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家賃滞納

5月 09 2017

定期建物賃貸借契約

これまでに何度か記載しておりますが,現在の法律ではアパートなどの賃貸借契約においては借主の保護が図られており,軽微な契約違反では強制的に退去させることはできません

また,賃貸借契約の期間の多くは2年となっておりますが,例え2年の契約期間が満了したとしても,それなりの理由が無い限り契約を終わらせることができないようになっています。

そこで,それを解決する手段として,定期建物賃貸借契約をお勧めしております。先日,強制的に退去させられるほどの事由はないけど,近い将来に退去していただくことで話し合いがまとまり,定期建物賃貸借契約を締結しましたので,この契約に関する注意点などをまとめたいと思います。

 

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定期建物賃貸借契約とは

 

文字どおり,決まった期間で賃貸借契約が終了するものとなっており,契約の更新がありません。ただし,改めて契約を締結することはできますので,契約期間が満了しても再契約をすることで事実上更新したのと同じように住み続けていただくことも可能です。

その他,通常の賃貸借契約と異なるのは次のとおりです。

①1年未満の賃貸借契約も可能。

→通常の賃貸借契約だと,1年未満の契約は期間の定めのない賃貸借契約となります。

 

②借主からの中途解約の特例

→通常の賃貸借契約だと,借主からの中途解約は契約の特約によります。例えば,「退去予定日の1か月前に貸主に通知すれば解約できる」などです。定期建物賃貸借契約でも同じような特約があればそれに従いますが,仮にそのような特約が無かったとしても,転勤や介護などのやむを得ない事情があれば中途解約できることとなっております(借地借家法38条5項)。なお,このやむを得ない事由による中途解約をできないようにする特約は無効となります。

 

③借賃増減額請求ができない

→通常の賃貸借契約だと,周辺の相場と大きく相違する場合などに貸主または借主が家賃の増減を請求することができますが,定期建物賃貸借契約において互いに家賃の増減を請求することができない旨の特約を設けることで増減額請求を排除することができます。

 

定期建物賃貸借契約の要件

 

通常の賃貸借契約と異なる契約であるため,定期建物賃貸借契約を締結し,その効力を生じさせるためにはいくつかの要件を満たす必要があります。

①公正証書による等書面による締結

→「公正証書による等書面」というあまり聞かない用語が出てきますが,端的に言えば書面による契約が必要(口約束は不可)ということになります。

 

②契約書の中に「契約の更新が無い」旨を記載

→契約の更新が無いことを契約書に書いておかないと当然通常の賃貸借契約になってしまいます。

 

③契約の更新がないことの説明が必要

→上記②のとおり,契約書の中に更新がないことが書いてあるのは当然ですが,それに加えて契約の更新がないことを説明し,その旨を記載した書面を契約書とは別に渡す必要があります。

 

④契約終了前の通知が必要

→契約期間が1年以上の場合は,契約が満了する半年前から1年前までの間に,「○月○日をもって契約が終了します」という通知書を送付する必要があります。契約期間が1年未満の場合は通知は不要です。

 

法的な契約終了と明渡の強制は別

 

上記のとおり,定期建物賃貸借契約を締結し,各種の要件を満たすことで契約満了をもって明け渡しを請求することができます。ただし,あくまで法的に明け渡しを請求できるだけであって,契約期間満了後に賃借人が任意に明け渡さない場合は訴訟や強制執行が必要となる可能性はありますのでご注意ください(契約終了と同時に勝手に鍵を変えるなどの強硬手段は執れません。)。

 

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11月 29 2016

1年がかりの土地建物明渡事件

およそ1年かかりましたが,土地建物明渡事件が終了いたしました(ただし,賃料回収については継続中)。

途中で想定外のことが起こるなど,なかなか大変でしたが,顛末をまとめてみたいと思います。なお,事件の特定を避けるため,一部フィクションも含まれています。

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ご依頼内容

 

アパートの家賃及びアパートに隣接している駐車場の駐車料金についてたびたび支払いが遅れており,すでに2年分以上溜まっているので,この未払い賃料の回収及び明渡のご依頼をお受けいたしました。

司法書士の代理権は140万円以下と定められており,明渡事件については,土地と建物の固定資産評価額をもって算出することになっておりますが,土地については評価額を1/4にした金額,建物については1/2にした金額で計算することとなりますので,一軒家であれば難しいケースがあるものの,アパートの一室であれば司法書士でも対応できる場合が多いと思います。なお,未払い賃料の金額は含めなくても良いこととなっておりますので,極論を言えば,1000万円の家賃を滞納していても代理人として請求できることになります。

今回ご依頼いただいたアパートの場合,駐車場全体としては数千万円の評価額でしたが,ご依頼いただいた区画だけで計算すると数十万円程度であり,建物に関してはかなり古い建物で評価額自体は数万円程度であってたため,司法書士でもまったく問題なく代理人として対応できる金額でした。また,未払い賃料は合計すると100万円程度となりますが,上記のとおり,未払い賃料は含めない取り扱いであるため特に問題ありませんでした。

 

督促及び解除の通知

 

内容証明郵便で,賃借人及び保証人に対して,未払い賃料の請求(支払催告)及び支払いが無い場合は解除する旨の通知を致しました。本件賃貸借契約には催告は不要との特約がありましたが,争点を増やす意味は無いので,法律の規定どおり催告をしました。書類を送付した数日後に賃借人から回答があり,「今後一切支払うつもりはない。」とのことでしたので,話し合いによる解決は不可能であると判断し,訴訟を提起いたしました。

 

訴訟期日及び判決

 

訴訟の期日には,賃借人及び保証人が出廷したため,裁判所内で司法委員を交えて和解協議を行うこととなりました。ただ,賃借人は恐らくお酒に酔っていると思われるような状況であまり会話ができず,さらには裁判所の書記官や私に加えて,その場にいない大家さんを「刺して自分も死ぬ。」などという発言があったため,和解などできるはずもなく判決となり,勝訴いたしました。

 

任意の話し合い及び関係各所との調整

 

判決が出て確定したことにより,すぐにでも強制執行ができるような状況ではありましたが,以下の理由により,任意の話し合いを続け,すぐに強制執行の申立てをすることはありませんでした。

・訴訟提起後から,「包丁で刺す」,「首を吊って死ぬ」など危険な発言が相次いでいたため,強制執行まで進むと何をするかわからないような状況にあると考えられたため,まずは穏便に話し合いを進めたいという大家さんの意向があった。

 

・賃借人の危険な発言を踏まえて,大家さんの警備の問題や脅迫についての告訴について警察と相談が必要だった。

※明け渡しに関しては,このような事件の報道もありました(強制執行の恐怖

 

