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8月 08 2013

東京中央銀行の差押え(半沢直樹)

6:27 PM 売掛金回収

録画だけはしておいたのですが,全然観ておらず,先日4話まで一気に観ました。

 

いやー,面白いですね。水戸黄門的な勧善懲悪なところが強いので,観ている方としてもスカッとします。このあたりが高視聴率に繋がっているのでしょうか。

 

 

さて,当然ながらドラマですので,現実にはあり得ないようなことが次々と起こります。わかりやすい点といえば,国税の人はあんな横暴ではありません(笑)

数年前,当事務所にも税務調査がありました。当時はいわゆる過払金全盛の時代でしたので弁護士,司法書士はどこも税務調査があったと思います。当事務所には,所轄の税務署ではなく,本体たる国税から来ていましたが,極めて腰の低い方で高圧的な態度など一切ありませんでした(収入印紙の在庫の計算方法で少しミスがあり,その点はキッチリ指摘されましたが・・・)。

 

 

まぁ,こんなところはドラマなので,勧善懲悪をわかりやすくする演出だと思いますが,一応,私も法律屋であり,まさに債権回収のドラマなので,その点について書きたいと思います。

 

5億円の損失

 

今回,東京中央銀行は,東田社長が経営する西大阪スチールに5億円の融資をし,その直後に倒産しました。

半沢融資課長は,この5億円の回収のために奔走するわけですが,その中で海外の不動産に目をつけます。同時期に,国税もその不動産を嗅ぎ付け,東京中央銀行と国税庁との争奪戦の様相を呈しています

しかし,法律的にはこの競争は意味がわかりません。

 

差し押さえの前後と回収の前後は関係ない

海外の不動産だと日本の裁判所で決定を得た後に,海外の裁判所ということとなり,説明が大変なので不動産は日本にあるという前提で進めます。

 

浅野支店長の発言により,西大阪スチールへの融資は無担保で行われていることは間違いありませんので,海外の不動産のみならず,例え国内に不動産を持っていたとしても東京中央銀行が優先的に回収できる担保は存在しないことになります。

そこで,半沢融資課長が別荘を見つける訳ですが,仮に半沢融資課長が見つけた場合,どんな手続きをとるでしょうか。

ここで考えられるのは,間違いなく仮差押えです。

というのは,不動産を競売にかける差し押さえ(いわゆる本差押え)をするためには,西大阪スチールに対し,「5億円を返せ」という裁判をしたうえで勝訴していなければなりませんが,そのような訴えを提起したという描写は一切されていませんし,少なくとも判決が出るまでに半年以上はかかると思われることから,ドラマの時間の流れからすると仮に裁判をしていたとしても勝訴判決は出ていないと思われます。

とすると,不動産を差し押さえるには仮差押えしかありません。

 

仮差押えをしても,他の債権者が出てくることがある

 

仮差押えというのは,文字通り「仮」の差し押さえなので,暫定的な差し押さえにすぎません。とすると,結局はその後に裁判をすることになるのですが,「仮」である以上,不動産は競売などされていませんので,他の債権者はその不動産に対して,同じように差し押さえをすることができます。したがって,東京中央銀行が仮差押えをしても,独占できるわけではありません

 

 

無担保債権者の順位は一番下!

 

さて,仮差押えのあとに無事勝訴判決を得て,当該不動産を競売したとします。恐らく競売が終了するまでに1年程度かかるわけですが,その競売の代金はどのように分配されるのでしょうか。

実は,競売の手続きの中に,配当要求交付要求)というものがあり,競売を申し立てていない債権者でも,競売代金の一部をもらうことができることになっています。

その競売代金が全債権者が満足する金額であれば問題ないのですが,足りないのであれば,優先順位の高い方から順番に競売代金をもらうこととなります。

その順番は・・・

 

1位 (根)抵当権等の担保権者または税金

2位 (根)抵当権等の担保権者または税金

3位 先取特権者

4位 無担保債権者(判決を取得している人)

 

となります。

細かいのですが,1位と2位は,抵当権の設定日と税金の納期限の早い方で比べることとなっており,事案によって異なります。

 

さぁ,これをドラマに当てはめてみましょう。

上記のとおり,東京中央銀行は無担保で融資をしていますので,1位または2位になることはなく,例え判決を取って競売の申し立てをしたとしても順位は最下位です。一方,国税は悪くても2位ですし,当該物件を東田社長が隠していることを考慮すれば,担保権者がいるとは考えられませんので,まず間違いなく国税が1位だと思います。

どうでしょう?

半沢融資課長はがんばって不動産を見つけようとしていますが,どうあがいても国税には勝てません・・・・。

 

国税は勝訴判決が無くても差し押さえ可能

 

さらに,国税に限らず,税金の滞納による差し押さえは勝訴判決など無くてもいきなり差し押さえをして強制的に売却することができます。

とすると,仮に,国税が持っていく滞納税金額が不動産価格を上回るのであれば,仮差押えうんぬんなんか関係なしで,全額国税が持って行ってしまいます。

 

 

ということで,法律的には,早い者勝ちで回収できるようにはなっていないので,国税との争いは何のためにやっていたのか正直よくわかりません・・・。

 

あと,細かいことを言えば,5億円の融資に関し無担保ということは東田社長個人の連帯保証は取っていない可能性もありますので,もし別荘の名義が東田社長個人名義だった場合,東京中央銀行は当該別荘をを押さえることはできません(あくまで債務者は西大阪スチールという会社だから東田社長個人の財産は押さえられない)。

 

まぁ,そんな細かいところを気にして観ても面白くないので,難しいことは考えずに楽しめば良いですね。

 

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