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全手続共通

1月 23 2025

凍結された口座への不当な強制執行

今週に入り、詐欺に使われた口座に対する強制執行が不当に行われたという事例が複数見つかっているようであり、最高裁判所が調査をするようです。

→ 不当な強制執行が疑われるケース、全国の高裁・地裁に報告要請…最高裁(読売オンライン 2025/01/23 05:00)

 

記事だけを読んでもなかなか分かりづらいところがありますので、これを少しかみ砕いてまとめるとともに、関係する手続について改めて説明させていただきたいと思います。

 

 

1 前提情報

(1)支払督促

証拠を添付する必要は無く、申立てをすると裁判所から債務者に請求書(支払督促)が送付されるという手続です。

裁判所を使った手続というのは訴訟が一般的かと思いますが、争いが無いような債権の場合は支払督促が使われることもあり、実際に当事務所でも何度も申立を行ったことがあります。

支払督促のメリットは、債務者が反論しなければ訴訟をして勝訴したのと同じような効果があるため、債務者が反論をしてこなければ比較的簡便に次の強制執行の手続に進むことができます。

一方、デメリットとしては、①債務者が反論してきた場合(異議申立てをした場合)には通常訴訟に移行しますがその場合に相手方住所地の管轄になってしまうこと、②公示送達ではできないため債務者が行方不明の場合は使えないということかと思います。

なお、手続上、証拠を添付する必要が無いため、本来であれば時効で消滅している債権や今回の事件のように虚偽の債権について支払督促を利用されることがあります。もっとも、消滅時効の債権や虚偽の債権については支払督促ではなく訴訟などで請求してくることもありますので、必ずしも支払督促に限ったことではありません。

 

(2)詐欺口座の凍結

振り込め詐欺や投資詐欺など、詐欺に利用された口座については、「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(いわゆる「振り込め詐欺救済法」)」に基づき被害者側が申立てをして口座を凍結することが可能です。とりあえず口座を凍結して口座内の預金を引き出せなくしておけば、被害者がその後に詐欺被害を立証し、当該口座から弁償を受けることができます。

なお、凍結されている口座であっても例外的に当該口座の名義人を相手として勝訴判決などを得ている場合は、強制執行の申し立てを行うことで当該口座から回収することができます。今回はこれを悪用されています。

 

(3)口座名義人

ベトナム人名義の口座であり、当該名義人が詐欺グループの一員なのか、詐欺グループに口座を売却したのかは不明です。なお、3名のベトナム人名義の口座があったようですが、当該ベトナム人は支払督促の時点ですでに出国していたようです

 

2 事件の概要

事件の概要は下記のとおりですが、かなり省略しています。

(1)LINEにて投資詐欺に遭ってしまった方がベトナム人名義の口座を含む複数の口座宛に合計1億円超のお金を送金した。

(2)被害者の申し立てにより当該ベトナム人名義の口座は凍結され、詐欺グループはお金を引き出すことができなくなった。

(3)詐欺グループの関連会社と思われるA社が口座名義人であるベトナム人に対して支払督促の申立てをした。ただし、支払督促の対象となる債権は実際には存在しない虚偽債権だったようです。

(4)支払督促の申立書は送達されなかったため、A社が当該ベトナム人が就労している場所を指定して再度送達し、当該ベトナム人が受け取った。なお、上記のとおり当該ベトナム人はすでに出国しており、書類の受領書も当該ベトナム人の筆跡では無かったようです。

(5)A社が当該支払督促に基づいて、凍結されているベトナム人名義の預貯金に対して強制執行の申立てをし、裁判所は債権差押命令を出した

(6)差押えの通知を受けた金融機関は不審に思い、差し押さえに応じなかった

(7)投資詐欺に遭った方がA社を訴えたところ、虚偽債権であることを認めた

 

つまり、本来であれば凍結されている口座からお金を引き出すことはできないのですが、例外的に強制執行であれば回収することができ、その強制執行の申立てのために虚偽債権にて支払督促の申立てを悪用したというものです。

ニュースでは支払督促の悪用がクローズアップされていますが、通常の訴訟でも起こりうること(虚偽の債権を基に虚偽の付郵便送達や公示送達で判決を取ることは制度上可能です。)であり、「訴訟詐欺」という言葉があるくらいです。

今回はたまたま金融機関が不審に思って強制執行に応じなかったり、投資詐欺に遭ってしまった方の代理人弁護士が様々な調査をした結果判明したものですが、現実的には見つけ出すことは難しいと思います。とはいえ、支払督促は重要な制度であるため、これを解決するのはかなり難しい問題かと思います。


10月 02 2024

代表者の住所非表示措置について

先日、代表取締役の住所が調べられにくくなる可能性についての記事を記載いたしました。

→ 株式会社の代表取締役の住所が分からなくなるかも

 

令和6年10月1日からその制度がスタートしましたので、前回の記事と重複する部分もありますが重要な点についてまとめておきたいと思います。

 

 

1 対象となる法人

株式会社のみとなります。有限会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人など、株式会社以外の法人は非表示措置の対象とはなりません。

 

2 非表示措置の対象人物

基本的には代表取締役となりますが、住所が登記されている代表清算人、代表執行役なども対象となります。

 

3 非表示措置の範囲

住所のうち市区町村よりも後の部分が非表示になります。例えば、「愛知県名古屋市〇〇区」までは非表示措置がされていても表示されます。また、氏名は非表示とはなりません。

また、あくまで非表示措置を申し出たとき以降の登記について非表示となりますので、従前の住所は非表示となりません。住所が変わっていない状況で非表示措置の申し出をして認められたとしても、従前の住所は非表示にはなっていませんので、その時点では事実上あまり効果がありません。もっとも、履歴事項全部証明書を取得した場合、3年前の1月1日時点以降の情報しか載ってきませんので、非表示措置の申し出をして4年以上経過すれば意味があることになります。

なお、本店の住所は非表示措置の対象ではありませんので、会社の本店が代表者の自宅である場合にはその時点ではまったく意味がないことになります。この場合でも将来的に本店移転をする可能性があるのであれば非表示措置をしておく意味があります。

 