・賃借人が比較的高齢であったため,強制執行を進めても執行が完了しない可能性があったため,退去後の賃借人の住居について市役所の福祉課等との相談が必要だった(強制執行の手続を進めても,賃借人が病気でまったく動けないなどの理由がある場合は強制執行を進められない場合があります。)。

 

上記のうち,警察についてはかなり協力的であり,告訴をすれば逮捕できるような状況ではあるし,話し合いに行く際は同行してくれるとの署長さんからの回答も得られました。ちなみに,告訴をすれば逮捕できると回答をいただいた決め手は,私と保証人と賃借人と三者で話し合いをした際にも「殺す」などの発言をされており,それを録音していたことによります(結果として私は告訴はしないまま終わっております。)。

次に,市役所についてですが,こちらは協力的ではありませんでした。というのは,あくまで市役所は本人やその親族からの援助の要請があって初めて動けるのであり,私は賃借人からすれば親族でもない他人であり,しかも明渡に関しては対立当事者の代理人であるわけですから,やはり動けないとのことでした。市役所の立場としてはやむを得ないと思います。

 

なお,保証人との間では,毎月一定額を支払う内容で和解が成立いたしました。

 

強制執行の申立て

 

何度か話し合いを試みたものの任意での明け渡しに応じことは考えられなかったため,大家さんの意向で強制執行の申立てを行いました(当事務所は書類作成として関与していますので,すべてにおいて大家さんにも立ち会っていただいております。)。

執行手続での懸案事項としては,

(1)断行(強制的に追い出す手続)までいった場合に素直に出ていくとは考えられないため,改めて警察との調整。

(2)自動車を含めた大量の残置物の処分費用

の2つがありました。

(1)については,上記のとおり警察は事前に連絡すればこちらの要望どおりに対応してもらえるとのことであり,(2)については,自動車は中古車販売店に「価値なし」との査定書を出してもらい,別の業者に無料で引き取ってもらえましたので,その他の残置物の処分費用だけですみました。ちなみに,自動車の価値があると判断された場合は,「自動車執行」の手続を執る必要があるため,別途数十万円の費用がかかってしまいます。

 

明渡催告~断行~目的外動産の処分

 

明け渡しの強制執行の流れとしては,まずは任意に明け渡しよう「明渡催告」をし,その約1ヶ月後までに退去されない場合は強制的に追い出す「断行」を行い,その2週間~1ヶ月の間に室内にある動産(目的外動産)の競り売りをして終了となり,すべての手続に裁判所の執行官が立ち会います。

上記のとおり,賃借人の状況についても執行官に事前に知らせており,執行官も警察との連携をしていたのですが,明渡催告の前日に賃借人が何らかの理由により警察に拘束されていました・・・。これは完全に想定外でした。

したがって,賃借人不在のまますべての手続が進んだため,紆余曲折ありましたが執行手続に入ってからはスムーズに進み,残置物の処分をして明け渡し手続は終了となりました。ただ,未払い賃料に関しては,保証人から支払われているため,もうしばらく続くこととなります。

 

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10月 03 2016

強制執行の恐怖

先日,横浜で強制執行の際に入居者が逮捕されるという事件が発生しました。

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以下,東京新聞(http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201609/CK2016091502000185.html)の記事を引用します。

 

十四日午後三時ごろ、横浜市南区永田みなみ台の都市再生機構(UR)「南永田団地」で、「男が包丁を持って立てこもった」と、立ち退きの強制執行に訪れた横浜地裁の執行官から一一〇番があった。約三時間後の午後五時五十分ごろ、県警捜査一課の捜査員が部屋に突入し、公務執行妨害の疑いで、この部屋に住む自称無職檀上(だんじょう)政樹容疑者(53)を現行犯逮捕した。

捜査一課などによると、人質はなく、けが人はなかった。檀上容疑者は家賃を滞納していたという。執行官らが玄関をノックしたが応じないため隣室のベランダを伝い、窓を割って入ろうとすると、檀上容疑者は「これ以上来ると爆破するぞ」などと言い、刃物を突きつけてきたという。

逮捕容疑では、同日午後二時五十分ごろ、強制執行しようとした執行官に刃物を見せるなどして公務を妨害したとされる。容疑を認めているという。現場は、京急本線井土ケ谷駅から西に約一キロの住宅街。十二棟が並ぶ団地の一角で、檀上容疑者の部屋は九階建ての三階部分。玄関から捜査員が約三時間にわたって説得を続けた。団地には規制線が張られ、帰宅できない住民ら五十人ほどが周囲の広場や道路から様子を見守った。檀上容疑者と同じ棟に住む女性会社員(72)は「六月ごろから裁判所の人が来ていたようだが、お金がないと言っていた」と話した。

 

引用終わり

 

現在進めている建物明け渡しの交渉の際に,入居者から「お前を刺して,俺はここで首を吊る。」と言われたことがありますので,警察に依頼して,強制執行の際には立ち会いをお願いいたしました。

幸い(?)強制執行当日(催告期日)には入居者本人は不在でしたので警察官の出番はありませんでしたが,立ち会っていただく大家さんや裁判所の執行官の身の安全が大事ですので,上記のようなことにならないよう今後も念には念を入れて対処していかなければならないと肝に銘じた事件でした。


8月 04 2016

建物明渡しの実例

先日,建物明け渡しが完了しましたので,手続の流れを記載いたします。こちらをご覧いただければ,大まかな流れをご理解いただけると思います。なお,手続上重要ではないところについては,万が一の特定を避けるためフィクションが入っております。

 

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1 事案

ご相談いただいたのは,単身者用のアパートで数年に渡って家賃を滞納されており,また日中は常に不在にしているため大家さんも1年以上お会いできていないという方の家賃回収及び明渡しでした。

すでに滞納家賃だけで数百万円をオーバーしており,かつ,相手の方の勤務先等の情報が一切なく家賃を回収できるとは思えない状況でしたので,家賃の回収というよりは早期の明渡しを進めて少しでも損害を減らすということをメインにご依頼いただきました。

 

2 解除の通知(1月上旬)

家賃を滞納しているからといって直ちに明け渡しを求めることはできず,明け渡し請求の前提として賃貸借契約を解除しなければなりません。

賃貸借契約の解除は賃借人の生活の本拠を奪うことになるため,簡単には解除はできないことになっております。とはいえ,今回に関してはすでに数年に渡って滞納しているので,解除については問題ない事案でした。

解除の基準の詳細についてはこちらをご覧ください。 → 賃料未払いの場合の解除の基準

 

