席してしまうと後述のとおり不利益がありますので,なにはともあれ出した方が良い書類です。
次に,口頭弁論期日というのは,いわゆる「裁判の日」であり,裁判所に出廷する日時となります。
2回目以降の期日は当事者と裁判所が打ち合わせをして決めるのですが,初回の期日に関しては被告の予定は関係なく一方的に決められてしまいます。そこで,これに対する救済措置として,事前に上記の答弁書を提出しておけば,口頭弁論期日には出廷しなくても良いことになっています(民事訴訟法158条)。
2 答弁書を提出せず口頭弁論期日で反論しなかった場合
被告が,答弁書に反論内容を記載して口頭弁論期日を欠席したり,逆に答弁書は提出していないけど,口頭弁論期日に出て口頭で反論した場合,その場で判決できるような特殊な事情が無い限りとりあえず裁判は続行することになります。
逆に,被告が答弁書で請求をすべて認めるような記載をして口頭弁論期日を欠席した場合や口頭弁論期日に出て請求を認めるような発言をした場合,特に争うことがありませんので裁判所は判決することができます。もちろん,被告が出廷しているのであれば和解協議が行われることも多いと思います。
では,被告が答弁書を提出せず,しかも口頭弁論期日に出廷しなかった場合はどうなるのでしょうか。
この場合,被告の真の意思は分からないのですが,法律的には裁判所は原告の主張を認めることになっています(民事訴訟法159条)。これを法律的には擬制自白と呼んでいます。
例えば,原告が「被告に対して100万円を貸した。」という主張をしている場合,擬制自白が成立することによって,裁判所は借用書や通帳など一切の証拠無しに100万円貸したことを認めて良いことになっています。
したがって,擬制自白が成立する以上,原告が勝訴する可能性が極めて高くなり,このような判決のことを俗に欠席判決と呼んでいます。
3 擬制自白に含まれるものと含まれないもの
擬制自白=原告勝訴になりそうですが,実は擬制自白の制度は事実認定にしか及ばないとされています(民事訴訟法179条)。
「事実」というのは「100万円を貸した」,「被告に殴られた」というようなものを指します。
これに対し,法律の解釈・適用や事実の評価などは対象外となります。
例えば,親である原告が子である被告に対して,「子が成人したら,子は親に対して毎月10万円支払うのが健全な社会だ!」と裁判所に訴えを提起し,子が何ら反論をしなかったとしても原告の主張は認められません。なぜなら,「子が成人したら親に対して10万円ずつ支払う」という法律が無いからです。
これは極端な例ですが,実際に擬制自白が成立しても法律の解釈・適用により原告が敗訴した実例があります。
上記の裁判例は,通販会社である原告が,被告に対して代金の請求をしている事件ですが,被告に擬制自白が成立しているものの,裁判所はクーリングオフが適用されるとして原告敗訴の判決をしています。
また,とある事実が認定されたとしても,それが法律上の不法行為に該当するかどうかは裁判所が判断することになりますし,慰謝料も裁判所が決めます。
例えば,隣家の騒音がうるさくて精神上の損害を受けたとして被告を訴え,被告が答弁書を提出せず口頭弁論期日を欠席して擬制自白が成立したとしても,あくまで「隣家から音が出ている」という事実について擬制自白が成立するだけで,それが不法行為とされるほどの音量ではない場合(受忍限度の範囲内)には原告敗訴の判決が出ることになります。同様に,「平手打ちをされてけがをした」ということで1億円の損害賠償請求をし,被告の欠席等により擬制自白が成立したとしても,「被告が平手打ちをした」という事実について擬制自白が成立するだけで「慰謝料1億円」まで及ぶものではありませんので,被告が欠席したとしても慰謝料として1億円も認められることはあり得ません。
あくまで「事実」についてしか擬制自白は成立せず,騒音が不法行為に該当するか,平手打ちで受けた損害(慰謝料等)の評価額などは裁判所が決めることになります。。
4 まとめ
冒頭の懲戒請求事件について,「被告が懲戒請求をした」ということは擬制自白で認定されると思いますが,その懲戒請求が不法行為に該当するものなのか,仮に該当するとしても慰謝料がいくらになるのかは,例え擬制自白が成立したとしても,ちゃんと裁判所は判断しています。仮に被告が行った懲戒請求が不法行為に該当するようなものではなかったと裁判所が判断したのであれば,擬制自白が成立していたとしても原告敗訴の判決がなされたはずですが,原告勝訴の判決が出ていますので,懲戒請求は違法なものだったいうことになります。
ただ,まだ判決が出たばかりですので,控訴・上告がされれば結論が変わる可能性もあります。
なお,公示送達に関する記事でも説明しておりますが,送達が公示送達だった場合には擬制自白は成立しません。
公示送達は,裁判所の掲示板に呼出状が貼られるものであり,現実的に被告は裁判を起こされていることを知るよしもありませんので,そんな中で被告欠席による擬制自白を認めることはあまりにも酷であることから,原告は証拠による立証が必要となります。
ただ,普通は証拠を踏まえたうえで訴訟を起こしていますので,公示送達でも原告勝訴になることがほとんどだと思います。