4 非表示の申出の時期

役員変更など、代表取締役等の住所が申請内容になっている何らかの登記申請を行うタイミングの際に同時に申し出る必要があります。非表示措置の申出のみを行うことができません

 

5 非表示措置のメリット

住所の一部を非表示とすることで個人情報が守られる、この1点のみだと思います。

 

6 非表示措置のデメリット

金融機関の取り扱いなどが固まっている状況ではありませんので流動的ではありますが、金融機関から融資を受ける際に書類が増えることは間違いなく、場合によっては融資自体を避けられる可能性があります。また、新規の取引を開始する際にも取引先から追加の書類を求められたり取引自体が中止になる可能性があります。

 

正直なところ、制度が始まったばかりであるためメリットデメリットはまだ分からない部分があるかと思いますが、このご時勢からすると個人情報保護の方向に進むと思いますので、今後は対象となる会社が株式会社以外にも拡大していくと思いますし、一部の住所ではなく全部の住所が非表示となる可能性もあるかと思います。

 

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4月 16 2024

株式会社の代表取締役の住所が分からなくなるかも

会社の代表者等の住所は、いわゆる会社の謄本(登記事項証明書)を見れば誰でも知ることができ、プライバシーの観点から問題があるとの声がありました。一方で、会社が機能していない場合に代表取締役の住所が分からないと責任追及をすることができず、住所を表示したままにした方が良いのか、非表示にした方が良いのかでせめぎあいがなされておりました。本日、法務省令において登記事項証明書などに記載されている代表取締役の住所について一部非表示とすることが令和6年10月1日から可能となりました。

→ 代表取締役等住所非表示措置について(法務省サイト)

 

これにより、会社の代表者の住所を容易に調べられなくなる可能性が出てきましたので債権回収においても影響があることから、この点についてまとめます。

 

 

1 対象となる法人及び肩書について

すべての法人が対象となっているのではなく、株式会社(特例有限会社を含む)に限定されております。最近増えてきている合同会社や一般社団法人などは対象外となっております。

また、住所が非表示となる方の肩書は代表取締役に限定されるものではなく、住所が登記されている代表執行役、清算人なども対象となります。

 

2 非表示の対象となる個人情報

上記代表取締役等の住所のうち、市区町村より後の部分に限り非表示となります。したがいまして、「愛知県長久手市」まで、「東京都新宿区」まで、というように住所の一部は今後も必ず表示されます

また、氏名は非表示の対象とはなっていません

 

3 非表示とする場合

会社の設立や役員変更の登記申請と併せて必要書類を提出することでその時に申請する代表者等の住所を非表示とすることができます(過去の代表取締役の住所等は非表示にはなりません。)。また、特に役員変更などの登記申請はなく、非表示の申請だけをするということはできません

非表示とする場合には、通常の登記申請に必要な書類に加えて下記の書類が追加で必要になります。

①登記されている会社の本店宛に郵便物が到着することを証明する郵便局の配達証明書等

②代表者の住所及び氏名が分かる住民票等の公的書類

③実質的支配者(会社の株主等)が分かる書類

なお、上場会社の場合は、上場されていることが分かる書類があれば上記①~③の書類は不要です。

 

4 非表示となった場合の措置

法務局で取得できる登記事項証明書や登記事項要約書、インターネットで取得できる登記情報において、代表者の住所が一部非表示となったものが交付等されます。

ここで重要なのが、あくまで各種証明書の交付等の際に非表示になっているだけで、登記申請をする際には番地等の正確な住所が分かる公的書類を提出したうえで正確な住所を記載して申請し、法務局に備え付けられている登記簿には番地までの正確な住所が登記されています。さらに、非表示とした後に証明書を取得する際に住所有りや住所無しの証明書を選択できるのではなく、常に住所が一部非表示となった証明書が発行されることになります。

法務省のサイトでの注意書きにも記載がありましたが、金融機関で融資を受ける際には代表者の住所が入っていないと代表者が誰であるかの確認ができませんので融資を受けることが難しくなることが予想されます。その他の手続においても、登記事項証明書及び印鑑証明書だけでは会社の代表者であることを厳密に証明することができなくなりますので、追加の書類が必要になることが予想されます。

 

5 会社の代表者の住所を知りたい場合

債権回収としてはむしろここからが本題となります。

これまでは登記情報を取得することで代表者の住所を知ることができましたが、10月以降は容易に調べられない可能性があります。このような事態に備えて、下記のとおり住所を知る方法がいくつかあります。

①会社の本店に会社が実在しないことを証明し、非表示措置を終了させる。

→上記のとおり、登記簿そのものには正確な住所が登記されているため、非表示措置が終了すれば普通に登記事項証明書等を取得することで住所を確認することができます。なお、本店に会社が実在しないことの証明はどの程度のレベルまで必要なのかは現時点では不明です。単に宛先不明で郵便が返ってくればそれで良いのか、現地調査をして電気メーターなどまで確認する必要があるかなど、これらの点は今後の通達で明らかになる予定です。

②登記申請書類を閲覧する。

→上記3②に記載のとおり、非表示措置をする際には必ず住民票等の住所及び氏名が分かる書類を法務局に申請しているため、法務局に保管されている住民票等の書類を閲覧することで正確な住所を確認することができます。ただし、申請書類については正当な理由がなければ閲覧できないため、まったく無関係な人が閲覧することはできません。加えて、登記事項証明書等は全国どこの法務局でも取得できましたし、登記情報であればインターネット環境があればどこでも確認ができましたが、会社の管轄法務局まで行かなければ申請書類の閲覧できませんので遠方の会社の場合はかなりの費用と時間がかかることになります。

 

6 今後について

住所を非表示にできることは今後周知されていきますが、実際には住所を非表示にすることを知らない会社が大多数であろうと思われること、また、上記のとおり登記申請の予定が無い場合に単独で住所の非表示の申請をすることができないため、実際に非表示の会社が相手方になるということは少ないと思われます。ただ、もしそのような会社が相手方になった場合で、会社に書類が届かないとなるとかなりの苦労を強いられるように思われます。


2月 20 2024

ご相談いただいてご依頼いただく割合

日々たくさんのご相談をお受けしておりますが、実際にご依頼いただく割合は決して多くありません。正確な統計ではなく、あくまで感覚的な割合ですが恐らく2~3割程度だと思います。