また,解除の通知は相手方に届く必要があり,訴訟手続においても届いたことを立証する必要がありますので,通常は内容証明郵便(配達証明付)で送付しますが,これに加えて特定記録でも同内容の書面を送付します。これは,相手方が日中常に留守にしているとのことでしたので内容証明郵便を受け取らないということも十分考えられることから,内容証明ほどの証明力は無いものの,とりあえずいつ相手の住所に配達された(受取ではなくあくまで配達)ことは証明できるからです。

 

3 訴訟提起~判決(2月下旬)

通知には2週間以内に連絡が無ければ訴訟をする旨の記載をしておりましたが,予想どおり連絡はありませんでした。なお,内容証明郵便はやはり不在で返送されてきてしまい,特定郵便だけ配達されていました。

そこで,賃貸借契約書や特定記録の追跡記録などを証拠に訴訟提起しましたが,相手は裁判所から送付される訴状についても受け取りませんでした。訴訟手続は,相手が書類を受け取らないと進められないため,書類の受領(送達)というのは実はかなり大事なことです。とはいえ,住んでいるにもかかわらず受け取らないということを理由に訴訟が進められないというのは不当であるため,相手が間違いなくそこに住んでいるということを立証すれば,現実的に相手が受け取らなくても受け取ったものとして進めるという制度があります。これを「書留郵便に付する送達(付郵便送達)」と言います。

送達についてはこちらをご覧ください。→ 想いよ届け!【書類の送達】

 

今回,相手方は日中は常に不在にしており,しかも自宅の電気も止められているような状態でしたので,電気メーターや部屋の灯りで居住していることを立証することはできませんでしたが,移動に自動車を使っていましたので,深夜と早朝に駐車場を撮影し,自動車の移動状況で住んでいることを立証しました。厳密には,あくまで自動車の移動であって当該部屋に住んでいることの立証ではないのですが,裁判所はこれでOKとのことでした。

結局,裁判の期日に相手方が出廷することはなく,無事,明渡及び家賃数百万円の支払いを命じる勝訴判決が出ました

 

なお,司法書士は140万円を超える請求について代理することができませんが,明渡しと滞納家賃の支払いを求める訴訟の場合は,明け渡しを求める部屋の価値で判断し,家賃の金額は関係ない取り扱いになっています。そして,明け渡しを求める部屋の算定に当たっては,固定資産課税評価額の半額となっておりますので,当該部屋の評価額が280万円以下であれば仮に滞納家賃が1億円だったとしても司法書士が代理することができます

今回は昭和時代のアパートでしたので,部屋の評価額は数十万円であるのに対し,数年分の滞納家賃として数百万円の家賃を求める訴訟でしたが,問題なく私が代理人として訴訟手続しております。

 

4 再度の通知(3月中旬)

強制執行となるとかなりの費用がかかるため,判決に基づき任意の明け渡しを求める通知書を送付し,回答を待ちましたが連絡はありませんでした。

 

5 警察による安否確認(4月中旬)

2か月程度,日中どころか深夜の出入りすら無いような感じであり,かつ,暑くなってきて異臭もするようになったため,最悪の事態も考えて大家さんが警察に安否確認を依頼しました。警察官が中に入ったところ,留守でしたが製造日が新しいパンのごみがありましたので,どうやらまったく人目に付かない時間帯に出入りをされているであろうことがわかりました(異臭は弁当などの残飯でした。)。とりあえず,中で亡くなっていなくてホッとしました。

※この安否確認はたまたま行ったものであり,明渡手続において必要な手続ではありません。

 

6 明渡し及び動産執行の申立て(5月上旬)

まったく連絡が取れないため任意の明け渡しが期待できないことから,明渡し及び室内の動産を差し押さえる動産執行の申立てをしました。なお,訴訟手続と異なり,強制執行に関しては,司法書士は書類の作成はできるものの代理人にはなれないため,強制執行の際には大家さんに立ち会っていただく必要があります。

 

7 明渡催告と動産執行(6月下旬)

 

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本来であればもう少し早く明渡催告ができたはずなのですが,執行官と大家さんとの都合が合わず,申立てから1か月半ほどで明渡催告となりました。

この明渡催告は,対象の部屋に裁判所の執行官が赴き,期限を切って退去するよう催告をするものです。室内に相手方がいれば書類を交付しますが,いない場合は玄関などに貼られてしまい,とても人目について恥ずかしいと思います。

また,この時に,任意に明け渡さない場合に備えて室内の荷物の搬出や処分をしてもらう業者さんに見積もりのために来てもらいます。この業者さんは裁判所に登録(?)されている業者さんから選ぶことができますし,知り合いの業者さんがいればその方にご依頼されても構いません。今回は,過去に大家さんが明渡しで依頼したことがある業者さんがいましたので,この業者さんに来ていただきました。外からでも大量の荷物があるであろうことがわかるくらいの状況でしたので搬出や処分の費用で40~50万円程度かかることも予想できましたが,大家さんの馴染みの業者ということもあり半額以下の見積もりでした。その時に立ち会った執行官もかなり安いということを仰っていたので,明渡における業者さんの選定は重要ですね

なお,鍵がかかっている室内に立ち入るために解錠業者に依頼することもありますが,今回は大家さんが合鍵を持っていましたので解錠業者の費用はかかりませんでした。

 

さらに同時に申し立てていた動産執行については,室内に換価できそうなものはなく,残念ながら動産執行は中止となりました。

 

8 断行(7月下旬)

明け渡し催告から1か月弱の日を断行日と指定され,その前日までに明け渡すよう催告がされていましたが,任意の明け渡しはされませんでした。

そこで,再び執行官に来ていただき断行を行います。断行とは,問答無用で退去させたり室内の荷物などを搬出することとなりますが,その時も留守でしたので荷物だけを搬出することになります。また,断行後に相手が室内に入ってしまうと改めて訴訟からやり直さなければならなくなるため,入れないよう鍵を交換します。

なお,荷物はあくまで入居者のものですので,確実にゴミであるものを除いて勝手に処分をすることはできません。そこで,一定期間室内の物は倉庫などで保管しておき,それでも相手が引き取らない場合は売却することになりますが,事実上大家さんが買い取ることとなりますので,大家さんに買い取っていただいたうえで,業者さんに処分してもらって終了となります。もっとも,大家さんが買い取るとは言っても実際にお金を支払うのではなく,相手に対する債権と相殺処理することになります。

 

