7月 05 2016
明け渡し催告と動産執行
先日,建物明け渡しに関する強制執行にに立ち合ってきました。
家賃の未払い等で明け渡しをお願いする場合,強制執行の申立てをしてもすぐに出て行っていただくのではなく,概ね以下のような流れとなります。
強制執行の申立て
↓ およそ2週間
明け渡し催告
↓ およそ3週間
断行予定日(売却日)
↓ およそ1週間
引渡期限
↓ 2~3週間
売却日
つまり,順調に手続が進んだとしても,強制執行の開始から明け渡し完了まで2か月程度かかることになります。
(1)強制執行の申立て
明け渡し請求を認める判決が出された場合,その判決に基づき強制執行の申立てを行います。また,多くのケースで家賃の未払い分についても判決を得ていますので,その場合は未払い分の回収のために賃借人の室内にある動産を差し押さえる「動産執行」の申立ても併せて行うこともあります。この明渡+動産執行に関する裁判所へ納める費用(予納金)は9万円前後です。
なお,当事務所は司法書士事務所であるため強制執行の代理人になることはできませんので,書類作成者として関与させていただくこととなり,以降の手続においては大家さんの立会いをお願いすることとなります。
(2)明渡催告+動産執行
①明渡催告
強制執行の申立てをしてから2週間程度で裁判所の執行官が明渡の物件に赴き,賃借人に対して明け渡すよう催告を行います。この時には大家さんの立会が必要となりますので,事前に打ち合わせの上,執行官に来ていただくことになります。
明け渡し催告の際に行うこととしては,執行官が室内にある動産や表札,郵便物などを見て,賃借人がその部屋を使っているかどうかを確認し,特に問題がなければ賃借人に対して明け渡すよう告げ,断行予定日などが記載された催告書を手渡します。
催告の際に賃借人が留守の時もありますので,その場合は合鍵で開けるか解錠業者にきてもらってドアを開けて立ち入り,上記同様,動産や表札,郵便物等で賃借人が使っていることを確認のうえ,壁に催告書を貼ることになります。さらに,公示書という書類も貼り,賃借人以外の第三者に対しても強制執行の効力が及ぶことになります。
すでに賃借人が退去しており,室内が空っぽである場合は,執行官が大家さんに引き渡して明渡手続を終了する場合もありますが,通常は多くの動産が残されている場合が多いため,専門の業者の方に来ていただき,室内の荷物の運搬費用や処分費用などの見積もりをお願いすることになります。これは業者さんによっても違いますし,室内の動産の量にもよりますが,一般的なワンルーム程度であれば10~30万円程度になることが多いと思います。
②動産執行
動産執行の申立てを併せて行っている場合は,執行官に財産的価値がありそうなものを差し押さえてもらうことになります。
ただ,家賃の未払いが原因で明け渡しの手続をされている方の室内に財産的価値のある動産が存在している可能性は極めて低く,加えて,動産については差押禁止財産(民事執行法131条)が多く定められていることにより,動産執行が奏功することは多くありません。雑談として執行官に聞いたところ,動産執行でうまくいったケースは10件に1件もないくらいの割合とのことであり,成功したときの動産は,骨董品,絵画,高級時計,ゴルフ用具とのことでした。
<差押禁止財産の例>
・テレビ,洗濯機,冷蔵庫などの生活家電(ただし,2台以上ある場合は,1台を残して換価できる場合あり)
・衣類,食器,布団,ベッドなど生活に必要なもの
・学習用具
・現金(ただし,66万円を超える場合は超えた分については差し押さえ可能)
・実印,日記,帳簿など
・仏像,位牌などの宗教関連
実際に,先日私も立ち会った件については,特に財産的価値がある動産は無く,動産執行は中止となってしまいました。
(3)断行
断行とは,強制的に明け渡しをさせる手続です。賃借人が拒否しても室内の動産は業者さんによって搬出されますし,賃借人自身が退去しない場合でも強制的に出て行っていただくことになります。もし,暴れたりする場合には警察の力を借りることもあります。
明渡催告の時に,執行官から賃借人に対して断行予定日が知らされておりますので,その前日までに退去していただくこともありますが,荷物まできれいになくなっているということはなかなかないため,賃借人がいなくても断行は行われることが多いです。具体的には業者さんに室外に荷物を搬出して倉庫などに運んでいただき,鍵を新しいものに交換して終了となります。もっとも,特に財産的なものがないようであれば搬出せずに,室内に荷物は置いたままで断行が終わる場合もあります(いったん荷物を搬出し,保管場所として室内に戻したという扱いです。)。
この時に,室内にある動産(目的外動産)の売却がされることがありますし,2~3週間は保管し,その後に売却するということもあります。この,「目的外動産」とは,室内にあるすべての動産のことを指しており,目的「内」動産というものはありません。また,目的外動産の売却は動産執行ではありませんので,差押禁止財産のような制限はなく,生活必需品であっても関係なく売却されることになります。
(4)引渡期限
明渡催告の1ヶ月後が引渡期限となります。
単に「引渡期限」と書くと,この日までに退去すれば良いような感じがしますが,上記のとおり賃借人は断行日まで退去しなければなりません。では「引渡期限」とは何かというと,強制執行の有効期限だと考えていただければ良いと思います。
例えば,強制執行の手続中に,第三者が賃借人の許可を受けて占有を開始したとしても,引渡期限内であれば改めてその第三者を訴えることなく賃借人に対する強制執行で第三者も排除することができます。しかし,引渡し期限後に賃借人や第三者が占有を開始した場合には改めて訴訟を提起する必要があります。したがって,(元)賃借人に侵入されないよう,鍵の交換は必須ですね。
売却日
断行日に目的外動産の売却がされなかった場合には,断行日から2~3週間程度保管のうえ売却します。
もっとも,売却とは言ってもどなたかが買いに来られることはありませんので,事実上は大家さんが買い取ることになります。ただし,現実的に大家さんがお金を出すわけではなく,目的外動産の保管料と相殺することになりますので,単に目的外動産の所有権を取得するだけの手続となり,その後は大家さんの方で自由に処分していただいて強制執行は終了となります。
もちろん,(元)賃借人が売却日よりも前に引き取りに来た場合には引き取ってもらうため,売却は行われないこともあります。
ここまで書いたように,明渡の強制執行は時間がかかるうえ,何より多額のお金がかかります。強制執行を行うメリットはほとんどありませんので,何とか任意に退去していただくことを願うばかりです。