その理由としては、ご相談をお受けした時点で回収の見込みがかなり低いケースが多く、余程の理由が無い限りご依頼いただくメリットが無いと説明させていただいているためです。
以下、ご相談いただいた時点で回収の見込みがかなり低いケースについてまとめてみたいと思います。

 

 

第1 回収することが極めて難しい場合

 

1 SNSでのやり取りのみで相手が誰だか分からない

近年、ネット上でのやり取りのみで金銭の貸し借りをされる方が多くなっているように思います。X(旧ツイッター)やインスタグラムなどのSNSで知り合い、SNS上だけのやり取りでお金(電子マネー)の貸し借りを行うというケースもあります。この場合、相手のアカウントは特定できていたとしても生身の人間としては誰かが分からないため、回収の見込みというよりも誰に請求して良いか分からず、そもそも手続を開始することができません

なお、近年良く見かける情報として発信者情報の開示請求がありますが、上記のような場合には開示請求ができません。
開示請求に関する特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第5条に、開示請求のための要件が規定されており、その中に「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたこと」が必要であるとされています。「侵害情報の流通」というのは、名誉棄損等に該当するような投稿や第三者の著作権等を侵害する画像や動画の投稿などになり、あくまでその投稿自体が問題になる場合に限られます
とすると、金銭の貸し借りの相手方に違法な投稿等が無いようであれば発信者情報の開示請求はできないということになります。

 

2 会ったことはあるがLINEでのやり取りのみで相手の情報が無い

最近はメールではなくLINEでのやり取りが多くなっており、場合によっては相手方に会ったことはあるが電話番号は知らず、LINEでは繋がっているということが多くあると思います。ただ、LINEだけでは基本的には相手が誰であるかを特定することはできませんので、基本的に手続を開始することができません。

ただし、相手方のLINEIDが分かるようであれば、弁護士会照会を行うことで相手方の電話番号などが特定でき、そこから相手方の情報が得られる場合があります。ただし、弁護士会照会は文字通り弁護士さんでしか使えない制度であるため、当事務所では調査することはできません

また、LINEによって脅迫等をされた場合には、刑事事件にすることでそこから相手方が誰かが判明することがあります

 

なお、上記1と2においても、金融機関での送金にてお金のやり取りをしているようであれば、金融機関に弁護士会照会を行うことで相手方が誰であるかを特定できる場合があります。また、SNSやLINEのみのやり取りであっても、運転免許証などの身分証明書を送ってもらっていれば手続を進めることは可能です。

 

第2 回収することが難しい場合

 

1 住所が分からない場合

相手方に請求の手紙を出す場合、相手方の住所が必要になりますが、相手方の住所が分からないというケースがあります。

この場合、現在の住所は分からなくても、前の住所だったり、実家などの他の情報が分かる場合は、役所での調査により現住所が判明する場合があります。また、役所での調査では住所が特定できなかった場合であっても、郵便局の転送によりとりあえず前住所に発送することで現住所に転送されて相手方に届くということもあります。

もっとも、転送された場合であっても転送先の情報を郵便局は教えてくれませんので具体的に住所を特定することはできません。

なお、こちらも弁護士会照会であれば特定することは基本的には可能です(DV事案等の恐れがある場合は開示されません。)。

 

2 相手方が破産準備に入っている場合

大前提として、相手方が破産手続を行っている場合は法的に支払義務が無くなりますので請求自体ができません

ただ、破産手続は進んでいないけど、破産準備に入っているというケースはあります。この場合はまだ破産していない以上は訴訟等を行うことは可能であり、財産があれば強制執行により回収することも可能です。実際に破産準備中に訴訟手続を行い、給与を差し押さえて回収できたケースもあります。

もっとも、破産準備から実際に破産手続開始の申立てがされた場合は以降は回収できなくなりますので、全額回収に至ることは少ないです。

 

3 請求金額が少額である場合

こちらは回収することが難しいというよりもメリット・デメリットの問題となります。

例えば、1万円の請求をしたいというご相談をお受けすることがありますが、仮に訴訟や強制執行まで行ってしまうと、貸した金額よりもの多くの費用がかかることが考えられ、この費用は相手方に請求することはできませんので、手続をすればするほど赤字になってしまいます。

この場合、気持ちの部分で許せないから手続をしたいということであれば手続を行うメリットはあるかもしれませんが、経済的には手続を行うことはデメリットでしかありません。

 

第3 回収できるかどうかは相手方次第という場合

 

1 相手方に財産が無く勤務先も分からない

法的には訴訟等を行うことは可能であっても、相手方が任意に支払ってくれない場合は強制執行により相手方の財産を差し押さえて強制的に回収するしかありません。逆に言えば、相手方が分割弁済の交渉等に応じてくれる場合は相手方の財産の有無に関係なく回収することができます。

ただ、相手方に財産が無く、勤務先も分からないとなると差し押さえる財産が無いため、結果的に回収できないということも当然あります。

当事務所では相手方が生活保護を受給していても親族等の協力を得て分割支払により回収できたケースもありますので必ずしも回収が不可能という訳ではありませんが、この点は相手方次第であるためやってみないと分からないということになります。

※無関係な親族に支払いを求めることができるわけではありません。あくまで親族の任意の協力が必要です。

 

2 証拠がまったく無い

訴訟等を行うためには証拠が必要となりますが、実際に会って現金でやり取りを行い、メールなどの記録もまったくないという事があります。このような状況は昔からの知り合いというケースによく見られます。この場合、お金の貸し借り自体は恐らく事実かと思いますので、請求自体は可能です。そうすると、相手方から回答があり、一括または分割で支払ってくれるということでまとまることも多くあります。

しかし、相手方がお金の貸し借りの事実自体を否定されてしまうと訴訟をしようにも証拠がまったく無いため訴訟をしても負けてしまう可能性が十分考えられ、現実的には相手方次第であるためやってみないと分からないということになってしまいます。

 

以上の次第で、第1については手続を始めること自体が極めて難しいですが、それ以外は回収の見込みがゼロという訳ではありませんので、あとは費用対効果を踏まえてご検討いただくこととなります。