9 トータルの費用

今回,私は結局一度も相手の方にお会いするどころか話をすることもできませんでしたので,残念ですが滞納家賃についてはまったく回収できておりません。

したがって,滞納家賃回収の成功報酬はゼロ円でしたが,訴訟手続や強制執行の書類作成報酬などの当事務所の報酬に加えて,裁判所に支払う予納金,荷物搬出の業者さんの搬出処分費用や鍵の交換の費用などの実費もすべて含めると,合計で70万円くらいの費用がかかっております。家賃が回収できれば費用に充当することもできますが,多くのケースでほとんど家賃の回収はできませんので,家賃の回収を図るよりも早期に明け渡しを進めていただく方が結果として損失を減らすことができます。

また,今回は相手の方と最後まで連絡つきませんでしたが,断行まで行ってしまうと大きな費用がかかってしまいますので,可能な限り断行に行く前の時点で,幾ばくかのお金を支払ってでも任意に退去していただくことがベストだと思います。

 

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7月 05 2016

明け渡し催告と動産執行

先日,建物明け渡しに関する強制執行にに立ち合ってきました。

 

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家賃の未払い等で明け渡しをお願いする場合,強制執行の申立てをしてもすぐに出て行っていただくのではなく,概ね以下のような流れとなります。

 

強制執行の申立て

↓ およそ2週間

明け渡し催告

↓ およそ3週間

断行予定日(売却日)

↓ およそ1週間

引渡期限

↓ 2~3週間

売却日

 

つまり,順調に手続が進んだとしても,強制執行の開始から明け渡し完了まで2か月程度かかることになります。

 

(1)強制執行の申立て

明け渡し請求を認める判決が出された場合,その判決に基づき強制執行の申立てを行います。また,多くのケースで家賃の未払い分についても判決を得ていますので,その場合は未払い分の回収のために賃借人の室内にある動産を差し押さえる「動産執行」の申立ても併せて行うこともあります。この明渡+動産執行に関する裁判所へ納める費用(予納金)は9万円前後です。

なお,当事務所は司法書士事務所であるため強制執行の代理人になることはできませんので,書類作成者として関与させていただくこととなり,以降の手続においては大家さんの立会いをお願いすることとなります。

 

(2)明渡催告+動産執行

①明渡催告

強制執行の申立てをしてから2週間程度で裁判所の執行官が明渡の物件に赴き,賃借人に対して明け渡すよう催告を行います。この時には大家さんの立会が必要となりますので,事前に打ち合わせの上,執行官に来ていただくことになります。

明け渡し催告の際に行うこととしては,執行官が室内にある動産や表札,郵便物などを見て,賃借人がその部屋を使っているかどうかを確認し,特に問題がなければ賃借人に対して明け渡すよう告げ,断行予定日などが記載された催告書を手渡します

催告の際に賃借人が留守の時もありますので,その場合は合鍵で開けるか解錠業者にきてもらってドアを開けて立ち入り,上記同様,動産や表札,郵便物等で賃借人が使っていることを確認のうえ,壁に催告書を貼ることになります。さらに,公示書という書類も貼り,賃借人以外の第三者に対しても強制執行の効力が及ぶことになります。

すでに賃借人が退去しており,室内が空っぽである場合は,執行官が大家さんに引き渡して明渡手続を終了する場合もありますが,通常は多くの動産が残されている場合が多いため,専門の業者の方に来ていただき,室内の荷物の運搬費用や処分費用などの見積もりをお願いすることになります。これは業者さんによっても違いますし,室内の動産の量にもよりますが,一般的なワンルーム程度であれば10~30万円程度になることが多いと思います。

 

②動産執行

動産執行の申立てを併せて行っている場合は,執行官に財産的価値がありそうなものを差し押さえてもらうことになります。

ただ,家賃の未払いが原因で明け渡しの手続をされている方の室内に財産的価値のある動産が存在している可能性は極めて低く,加えて,動産については差押禁止財産(民事執行法131条)が多く定められていることにより,動産執行が奏功することは多くありません。雑談として執行官に聞いたところ,動産執行でうまくいったケースは10件に1件もないくらいの割合とのことであり,成功したときの動産は,骨董品,絵画,高級時計,ゴルフ用具とのことでした。

<差押禁止財産の例>

・テレビ,洗濯機,冷蔵庫などの生活家電(ただし,2台以上ある場合は,1台を残して換価できる場合あり)

・衣類,食器,布団,ベッドなど生活に必要なもの

・学習用具

・現金(ただし,66万円を超える場合は超えた分については差し押さえ可能)

・実印,日記,帳簿など

・仏像,位牌などの宗教関連

 

実際に,先日私も立ち会った件については,特に財産的価値がある動産は無く,動産執行は中止となってしまいました。

 

(3)断行

断行とは,強制的に明け渡しをさせる手続です。賃借人が拒否しても室内の動産は業者さんによって搬出されますし,賃借人自身が退去しない場合でも強制的に出て行っていただくことになります。もし,暴れたりする場合には警察の力を借りることもあります

明渡催告の時に,執行官から賃借人に対して断行予定日が知らされておりますので,その前日までに退去していただくこともありますが,荷物まできれいになくなっているということはなかなかないため,賃借人がいなくても断行は行われることが多いです。具体的には業者さんに室外に荷物を搬出して倉庫などに運んでいただき,鍵を新しいものに交換して終了となります。もっとも,特に財産的なものがないようであれば搬出せずに,室内に荷物は置いたままで断行が終わる場合もあります(いったん荷物を搬出し,保管場所として室内に戻したという扱いです。)。

この時に,室内にある動産(目的外動産)の売却がされることがありますし,2~3週間は保管し,その後に売却するということもあります。この,「目的外動産」とは,室内にあるすべての動産のことを指しており,目的「内」動産というものはありません。また,目的外動産の売却は動産執行ではありませんので,差押禁止財産のような制限はなく,生活必需品であっても関係なく売却されることになります。

 

(4)引渡期限

明渡催告の1ヶ月後が引渡期限となります。

単に「引渡期限」と書くと,この日までに退去すれば良いような感じがしますが,上記のとおり賃借人は断行日まで退去しなければなりません。では「引渡期限」とは何かというと,強制執行の有効期限だと考えていただければ良いと思います。

例えば,強制執行の手続中に,第三者が賃借人の許可を受けて占有を開始したとしても,引渡期限内であれば改めてその第三者を訴えることなく賃借人に対する強制執行で第三者も排除することができます。しかし,引渡し期限後に賃借人や第三者が占有を開始した場合には改めて訴訟を提起する必要があります。したがって,(元)賃借人に侵入されないよう,鍵の交換は必須ですね。

 

売却日

断行日に目的外動産の売却がされなかった場合には,断行日から2~3週間程度保管のうえ売却します。

もっとも,売却とは言ってもどなたかが買いに来られることはありませんので,事実上は大家さんが買い取ることになります。ただし,現実的に大家さんがお金を出すわけではなく,目的外動産の保管料と相殺することになりますので,単に目的外動産の所有権を取得するだけの手続となり,その後は大家さんの方で自由に処分していただいて強制執行は終了となります。