 

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11月 21 2022

不動産以外の担保で保全する(①自動車抵当)

「担保」というと、まず最初に思い浮かぶのは不動産だと思います。一般的に不動産は価値が高いですし、「不動」となっているとおり財産が逃げることが無いので、担保として一番確実性が高いです。

不動産は、法務局にある登記簿にて権利関係が公示されていますので、不動産の登記事項証明書を取得すれば「その不動産が担保に入っているかどうか」、「入っているとしていくらの担保になっているか」等を確認することができます。

 

また、あまり担保というイメージは無いかもしれませんが、保証人を取るという事も多いかと思います(保証人は「人的担保」と呼ばれます。)。ただし、保証人の場合は、保証人自体に資力が無ければ結局回収できませんし、人間である以上逃げてしまう可能性もありますので、確実性という点では不動産には劣ると思います。さらに、保証人の資力は公示されていませんので、保証人が実は多重債務者となっていて回収が困難ということもあり得ます。

 

さて、今回はその中間という訳ではありませんが、先日、自動車を担保に取る自動車抵当の手続を行いましたので、今回はこの点についてまとめてみたいと思います。

 

 

1 自動車抵当とは

 

不動産に対する抵当権は民法に規定がありますが、自動車に対する抵当権の設定は自動車抵当法という特別法によって定められています。

基本的には、不動産に対する抵当権と同様であり、次のような特徴があります。

 

(1)所有者(設定者)が占有したまま使用可能

住宅ローンを組んで家を購入する場合、その家は銀行の住宅ローンの担保に入っていますが銀行が家を占有している訳ではなく、家はそのまま所有者が使うことができます。自動車抵当も同様に、抵当権が設定されても所有者がそのまま使用し続けることが可能です。

 

(2)役所で抵当権の有無を確認することができる

不動産に対する抵当権自体は当事者の合意のみで成立しますが、当該抵当権の存在を第三者に対抗できませんので通常は登記を行います。登記をすることで、第三者に対しても抵当権があること(担保として取っていること)を対抗することができます。同様に、自動車抵当の場合も自動車登録ファイルに抵当権設定の登録をしなければ第三者に対抗できませんので登録を行います。

抵当権が設定されていることは、不動産であれば登記事項証明書を法務局で、自動車であれば登録事項等証明書を運輸支局で、それぞれ取得することで誰でも抵当権の存在を確認することができます。

 

(3)優先弁済を受けることができる

不動産や自動車が競売などで売却される場合、当該売却代金から優先して債権を回収することができます。

抵当権が設定されたまま不動産や自動車を売却することができますが、買主としては抵当権が設定されたままの不動産や自動車を購入したくありませんので、通常はその時点で弁済してもらい、抵当権を抹消することになります。

 

2 不動産に対する抵当権等の違い

 

不動産と動産である自動車では性質が異なりますので、下記のような違いもあります。

 

(1)不動産より回収できない可能性が高い

不動産の場合、建物が火事等で焼失してしまうことがありますが、土地は地震で地面が崩れるなど特段の事情が無い限り、価値がゼロになってしまうということは考えにくいです。

一方、自動車は高速で動く動産ですので、事故等により価値が無くなってしまい、結果として回収が難しくなる場合があります(保険に入っている自動車であれば、保険金から優先的に回収できる「物上代位」が可能です。)。また、盗難等により所在不明になる可能性もあります。

 

(2)そもそも価値が低いことが多い

不動産は安くても数百万円、高ければ億単位になりますので、担保として大きな効果があります。一方、一般的な乗用車の場合は、新車時点ではそれなりの価値があるものの年々価値は下落していきますので、それほど多額の融資を受けるための担保にはなりにくいです。ただし、運送会社等が所有しているトラック等の大型車両は価値が大きいため、担保としての価値は十分あると思います。

 

(3)滅失・廃車の可否

不動産の場合は抵当権が設定されていても滅失登記ができますが、自動車の場合は抵当権が設定されていると廃車手続ができません

 

3 手続について

 

(1)必要書類

申請書等を除けば、不動産における抵当権設定登記とほとんど同じです。自動車の所有者の印鑑証明書、抵当権者の資格証明書(個人であれば住民票)が必要となります。

異なる部分としては、不動産の抵当権設定登記だと抵当権設定契約書は必要となるものの被担保債権に関する書類は不要です(例えば、金銭消費貸借契約書)が、自動車抵当の場合は抵当権設定契約書が必要になることは当然のこと、被担保債権に関する書類も必要となります。

 

(2)登録免許税

不動産の場合は債権額の0.4%を登録免許税として納める必要がありますが、自動車の場合は0.3%と少しだけ低くなっています。ただし、3万円を超える場合は収入印紙での納付ができませんので注意が必要です。

 

(3)完了までの時間

不動産の場合は、各法務局の執務状況によって異なりますが、概ね1週間前後で登記は完了します。一方、自動車の場合は、数十分から1時間程度で即日完了します。

 

(4)報酬

各専門家によって異なりますし、債権額によっても変わりますので一概に申し上げることができませんが、当事務所の場合は不動産よりも自動車の方が高くなります

というのは、不動産は事務所からオンラインで申請すれば良いだけですので申請に関する手間がそれほどかかりませんが、自動車の場合は運輸支局に出向く必要がある上、完了するまでその場で待つ必要があるため実質的な拘束時間が長くなること、及び上記のとおり必要書類として抵当権設定契約書等が必要になるところ、不動産の場合は通常は金融機関が書類を準備するのに対して、自動車の場合は当方で抵当権設定契約書や被担保債権に関する書類を作成する必要があるためです。

なお、不動産に関する抵当権設定登記は基本的には司法書士の業務であり、自動車に対する抵当権設定登録は行政書士の業務となります(当事務所は両方の資格を有しております。)。

 

4 まとめ

 

ということで、不動産と比べると担保価値としては大きくありませんが、トラックなど比較的高額な自動車について担保として取るという方法は十分選択肢の1つにはなるかと思います。

 

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8月 19 2022

財産開示拒否、起訴相当

相手方に支払いを請求し、それに応じなかったら訴訟等の手続を行います。
訴訟を行い、「〇〇万円支払え」という判決が出ても、相手方が支払いに応じなければ相手方の財産を差し押さえて現金化し、回収することになります。