もちろん,(元)賃借人が売却日よりも前に引き取りに来た場合には引き取ってもらうため,売却は行われないこともあります。

 

 

ここまで書いたように,明渡の強制執行は時間がかかるうえ,何より多額のお金がかかります。強制執行を行うメリットはほとんどありませんので,何とか任意に退去していただくことを願うばかりです。

 

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5月 09 2016

建物明渡の強制執行

現在,複数の建物明渡手続を行っておりますが,残念ながら何度か話し合いを試みたもののうまくいかず訴訟になり,さらに判決が出ても明け渡してもらえず,いよいよ強制執行をしなければならないような状況になっています。判決を取ってもすぐに強制執行するのではなく,何とか話し合いで解決できないか賃借人の自宅にも行きましたが,面と向かって「殺す」と言われてしまいましたので,警察とも相談のうえ慎重に手続を進めております。

 

もし強制執行となると,かなりの費用がかかってしまうためできる限り任意で明渡してもらいたいのですが,どうしても明け渡しをしてくれないようであれば強制執行をしなければなりません。今回は,強制執行になった場合の費用についてまとめてみたいと思います。

 

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裁判所に支払う費用

裁判所によっても異なりますし,明渡の部屋数や人数などによっても異なりますが,明渡のみであれば6~7万円程度の予納金を納めなければなりません。

もっとも,通常は明け渡しの強制執行とともに未払い賃料に関する動産執行も併せて行いますし,駐車場もある場合はその明渡も必要となるため,10~12万円程度の予納金を納める必要があります。なお,必要な分を除いたお金は手続終了後に返却されます。

また,細かな費用ですが,送達証明書や法人の場合の登記事項証明書等の取得など,必要書類の取得費用で数千円程度かかります。

 

執行補助者に対する費用

正直なところ,強制執行で一番お金がかかるのはこの部分です。

人が住んでいる以上,部屋の中にはたくさんの家財道具がありますし,場合によってはごみ屋敷になっているようなこともあります。「明け渡し」というのは部屋の中を空っぽにして出ていくことですので,賃借人が任意に出て行ってくれない場合は,こちらで部屋の中の家財道具を搬出しなければなりません。その搬出する人たちが「執行補助者」です。端的に言えば便利屋さんだったり引っ越し業者さんのような方です。

この執行補助者の費用は,安くても10~20万円,家財道具が大量にあれば100万円を超えることもあります。当事務所で過去に関与したケースでは,2階建てのメゾネットタイプのお部屋で50万円程度かかりました。本来,この費用は賃借人が負担すべきなのですが,強制執行までしなければ退去しないような人には資力がないことがほとんどであり,事実上は大家さんの負担となってしまいます。

 

弁護士・司法書士に対する費用

強制執行手続を弁護士等の専門家に依頼される場合,その専門家に対する報酬が発生します。

これは各弁護士・司法書士によって異なりますが,10万円~30万円程度だと思います。

 

その他の費用

ドアが施錠されており合鍵も無いようであれば,鍵業者の開錠費用がかかります。また,財産的価値があるものは一定期間保管しなければならず,その保管費用がかかる場合があります。さらにゴミがある場合にはゴミ処理費用などもかかります。

 

ということで,強制執行になってしまうと本当にお金がかかります。「盗人に追い銭」になってしまいますが,強制執行を行うくらいであれば,未払い家賃の減免をしてでも任意に出て行ってもらった方が結果的には金銭的なメリットはあると思います。

 

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4月 13 2016

勝手な明渡の強制執行は犯罪・不法行為となります。

当事務所では,家賃の回収及び土地や建物の明け渡しに関する手続を行っており,本日も明渡しの裁判に出廷し,別件の明渡しで警察と打ち合わせもしてきました。

 

このような法的手続を執ると,早くても数か月の時間がかかりますし,明渡しの強制執行まで進んでしまうと数十万円の費用がかかってしまうため,できることならそこまでいかない方が良いのですが,頑なに明渡しを拒否される場合はこういった手続を執らざるを得ません。

大家さんのお気持ちとしては,家賃等を支払わないうえ,さらに多くの時間と費用を遣ってまで手続を進めることに不満を感じられることは重々承知しておりますが,今の日本においては,このような手続を執らずに明け渡しを勝手に進めてしまうと犯罪(刑事)及び不法行為(民事)になってしまう可能性があり,まさに勝手に進めてしまった件が裁判になっていました。

 

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「追い出し行為に賠償命令 家賃滞納で家財処分は「窃盗罪」 東京地裁」

以下,産経ニュース(http://www.sankei.com/affairs/news/160413/afr1604130014-n1.html)からの引用です。ただし,被告の会社名は「A社」としております。

 

家賃滞納を理由に、玄関ドアに錠を取り付けて入れなくするなどしたのは不当な「追い出し行為」だとして、東京都の40代男性が山口県岩国市の家賃保証会社「A社」に330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は13日、同社に55万円の支払いを命じた。判決によると、男性は平成21年1月、同社を連帯保証人として神奈川県海老名市のアパートに入居。仕事を辞め、昨年3、4月の家賃計8万円を滞納したところ、同社は錠を取り付けた上、家財を無断で処分し、男性は9日間公園やファストフード店で過ごした。戸室壮太郎裁判官は、こうした行為が「窃盗や器物損壊罪にあたる」と指摘。処分された家財の損害を30万円と算定し、ホームレス状態を強いられた慰謝料20万円など計55万円の賠償を命じた。A社は「担当者がおらずコメントできない」とした。

以上で,引用終わり。

 

上記は,民事事件ですが,判決理由の中で「窃盗や器物損壊罪にあたる」とされており,刑事罰に当たる行為であることが指摘されています。なお,状況によっては窃盗や器物損壊のみならず住居侵入罪,盗品等関与罪が成立する可能性もあります。

このように,家賃を支払っていなくても,賃借人が占有している状況である以上,部屋の中に勝手に入ることはできませんし,ましてや部屋の中にある物を勝手に処分することはできません。

したがって,万が一このような事態が生じてしまった場合は,必ず法的手続を踏むか,本人(賃借人)の同意のもと進めるようにしてください<(_ _)>

 

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6月 16 2015

賃料未払いの場合の解除の基準

建物の明け渡しに関するご相談をお受けする場合,その理由はほぼ間違いなく賃料の未払いです。

 

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通常,賃貸借契約書には,「一度でも支払いが遅れた場合は契約を解除することができる」というような趣旨の条項が入っていることが多いです。

 