しかし、そのような相手方には財産が無いことが多く、仮に財産があってもなかなか見つけることは難しいです(だからこそ、預貯金等の差押えよりも、給与を差し押さえた方が回収できる可能性は高まります。)。

 

これに対応し、民事執行法では「財産開示手続」といって、相手方に対して自らが保有する財産を開示してもらう手続がありますが、裁判所からの出頭に応じなかったり虚偽の事実を陳述する等の違反したとしても従前は「30万円以下の過料」という行政罰しかなかったため、あまり実効性がありませんでした。
というのは、違反しても必ずしも過料が課されるとは限りませんし、多額の支払いをするくらいなら30万円を払った方がマシと考える人もいたからです(30万円は国が回収するだけで債権者には分配されません。)。

 

さらに、令和2年に民事執行法が改正され、財産開示手続に違反した場合には懲役または罰金という刑事罰が科されることになりました。これにより、財産開示に違反することで刑事事件となってしまい、逮捕や起訴されることもあれば、最悪の場合は収監される可能性が出てきましたので、従前と比べれば実効性は増したと思われます。
もっとも、「虚偽の事実」(例えば、実際は財産があるにもかかわらず、無いと陳述する)については、そう簡単に見破ることはできないので、そういう点ではどこまで実効性があるかとも思われます。

 

 

 

さて、このような事件に関して、先日いったん不起訴になったものの、検察審査会によって「起訴相当」の議決がなされました。
これにより、検察官が再度捜査を行い、恐らく起訴されるものと思われます。

 

~~~~以下、読売新聞オンラインからの引用~~~~~

暴行でけがを負わせた相手方への賠償金支払いに応じず、裁判所の財産開示手続きに出頭しなかったとして民事執行法違反の疑いで書類送検され、大阪地検が不起訴とした加害者の男性に対し、大阪第4検察審査会が「起訴相当」と議決したことがわかった。賠償金支払いの「逃げ得」を防ぐため、同手続きには2020年4月から刑事罰が導入されており、議決は今回のケースでは刑事責任の追及が妥当と判断した。
(中略)
6月9日付の議決は、男性には地裁から期日の呼び出しの書類が届いていたことなどを指摘し、「不起訴には疑義があり、国民の常識で考えると刑事責任は厳しく追及されるべきだ」とした。刑事罰導入の目的は手続きの実効性を高めるためだったと言及し、「法が適用されなければ、改正の意義が損なわれる」と述べた。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20220817-OYT1T50067/

~~~~以上、読売新聞オンラインからの引用~~~~~

 

もっとも、上記のとおりいったんは検察は不起訴にしており、財産開示手続に違反したとしても必ずしも起訴されるわけではありません。さらに、30万円以下の過料のときと同様に、相手方が逮捕されても、罰金が科されても、懲役で収監されても、それによってお金が返ってくるわけではありません(もちろん、示談を持ちかけられて回収できることはあると思います。)。

やはり、財産開示手続はあくまで最後の手段であり、ここまで手続を行わなくても回収できるよう進められるのがベストかと思います。

 

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4月 27 2022

報酬体系について

当事務所にご相談いただく際に、「完全成功報酬で進めていただくことは可能ですか?」とご質問いただくことがございます。

詳細は下記に記載いたしますが、端的な回答としては完全成功報酬ではございません

 

 

当事務所にご依頼いただく場合、「着手金0円プラン」または「成功報酬減額プラン」のいずれかからお選びいただくことができます(ただし、30万円以下の請求の場合は成功報酬減額プランのみとなります。)。

これは、回収できる可能性が高くない場合は、着手金を0円で進めさせていただく代わりに、回収できた場合の成功報酬が高めに設定されております。仮に回収することができないまま終わったとしても、報酬はまったくかからないことになりますので費用を抑えることができます。

一方、成功報酬減額プランの場合は着手金をいただくものの、成功報酬が着手金0円プランよりは低く設定されておりますので、建物の明渡事件など成功する可能性が高いような場合はこちらをお選びいただくことが多いです。

 

なお、内容証明郵便の郵送料や住民票の調査に関する費用などの実費は報酬とは別に費用がかかることとなり、これは着手金0円プランでも変わりません。したがいまして、仮に着手金0円プランをお選びいただき、かつ、回収することができなかったとしても完全に0円で手続を進められるということではありません

 

また、いずれのプランにおいても訴訟手続や強制執行手続等の法的手続きを進めた場合は回収の有無に関係なく費用がかかってしまいます。もちろん、当事務所で勝手に手続きを進めることはなく、事前に説明させていただいたうえで費用にご納得いただいてから手続を進めさせていただきます。

 

したがいまして、いずれのプランにおいても実費がかかりますし、法的手続きを進めた場合は回収の有無に関係なく報酬もかかりますので、「完全成功報酬」という費用体系ではないことになります。

 

この点、先日お問い合わせいただいたことがございますので、念のためまとめさせていただきました。


2月 03 2021

専門家への報酬を相手方に請求したい(最高裁判決)

債権回収のご依頼をいただく場合、多くのケースでは相手方の責任において支払いがなされていないため、やむを得ずご依頼いただいております。当初の予定どおり支払いがされるのであれば、わざわざ費用をお支払いいただいてまで弁護士や司法書士にご依頼されることはありませんからね。

もちろん、相手方にも言い分があり、内容によっては相手方の主張の方が法的に正しいということもありますので、必ずしも全件相手方に責任があるというわけではありません。

 

さて、相手方の責任において支払いがされない場合、専門家への報酬の支払いや訴訟になった時に裁判所に納める収入印紙等の実費については本来支出しなくてもよ良かった費用な訳ですから、かかった費用についても相手方に支払ってほしいという要望をいただくことがあります。

この点、お気持ちについては十分理解できるのですが、実際にはほとんど請求ができません。こちらについて簡単にまとめたものがありますので、こちらをご覧いただければと思います。ざっくり申し上げると、「裁判所に納める実費等についてのみ請求でき、不法行為の場合に例外がある。」となります。