しかし,過去の判例により,賃貸借契約は1回や2回の滞納では原則として契約を解除して明け渡しを請求することができないことになっています。この点について,巷では「3か月くらい滞納しないと出て行ってもらえない」という噂のようなものがありますが,その噂もこの判例から来ていると思います。この噂話は当たらずも遠からず的なところがありますので,今回はこの解除ができる基準のようなものについて書いてみたいと思います。ただし,ご覧いただければお分かりいただけると思いますが,キッチリとした基準があるわけではなく,あくまで目安に過ぎないことを予めご了承ください。

 

 

賃貸借契約の特殊事情

 

上記にも書いておりますが,売買契約や委任契約などと異なり,賃貸借契約は当事者の信頼関係を基礎とする契約であるため,単に少しくらいの契約不履行があったとしても,信頼関係が破壊されたといえるような事情が無ければ契約は解除できないという考え方が取られております。

もっとも,今はあまり大家さんと入居希望者が直接会って契約をするということは少ないと思いますので,普通は「信頼関係を基礎とする契約」と言われてもピンと来ません・・・。

 

この点,例えばコンビニでジュースを買う際に,お店側としてはお客さんがお金さえ払ってくれればそれで良いのであり,お客さんが学生だろうが,自営業者だろうが,主婦であろうが別にどうだっていいですよね。

しかし,賃貸借契約の場合は,長期間継続した契約となりますので,大家さんと入居者さん双方にとって「相手がどういう人であるか」というのは関心事であると思いますし,特に大家さんとしては入居者さんがちゃんと家賃を支払ってくれる人(無職の方なのか社会人)なのか,反社会的勢力の人ではないかなどチェックするために入居のための審査なんてものもありますよね。

ということで,法律の考え方としては,お互いに信用できる人だということを前提に賃貸借契約を結ぶことになっており,いったん賃貸借契約を締結した以上は大家さんとしては簡単には一方的に解除することはできず入居者さんの立場を守るために信頼関係が破壊されたと考えられるような状況になったときに限り一方的な解除を認めています。

 

「信頼関係が破壊された」とは

 

では,「信頼関係が破壊された」とはどういう場合を指すのでしょうか。この点,「明確にこうやったら破壊したと考えますよ」というものはありません。

ただ,賃料の滞納の場合は,一般的には3か月程度滞納してしまったら信頼関係は破壊されたと考えられる傾向にあります。とはいえ,そういう傾向にあるだけであって,ケースによっては必ずしもそうではありません。では,どうやって判断するかというと,あとは事例を個々に検討していくしかありません・・・。

ということで,過去にあった裁判例をいくつか挙げていきます。近い事情や似た事情のものがあると思いますので,その裁判例を根拠にご検討いただければと良いかと思います。

 

 

解除が認められたもの

基本的には,滞納の期間が長ければ長いほど解除が認められやすくなりますが,比較的滞納期間が短かかったり,全額の延滞は無いけど毎月少しずつ延滞しているというケースでも解除が認められたものもあります。

なお,裁判例の引用については,便宜上言い回しなどを修正しており,原文そのままではありませんのでご注意ください。

 

(1)賃料の一部だけ未払いだったという事案(東京地裁昭和48年8月17日)

毎月の賃料が6500円であるところ,毎月6300円しか支払っておらず(毎月200円足りない),この未払い額が42か月分の8400円も溜まったというケースについて,裁判所は,

「金額こそさしたるものでないにせよ,義務違反として決して軽微なものとはいえない。(中略)根拠がないまま,約定賃料の支払いを長期に亘って履行しない被告(賃借人)の態度は,原告(大家さん)をして被告の背信を強く感じぜしめたであろうと推察される。(中略)被告の債務不履行は本件居室の賃貸借の基礎にある信頼関係を破壊する程度のものであると判断する」

と判示し,毎月の滞納額は少額ですが42か月という期間を考慮して解除を認めました。

 

(2)過去の滞納を解消した後に,再び1か月滞納したという事案(東京地裁平成15年12月5日)

入居者の方は,過去に何度か滞納をしており,滞納を解消する際に大家さんは「今後賃料の支払いを滞納した場合は,契約通り退去してもらいますよ。」と告げていました。ところが,再び入居者さんが滞納したため解除をしたという事案です。この点,裁判所は,

「原審被告(賃借人)によるそれまでの賃料滞納を4月末日をもって解消し,その後契約に従った賃料を支払うとの申し入れを受け入れる一方で,その後原審被告(賃借人)が賃料を滞納した場合は,契約に則って退室要求をすることとしたことが認められる。しかるに,その後も原審被告(賃借人)は,賃料の支払いを約定の支払期日より1か月程度遅延しているのであり,これは,原審原告(大家さん)との信頼関係を損なうものといえる。」

として,1か月の滞納でも解除を認めました。

 

(3)4か月滞納している間も交渉していたし,一括で支払えるお金も持っていたという事案(東京地裁平成19年8月24日)

4か月滞納しているが,その滞納期間中に①賃料等の減額の相談をしており,②お金が無い訳ではないので話し合いがまとまれば一括で支払う旨の連絡もしていたという事案について,裁判所は,

「被告会社(賃借人)は,平成18年9月4日ころから賃料の値下げや空調費等の値下げを要求していたが原告(大家さん)はこれを拒絶していたこと,同年12月に被告の従業員とメールがされているが,その中で,原告(大家さん)は,賃料減額及び空調費減額について,未払い分の一括支払いがあった後に相談に応じる旨を回答していたことが認められるのであり,被告会社が未払い分の一括支払いを行っていなかったことは前記のとおりであるから,これらのことを考慮すると①の事情が信頼関係を破壊しない事情とは言えない。②についても,話し合いの前提として原告(大家さん)が一括支払いを要求していたのであるから,仮に被告会社が資力を有していたとしても信頼関係を破壊しない特段の事情があるとは言えない。」

と判示し,解除を認めました。

つまり,4か月遅れている時点で信頼関係は破壊されており,入居者側で「4か月遅れてはいるけど,それでも信頼関係が破壊されていないといえるような特段の事情」があれば契約は解除できないけど,上記事例ではそのような事情は無いとされました。

 

(4)いったん滞納して,請求されたので支払い,再び滞納して請求されたので一部支払ったという事案(東京地裁平成17年2月25日)

平成16年2月~4月分の支払いをしなかったので督促状を送ったところ支払い,その後も数か月は支払っていましたが平成16年9月分から滞納し,これについては12月に2か月分だけ支払った(恐らく11月,12月分は滞納のままだと思われます)という事案について,裁判所は,