→ 相手に求めることのできる必要経費

 

先日、弁護士報酬を相手方に請求できるかどうかについて争われた訴訟の最高裁判決がありましたので、今回はこちらをまとめたいと思います。

 

 

1 不法行為に基づく損害賠償請求の場合

 

弁護士や司法書士等との契約は請求する方が自ら選び、当該弁護士等の間で報酬に関する契約をしているため、この費用を相手方に請求することは原則としてできません。

しかし、不法行為(例えば交通事故)によって生じた損害について相手方に損害賠償請求をする場合、弁護士等の報酬の一部を請求することができます

→ 最高裁サイト

→ 判決全文(PDF)

 

その理由としては、「相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」

 

となっており、端的に言えば、自己の権利を守るために訴訟を提起することを余儀なくされた場合、一般的には弁護士等に依頼しなければ十分な訴訟手続を行うことができないから、諸般の事情を考慮して相当と認められる額を相手方に請求することができるということになります。

そして、この金額はほとんどのケースで損害賠償額として認められた金額の1割となっております。

例えば、1億円の損害賠償請求を行い、判決では6000万円が認められ、弁護士報酬として1000万円を支払ったとします。この場合、弁護士報酬分の損害として認定されるのは6000万円の1割である600万円ということになり、差額の400万円については自己負担ということになります。

 

2 債務不履行に基づく損害賠償請求の場合

お金を貸した相手方が返済してくれない、土地の売買契約を締結したものの相手方が払ってくれない、請負契約で工事を行ったものの請負代金を支払ってくれないなど、契約した相手方が約束を守ってくれずに損害が生じる場合があります。

 

つい先日最高裁判決がされたものについては、正確には事案は異なるものの、概ね下記のような内容です。

 

(1)Aさんが、売主であるB社から土地を購入する旨の売買契約を締結した。

(2)契約の条件として、B社がAさんに引き渡す前に、B社の責任において①土地上にある建物は事前に取り壊しておく、②担保権について抹消しておく、③土地の測量を終えておく、などが定められておりました。

(3)契約して数日後にB社の代表者が行方不明になり、土地の引き渡しはもちろんのこと、上記①~③について何もされておりませんでした。

(4)Aさんは、上記問題を解決するため、弁護士に依頼し、すべての問題を解決しましたが1000万円近い報酬を支払いました

(5)Aさんは、B社の不履行によって弁護士に頼しなければならなくなり、約1000万円もの支出をしなければならなくなったのであるから、その分は売買代金と相殺する旨を主張しました(弁護士費用の約1000万円はB社が負担すべき)。

 

以上の点について、最高裁は以下のとおり判示しました。

→ 最高裁サイト

→ 判決全文(PDF)

 

契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは,不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり,侵害された権利利益の回復を
求めるものではなく,契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。また,契約を締結しようとする者は,任意の履行がされない場合があることを考慮して,契約の内容を検討したり,契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。加えて,土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務は,同契約から一義的に確定するものであって,上記債務の履行を求める請求権は,上記契約の成立という客観的な事実によって基礎付けられるものである。そうすると,土地の売買契約の買主は,上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても,売主に対し,これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。

 

端的に言えば、誰が請求の相手方(加害者)となるのか分からない不法行為の場合と異なり、債務不履行に基づく損害賠償請求の場合においては、契約の時点で相手方の状況などを踏まえて、契約の内容等を決めたり、そもそも契約するかどうかの判断をすることができるのであり、また、契約の内容によって相手方がなすべきことは確定しているのであって必ずしも弁護士に依頼しなければならないようなものではないから、弁護士報酬については請求できないということになります。

なかなか厳しいようですが、契約の相手方を見極める責任は契約当事者双方にあるのであるから、契約どおりに支払い等をしてくれなかったとしても、ある程度は自己責任ですよということになってしまいます。だからこそ、金融機関や消費者金融等においては、お金を貸したとしても支払ってくれないと困りますので、審査がありますよね。また、請負契約等においても、会社の状況を調べる調査機関なども存在しており、自己防衛するしかないということになります。

 

3 契約の内容において弁護士費用を相手方が負担することになっていた場合

 

契約をする際に、特約等において「債務不履行があった場合に、当事者の一方が弁護士等に依頼した場合、その費用は相手方が負担する。」というような相手方が弁護士費用を条項が定められている場合があります。

特に、マンションの管理規約において、管理費の滞納に関する請求において弁護士費用は滞納者が負担するような規定が定められていることがあります。

 

実は、この点については確定的な見解がなく、無効となる考え方もあれば有効とする考え方もあります

まず、無効とする考えについては、以下のような点が理由となります。

・必ずしも契約時において対等な立場ではなく(例えば、「金銭消費貸借契約」、「事業者と消費者との契約」等)、一方が無理やりまたは知らないうちに契約している可能性がある。なお、事業者が消費者に対して請求する場合は、消費者契約法によって無効となる可能性が高いと思います。

・弁護士報酬は、請求者と弁護士等との間の契約によって決まるので、損害は1万円しか出ていないのに、弁護士報酬が100万円という損害と弁護士報酬の関係がおかしな状況が出てくる可能性がある。

 

有効とする考えについては、以下のような理由となります。

請求された側の不履行によって請求者が費用を負担したのだから、その分は負担すべき。

・契約時において、不履行の場合の違約金(違約罰)を定めることが認められているのだから、その中に含めれば良い。

 

あくまで私見とはなりますが、ある程度合理的な金額を請求するのであり、請求された側にかなりの落ち度がある場合には有効となり、損害額と比べて弁護士費用があまりにも過大となるような場合には無効と判断されるのではないかと思います。

 

なお、高裁判決とはなりますが、相手方への請求(管理費の滞納をした人への請求)を認めた裁判例があります。

→ 平成26年 4月16日東京高裁判決(PDF)

 

判決理由として、

区分所有者に管理費等の滞納がある場合において、被控訴人が弁護士に法的手続を依頼することが必要になったときは、その費用を他の区分所有者に負担させるのではなく、当該区分所有者に負担させることを予め定めておくことにより、迅速かつ公正な問題解決を図るものである。この趣旨からすれば、被控訴人が委任契約に基づき弁護士に対し支払義務を負う一切の費用を当該区分所有者に負担させるものと解するのが相当であって、弁護士費用の額が著しく合理性を欠くなど特段の事情がない限り、当該区分所有者がその全額の支払義務を負うものというべきである。