「これに被告(賃借人)の本訴における弁解(賃料等を支払う意思があったにもかかわらず,原告から支払いを催促する電話がなかったため,賃料等を支払う機会が奪われた)を考慮すれば,原告(大家さん)と被告(賃借人)との間に信頼関係を破壊しない特段の事情があるとは認められない」

と判示し,解除を認めました。

最後の支払いが2か月分ではなく,全額支払っているようであれば結論は変わったかもしれませんが,被告は「賃料等を支払う意思があった」と主張しているにもかかわらず2か月分しか支払っていませんので,本当に賃料等を支払う意思があったかどうかは疑問ですね。

 

(5)4か月滞納している事案(東京地裁平成17年8月30日)

被告(賃借人)は,①今回の解除に至るまで2年間以上遅滞なく賃料の支払を続けてきたこと,②支払を遅滞した賃料はわずか3か月分であり,賃料の2か月分に相当する保証金が預託されていること,③被告は,賃料支払の意思を示していたこと,④原告はあらかじめ文書による支払催告をしていないこと,⑤原告は,正月である平成17年1月3日付けで即時解除と5日以内の明渡しを求めていること,という事案について,裁判所は,

「被告は平成16年8月から賃料の不払を繰り返し,原告の催告に対し支払の意思を示すこともあったものの約した期日までに支払を完了せず賃料の不払を継続したことが明らかであり不払に係る金額も少額とはいえない。」

として,解除を認めました。

3か月分しか滞納していませんが解除を認めていますので,3か月というのはやはり大きな基準になっていると思います。なお,賃借人側の①,④,⑤の主張についてはまったく相手にされていませんので,何ら解除の障害になるものではないと思われます。

 

解除が認められなかったもの

基本的には,解除が認められるような状況にはなっているのですが,大家さんにも非があるような事情ややむを得ないというような事情があるため,例外的に解除を認めないというケースが多いです。

 

(1)大家さんが修繕すべき部分を修繕してくれなかったので,その分を差し引いて38か月支払っていたケース(東京地裁平成23年12月15日)

大家さんの負担で修繕すべきところを修繕してくれないので,その分を賃借人が勝手に家賃を差し引いて38か月間支払っていました。この点裁判所は,減額の幅が大きすぎるということは認めた上で,

 

「控訴人(賃借人)は,入居当初から不具合を主張しており,入居後から4か月以上が経過しても修繕されなかったこと,(中略)その他紛争に至った経緯等本件に関する一切の事情を照らせば,本件における控訴人の賃料不払については背信性がなかったというべきである。」

として解除を認めませんでした。家賃を少なく払っていたことについて,大家さんにも非があると考えているように思います。

 

(2)滞納解消後の解除(東京地裁平成14年12月20日)

賃借人が最大で7か月,その後は常時4か月分を滞納している状況で,明け渡しを求める書類を送ったところ,一括で滞納分は解消された。その後,1年程度滞納も無く取引が継続していたが,大家さんが過去の滞納を理由に賃貸借契約を解除することができるか,という点について裁判所は,

「債務不履行により解除権が発生した後でも,債権者が解除をする前に,債務者がその債務を履行したときは,一度生じた解除権はこれによって消滅すると解すべきである。そして,このことは,債務の履行があった場合に解除権を消滅させる意思が債権者にあるか否かにかかわりがない。」

として,いったん滞納が解消されたのであれば,解除はできないと判示しました。

1年も取引を継続しておきながら,なぜ突然大家さんが解除を言い出したのかと言うと,大家さんとしては他に売却等をするために,立ち退き料を払ってでも出て行ってほしかったようです。ところが,立ち退き料の折り合いがつかなかったため過去の滞納を引っ張ってきたようですが,すでに滞納は解消されていますので今さら一方的な解除は難しいですね。

 

(3)裁判上の和解で「1か月でも遅れた時は賃貸借契約は解除となる」旨の和解条項が入っていたのに滞納した場合(最高裁昭和51年12月17日)

すでに明け渡しを求める裁判を行っており,その裁判では,「一度でも支払いが遅れた場合は当然に賃貸借契約は解除となる」という和解を締結し,その後に再び遅れた場合について,最高裁は原則としては,解除になるが,例外的に,

「和解成立に至るまでの経緯を考慮にいれても,いまだ信頼関係が賃借人の賃料の支払遅滞を理由に解除の意思表示を要することなく契約が当然に解除されたものとみなすのを相当とする程度にまで破壊されたとはいえず、したがつて、契約の当然解除の効力を認めることが合理的とはいえないような特別の事情がある場合」

には当然解除とはならないと判示しました。

これだと全然意味がわからないんですが,具体的には,

 

「賃料の延滞が1か月分であり,和解成立後賃貸人から賃料の受領を拒絶されるまで約2年間の間,1か月分を除いて毎月の賃料を期日に支払っており,延滞したこともなんらかの手違いによるものであって賃借人がその当時これに気づいていなかつた」というような例外的な事情があったようです。

つまり,大家さんに支払いに行ったものの支払いを拒絶され,別の方法で支払ったものの何らかの事情で支払いがされていないというような,賃借人にあまりにもかわいそうというような事情があるため,未だ信頼関係は破壊されたとは言えないと考えているようです。

 

まとめ

 

以上の裁判例は,極々一部のものをピックアップしたに過ぎませんが,やはり3~4か月というのが一応の目途であり,過去にも滞納があった場合などは,1~2か月の滞納でも解除できることがあると思われます。また,あまりにも賃借人がかわいそうな事案や大家さんにも非があるような事案に関しては,3~4か月の滞納でも解除ができないことがありますが,そのようなケースは極めて稀なケースであり,少しくらい賃借人にかわいそうな事情や大家さんに非があっても,ほとんどのケースで解除が認められると思われます。

 

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2月 18 2015

未払い賃料回収のケース

昨年,建物ではなく,駐車場の明け渡し及び未払い賃料の請求のご依頼をお受けしました。

 

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延滞されている方は2名おり,ともに年単位の延滞をされていましたので,当然ながら未払い賃料の請求はできますし,明け渡しの請求についても法的な問題はありません。なお,1名についてはすでに亡くなっておられましたので,まずは相続人を探すところから始め,相続人をすべて特定した上で手続を進めました

 

まずは,内容証明郵便での催告

 

依頼者の方は,例え未払い賃料が支払われても契約を継続するつもりは無いとのことでしたが,民法上,まずは一定期間の猶予を与えて未払い賃料の催告をしなければなりません(民法541条)。

つまり,

 

一定期間を定めて支払いの催告→一定期間経過→解除権が発生→解除の通知→契約解除

 