としており、弁護士費用を相手方に請求することを認めています。

 

4 まとめ

 

以上から、弁護士報酬等の相手方への請求については以下のとおりです。

①原則として請求できない。

②不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、訴訟において認められた損害額の1割程度を請求できる。

③契約において特約がある場合は、認められる場合がある。

 

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1月 21 2021

付郵便送達や公示送達における調査

任意の交渉がまとまらず、または交渉すらできない場合、最終的には訴訟等の法的手続を行うことになります。

訴訟を提起する場合、請求する側である原告が訴状等の関係書類を作成し、裁判所に提出することから始まります。ただ、この時点で裁判所に受付はされているものの裁判が開始されている状態にはなっておらず、訴状等の関係書類が請求される側である被告に到達したときに正式に始まることになります。これを係属といいます。

したがって、被告に訴状等が送達される(被告が書類を受け取る)ということはかなり重要なことなのですが、大企業であればそのような心配は無いものの、被告が個人だったり、社員数名の小さな会社だと留守などで送達されないことが結構あります。特に建物の明渡請求における被告は夜逃げしている場合もあり受け取らない可能性が高い傾向にあります。

 

このように被告に訴状等が送達されて初めて訴訟が正式に始まることになるので、故意に被告が受け取らないような事態を想定して、送達にもいくつかの方法が定められています。

送達の種類については過去にまとめていますので、こちらをご覧ください。 → 想いよ届け!【書類の送達】

 

いくつかある送達の中でも付郵便送達公示送達は、実際には被告が受け取っていないのに受け取ったことにしてしまうというかなり強力な手段であるため、それなりの調査をしなければなりません。

今回は、この調査についてまとめたいと思います。

 

 

1 役所での調査

基本的には被告の戸籍謄本や住民票の調査となります。

私ども司法書士等の士業については、ご依頼いただいた事件に関するものに限り、第三者の戸籍謄本や住民票等を取得することができますので、現住所や前住所等が分かれば比較的容易に調査できます(なお、あくまでご依頼いただいた事件に関するもに限って取得できるだけであり、無制限に取得できるものではありませんし、「住所の調査のみ」というご依頼をお受けすることもできません)。。

 

この点、士業以外の方であっても、正当な理由があれば、第三者の戸籍謄本や住民票を取得することができます(戸籍法10条の2住民基本台帳法12条の3)。

ただし、請求者の本人確認ができる書類(運転免許証等)のほか、請求する理由がわかる疎明資料(貸金請求であれば借用書、賃料請求であれば賃貸借契約書、売掛金請求であれば請求書など)が必要となります。

なお、一般的に貸金請求等で戸籍謄本が必要になるケースは少ないので、通常は戸籍謄本等は取得できませんが、相手方が亡くなっている場合には相続人に請求することになりますので、そのような場合に限り戸籍謄本は取得できることになります。

 

2 現地調査

実際に被告が当該住所にいるのかを確認するために現地調査を行います。

一番確実なのは、訪ねて行って被告と実際に出会えれば、それで終わりです。過去に何度か被告本人がいたことがあり、「裁判所に提出する必要があるので」と説明し、承諾を得たうえで写真撮影をしています。そのときに、「後日、改めて裁判所から書類が届くので、今度は受け取ってくださいね。」と説明するのですが、それでも受け取らない人が多いです。

 

ただ、実際には会えないことが多いため、住所地周辺を調査します。具体的には、電気メーターやガスメーターの状況、郵便受の状況(郵便物が溢れていないか等)、洗濯物の有無、夜間であれば明かりの有無などになります。オートロックのマンションだと建物内には入れませんので、集合ポストや洗濯物、夜間の明かりくらいしかできないことになります。これだと1日では判断できないので、何度か現地調査をする必要が出てきます。

 

また、戸建て住宅の場合は隣家の方にお話しを伺うこともありますし、アパート等であれば管理会社に電話して確認することもあります。

戸建て住宅だと、「〇〇さんと連絡を取りたいのですが、最近隣家の〇〇さんはご自宅に戻られていますか?」という感じで聞くと「いつもは何時頃帰ってきてるよ。」なんて教えてくれることがあります。

賃貸の管理会社においては個人情報の関係もありますので、なかなか詳細は教えてくれないことの方が多いですが、「〇〇〇号室は入居者の募集はされてますか?」みたいな聞き方であれば状況を教えてくれることもあります。

 

いずれにしても、確実な方法がありますので、その都度判断して調べるしか無いですね。

 

3 調査報告書

上記のとおり調査が終わった後に、調査結果を報告する書類を作成します。

裁判所のフォーマットは比較的簡素なものになっていますが、実際にはかなり詳しく記載しています。というのは、この報告書をもって「居住しているか・いないか」を裁判所が判断することになりますので、その判断ができる程度に情報提供をしなければならないからです。

したがって、報告書に加えて写真や取得した資料なども併せて提出する必要もあります。

あとは、裁判所の判断次第となりますが、場合によっては追加調査を指示されることもあります。

 

4 調査会社

ちなみに、このような現地調査等を行う業者さんも存在します。私は依頼したことはありませんが、場所によって3万円から15万円とのことですので、被告が遠方に居住している場合は依頼するメリットがあるかと思います。

 

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1月 04 2021

不動産の強制競売について

債権回収を行う際、当然ですが、まずは相手方と交渉を行い、話し合いによって一括または分割で支払ってもらうことがベストです。結果として、回収できる金額が一番大きく、訴訟費用や強制執行に関する費用がまったくかからないためです。

 

しかし、相手方が交渉に応じない、または交渉をしても合意できない場合は残念ですが、訴訟等の法的手続を執らざるを得ません。訴訟提起後にも訴訟上の和解をすることはありますが、当事務所でお受けしている事件の多くは、相手方が訴訟手続自体を無視して判決まで至ります。

 