というステップを踏むことになります。

なお,賃貸借契約のような継続的な契約関係の場合は,当事者の信頼関係の上に成り立っている契約であるため,単に不履行(賃料の未払い)があっただけではなく,信頼関係が破壊されたような状況にならなければ解除はできないと考えられています(信頼関係破壊の法理)。したがって,1~2度の延滞では,「信頼関係が破壊された」とは言えないケースが多いため,この時点での契約解除は難しいと思います

よく,「退去してもらうためには3か月の延滞が必要」というようなことを聞いたことがあると思いますが,まさにこの信頼関係破壊の法理から来ていると思います。

 

また,多くの賃貸借契約書には,「賃料の支払いが遅れた場合は催告することなく解除することができる。」という特約,いわゆる無催告解除特約が入っていることがあります。

無催告解除ができるとなると,上記の①~③をすべて省略して,いきなり④解除の通知をすることができます

 

ただ,無催告解除特約が入っていれば必ずしも催告することなく解除することができるわけではありません。

上記のとおり,契約の解除をすること自体かなり制限されているわけですので,催告すらせずに解除するとなるとハードルがもっと上がります。

この点,判例においては「契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情」があれば,催告することなく解除することができるとしています。つまり,端的に言えば「第三者の目から見ても催告せずに解除されてもしょうがないよね」というような状況のときには無催告解除も認められると考えられます。具体的には,かなり長期の延滞があるような場合には無催告解除が認められる傾向にあります。もっとも,単に延滞期間の長短で決まるわけではなく,個別具体的な事情で変わるため,極めて悪質なケースでは1か月の延滞で無催告解除が認められることもあれば,10か月の延滞でも認められない場合もあります(もちろん,通常の催告をしたうえでの解除は認められる可能性が高いです。)。

 

では,今回のケースではどうかというと,契約書には無催告解除特約は入っており,かつ,数か月どころか数年単位で延滞していますので無催告解除をしたとしても,恐らく有効だと思います。

しかし,もし訴訟になった場合に,相手が解除の有効性を争ってくる可能性があります。最終的には解除は認められると思いますが,争われるとそれだけで数か月の時間を要する可能性があります。一方,催告をしたとしても,催告の一定期間(通常は1~2週間)を待てば確実に解除が有効となるわけですから,争われる可能性のある無催告解除ではなく,通常の解除手続で進めるべく催告の通知を出しました。

 

相手からの連絡

 

契約している方及び契約者が亡くなっている方については相続人の全員に催告をしたところ,ともに連絡がありました。

まず,先に連絡があったのが,亡くなっている方の長男の方からでした。内容としては,「父親が駐車場を借り,そのような状態になっているとは知らず申し訳ない。」というもので,何とその翌日には100万円単位の未払い賃料の全額が一括で返済されました。さらに,その電話をいただいた月の末日をもって契約を解除するということで合意し,無事解決しました。

また,もう一方の方については,1か月程度どのように支払うかという点について話し合いを重ねましたが,最終的には2回分割で支払っていただけるとのことで,こちらも無事解決しました

 

ということで,訴訟になった場合に備えていろいろ準備をしていたのですが,事実上,内容証明郵便1本で解決しました。いつもこんな簡単に解決できればいいんですけどね。

 

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9月 02 2014

退去に関するゴミ等の処分費用

先日,建物明け渡しのご依頼に関して,建物内に残置してあるゴミ等の処分に立ち会ってきました。

 

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所有権放棄の覚書

 

建物明け渡しについて,強制執行で明け渡してもらう場合,「断行」という手続を行い,強制的に出て行っていただくことになります。その際,中の物を搬出する専門業者に依頼し,すべての荷物を外に出すことになります。

 

一方,訴訟の前後を問わず,任意で明け渡してもらうこともあります。と言いますか,通常は上記の断行に至る前に任意に退去される方が多いと思います。

その場合,退去の日程を定め,その日までに中の物も含めて明け渡してもらうことになりますので,基本的には部屋の中は空っぽの状態になるはずです。

 

しかし,中には不誠実な方もいて,空っぽだったにも関わらず「高価な時計が置き忘れたはずなので返せ。返せないなら弁償しろ!」などと主張する人もいます。なので,それを防ぐために,「期日以降,建物にある残置物の所有権はすべて放棄し,どのように処分されても異議を申し出ません。」というような所有権放棄に関する覚書を書いてもらいます。この書類があることで,万が一,上記のような時計が仮にまぎれていたとして,もう大家さんに対して時計を返せとか弁償しろなどと言えなくなります。

 

逆に,部屋が空っぽどころか,ゴミの処分など一切せず,部屋の中が凄まじい状況になったままで退去される方もいます。そのような人に対応するため,「部屋の中のごみなどを処分するのに費用が発生した場合は,退去した人が支払う。」という条項も上記覚書に入れておきます。そうすることによって,残ったゴミなどの処分費用についても請求できることになります。

 

一次的には大家さん負担となってしまう

 

上記の通り,ゴミなどが大量にある場合,その処分をしなければなりませんが,現実問題として退去した方が処分業者に発注してくれることなどあり得ませんので,一次的には大家さんが処分業者に発注し,かかった費用を退去した方に請求することになります。

このゴミの処分については,もちろん量によってかなり費用が違うのですが,実は処分業者によっても費用が大きく異なります。今回何件か見積もりを取ったのですが,まったく同じ内容にもかかわらず2倍以上の金額の差がありましたので,やはり何社か見積もりは取った方が良いと思います。なお,今回依頼したところは,個人からの依頼は受け付けておらず,不動産業者や建築業者など会社からの依頼しか受けないという業者にお願いしたので,かなり安くできたと思います。

 

中にはお金になるものも

 

所有権放棄をしているので,中にある残置物については,どのように処分しても構いません。大多数は何の価値も無いものばかりですのでお金になるものは少ないのですが,もしかしたらお金になるものが紛れているかもしれません。先日立会いをしたときは,ゲームのソフトが残されていましたので大家さんに売却をお願いしました。ただ,良くても数千円程度でしょうね・・・。私も立ち会った際に,透明のビニール傘をもらってきました。事務所にご相談に来られた方が,突然の雨にあわれたときに差し上げようと思います。

 

そうなる前に・・・

 

上記の通り,残置物は大家さんの自由にして良いのですが,ごみの処分費用は大家さんが最初に負担し,その後に退去された方に請求することになります。しかし,退去された方はお金がない方が多いため現実的に請求できるかどうかはわかりません。特に,夜逃げなど突然行方不明になった場合だと請求しようにもどこにいるのかわからないような状況になってしまいます。

ですので,やはりそうなる前に,家賃の延滞が始まったらすぐにでも対応すべきだと思います。正直なところ,2か月分遅れた時点でそれを解消していくのはかなり難しいと認識された方が良いかと思います。

 

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