ここまで来てしまうとあまり良くありません。

財産があれば、差押えて回収することができますが、訴訟手続を無視するような方に差し押さえができるような財産があるケースはほとんど無いからです。

この点、財産が無かったとしても勤務先が分かるようであれば給料を差押えて回収することができます(ただし、概ね手取り給与の25%です。)。一方、預貯金の口座を差押えても口座にお金が入っていることはほとんどなく、動産執行をしてもめぼしい財産はまずありません。

あとは、繰り返し強制執行を行うか、どうにかして財産を見つけていただくか、粘り強く交渉を続けるか、という話になってしまいます。

 

ところで、上記のとおり判決まで行ってしまうとなかなか全額回収が難しくなるのですが、ほぼ確実に回収できるケースがあります。それが不動産執行(不動産の強制競売)です。

財産価値がある不動産であれば少なくとも数百万円は配当に回ります。そして、当事務所の業務の性質上、数百万円、数千万円の債権回収を行うことはありませんので、まず間違いなく全額回収ができます。

とはいえ、100万円前後の負債のために不動産を失っても良いと考える人は多くありませんので、不動産を持っている人を相手に訴訟手続をする場合は、その時点で和解ができることがほとんどなのですが、稀に不動産をお持ちなのに訴訟手続を無視し、競売手続に進んだケースが何度かあります。当事務所でも、現在進行形で競売手続が進んでいる案件があります。

 

ということで、今回は不動産競売の流れ等についてまとめたいと思います。

 

 

競売申立の前提

 

競売申立を行う前提として、判決等の債務名義を取得している必要があります。

また、当たり前ですが、相手方名義の不動産があることが必要です。

この点、相手方の親族や会社などの第三者名義になっているものは差し押さえることができません。売掛金など会社が相手の場合に社長個人の不動産を差押えたいというお話がありますが、名義が法人と個人では別であるためこちらも差押えることはできません。このような状況で社長個人の財産を差押えるためには、会社に対する債務について社長個人に連帯保証をしてもらっており、かつ、社長個人に対する判決等の債務名義が必要になります。

 

さらに、実質的な問題として、不動産に価値があることが必要です。

例えば、山奥にある土地や建物については、競売になっても価値が無いと判断されることがあり、競売費用にも満たない場合は裁判所の職権で競売が取り消されてしまいます。競売申立の際に70万円以上の予納金等の実費を納めていますので、逆に損失が増えてしまいます(ただし、予納金等の大部分は還付されます。)。

 

また、担保権者等がいる場合も注意が必要です。

もし、不動産の価値が2000万円あったとしても、住宅ローンに関する抵当権や税金の差し押さえなどがあり、抵当権者や差押債権者の債権額が2500万円あるのであれば、結果として1円も入ってこないことになりますので無意味です。もっとも、不動産の価値を正確に算出することは難しいですし、住宅ローンの残債額や税金の滞納額などを事前に調査することはできませんので、不動産業者に相談したり、借入時期や差し押さえの内容を見て推測するしかありません。

例えば、住宅ローンを組んだのが20年前であれば返済によりかなり減っていると思いますが、数年前だとほとんど減っていないと思います(返済方式の主流である元利均等払だと借入当初の数年はほとんどが利息に充当されています。)。また、税金の差押えについても、役所が県税事務所であれば自動車税や県民税、商売をされている方であれば事業税や消費税になり、商売をされている方だとかなりの額になることが予想されます。市税事務所であれば、固定資産税や市民税等であり、かなりざっくりですがある程度推測することができます。

 

このような担保権や差し押さえの有無に関する情報は不動産の登記事項証明書を取得することによって調べることができます。

なお、当事務所では、任意売却や差押関係に強い不動産業者と提携しておりますので、こちらを相談しながら進めていきます。

 

申立てから配当まで

 

競売手続のキモは上記がほとんどであり、いったん申立てをしてしまえば、あとは裁判所(及び執行官)が主導して進めてくれますのであまりやることはありませんが、不動産を強制的に売却してしまうという相手方にとってかなりのダメージとなる手続ですので、極めて慎重に手続は進むこととなり時間がかかります。

ざっくりとした流れとしては、①申立て → ②開始決定 → ③現況調査と評価 → ④入札や開札 → ⑤代金納付 → ⑥配当 となり、早くても半年程度、長いと1年程度かかります

配当の時点で利息等を計算した「債権計算書」を裁判所に提出し、あとは競売申立に要した費用などを含めて配当され、終了となります。

 

なお、申立ての時点で少なくとも70万円の予納金に加えて、登記事項証明書等の必要書類の取得費用や差し押さえの登記のための登録免許税などの実費もかかりますので、予納金と合計すると申立て時点で72万円~75万円程度の費用がかかりますが、大部分は配当の中で返ってきます。

 

和解による取下げや任意売却による終了

 

競売の申立てをしたとしても、必ず強制的に売却されるわけではなく、途中で終わることもあります。

①取下げ

競売手続中に相手方から全額を一括で支払う等の打診があり、和解して取り下げることがあります。上記のとおり最低でも半年以上はかかりますので、和解で解決できるのはベストですし、相手方としても不動産を失わなくて済むのでどちらにとっても良い結論になります。なお、競売手続に要した費用も合わせて支払ってもらわないと和解しませんので、債権者が損をすることはありません。

 

②任意売却

任意売却とは、競売ではなく通常の売買で不動産を処分することを言います。一般的に競売だと価格が低くなる傾向がありますので、任意売却によって少しでも高く売りたいというケースもありますし、競売だと誰が落札するかは分からないので、相手方が今後も使用するために相手方の親族等が買い、その親族から賃借して居住し続けたいとの理由で、競売申立後に任意売却になることがあります。

この場合も、上記の和解と同様に、任意売却の際に競売申立費用も含めて全額を一括で支払ってもらいますので、競売手続が進むよりもこちらの方が良い結果となります。

 

 

 

そもそも当事務所が行う業務の相手方が不動産を持っていること自体が少なく、さらには競売になっても配当が得られるようなケースは極めて少ないため、なかなか不動産競売まで進まないのが実情ですが、もし該当する場合は、ある程度時間がかかるというデメリットがあるものの、手続に乗せられるようであればほぼ確実に全額回収できるのでかなり良い結果が期待できます。

 

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