3月 26 2015
支払の担保となるもの
相手が一括で返済できない場合,現実的には分割で支払ってもらうしかありません。
ただ,分割払いだと管理が大変ですし,何より分割中に再度支払いが滞る可能性もあります。ですので,分割払いでも良いけど,そのかわり担保が欲しいというケースもあります。そもそも担保とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。今日はこの点についてまとめてみたいと思います。
かなり確実性の高い不動産
今の日本社会において,一般的に一番担保価値が高いと考えられているものは不動産だと思われます。担保価値が高いので,返済が滞ったときでも不動産を強制的に売却できれば回収の可能性はかなり高まります。ただし,それに伴うデメリットもかなりありますので,なかなか使いづらいのもまた事実です。
【不動産を担保に取るメリット】
・延滞の防止
自宅などを担保に取った場合,延滞をしてしまうと自宅を追い出されてしまう可能性がありますので,そもそも延滞をしない可能性が高くなります。
・回収可能性が高い
一般的に,不動産は価値が高いため,回収できる可能性が高いです。
・価格の変動が少ない
金(ゴールド)や株式などと比べて,不動産は価格の変動幅が大きくないため,担保としては安心できます。例えば,株式を担保にとっても,万が一その会社が倒産してしまったらその株式は無意味になってしまいますからね。
【不動産を担保に取るデメリット】
・不動産を持っていなければ意味がない。
債権回収は,基本的に相手にお金がないケースが多いため,そもそも不動産を相手が持っていないというケースも多くあります。ただし,第三者の担保を取ることもできますので,相手が持っていなくてもその親族が不動産を持っていれば担保に取ることは可能です。
・強制的には取れない
これは不動産に限った話ではありませんが,強制的に担保を取ることはできず,あくまで相手(不動産の所有者)の同意が必要となります。
・担保に取る費用が高い
不動産を担保に取る場合は,不動産そのものをもらうわけではなく,登記簿に担保権(抵当権,根抵当権,仮登記担保,譲渡担保等)が設定されていることを登記することによって担保に取ります。他の担保だと,担保に取ること自体にお金がかかることはほとんどありませんが,不動産を担保にとる場合には登記のための費用がかかってしまいます。この費用は借入額や不動産の価値などによって異なりますが,安くても数万円,高ければ数十万円の費用がかかりますので,私がご依頼をお受けするような140万円以下の債権回収だと費用が相対的に高くなってしまいます。
なお,テレビドラマ等で,「担保として権利証を預かっていくぞ」なんていう描写がありますが,当事者間の心情はさておき,少なくとも法的にはまったくもって無意味です。権利証だけでは不動産は勝手に処分できませんので,権利証を持っていかれたとしても何もできません。逆に権利証が無くても不動産の売却は可能ですので,権利証を持っていかれても全く問題なく売却できます。
・現金化するのに時間がかかる
目的はお金を回収することであり,不動産をもらうことではありません。したがって,不動産をお金に換えなければなりませんが,これが結構時間がかかります。
こちらにも記載しておりますが,競売だと1年程度かかることもありますので,相当長い時間がかかることは覚悟しておかなければなりません。なお,任意売却という手法であれば,比較的早期に回収できますが,それでも数か月はかかりますし,何より数十万円から100万円程度の負債で任意売却するケースはほとんどないと思われます。
任意売却については,当事務所がいつもお世話になっている不動産屋さんのサイトに詳しい記載がありますので,こちらをご覧ください。
【まとめ】
以上から,「確実な回収」という意味では不動産に優る担保は無いと思いますが,「費用がかかる」,「時間がかかる」という点で使いづらい担保ではあります。
不動産担保より多い保証人
根本的な話ですが,保証人って担保なんですが,このことをあまりに認識していらっしゃらない方が多いように思います。
専門用語では,不動産などの担保のことを物的担保,保証人など人に関する担保のことを人的担保と呼んだりします。
この保証人ですが,不動産担保よりもポピュラーであるため,保証人という制度を知らない方は少ないと思いますが,勘違いをされていることも多いのでこの点についてまとめてみたいと思います。
【保証人と連帯保証人の違い】
単なる保証人と連帯保証人の違いは,難しい言葉で言えば,「催告及び検索の抗弁権並びに分別の利益の有無」が違うんですが,これだとさっぱりわからないので,簡単に一言で言えば「連帯保証人は債権者との関係では債務者とまったく同じ立場です!」ということになります。つまり,単なる保証人は債権者から返済を請求されたとしても,「まずは借主のところに行ってください。」とか「まずは借主の財産を差し押さえてください」とか言えるんですが,連帯保証人は言えません。さらに,保証人が複数人いる場合は自分の責任は頭数で割った金額(100万円を2人で保証しているのであれば1人の保証額は50万円)のみですが,連帯保証人だと,他に連帯保証人がいたとしても全額を支払う義務があります。
ですので,債権者の立場としては,圧倒的に連帯保証人の方が有利であり,少なくとも金融機関や信販会社,消費者金融など,商売としてお金を貸す会社の契約書では絶対に連帯保証人になっています。もう絶対に絶対です。私は単なる保証人になっている契約書を見たことはありませんし,制度自体が変わらない限り,今後も見ることはないと思います。
ただし,個人間の貸し借りで作成された契約書では単なる保証人になっていることもあります。当事務所でも,そのような契約書を見ることがありますが,分割払いで和解する条件として,単なる保証人ではなく連帯保証人に変えてもらったりしています。
【(連帯)保証人になってもらう方法】
借主が保証人に対して「保証人になってほしい」と依頼することが多いため,保証契約は借主と保証人との間の契約のように思われている方も多いのですが,保証契約は債権者と保証人との間の契約になります。
この点,保証人になったと思われる人から「保証人の欄に借主が勝手に自分の名前を書いてしまったのですが,私が払わなければなりませんか。」とご相談を受けることがあるのですが,そもそも保証契約自体していませんので支払う義務は無いことになります。
また,保証契約は必ず書面でしなければならないことになっています。ですので,口約束で保証すると言っても契約は有効に成立しません。したがって,保証人を求める側の立場の場合は,必ず保証契約に関する書面を作成し,保証人に署名等をしていただかなければなりません。
【保証人のメリット】
・比較的簡単
不動産担保のように登記は必要なく,当然費用もかかりません。単に契約書等に署名等をしてもらえれば大丈夫です。また,不動産のように持っていなければどうにもなりませんが,保証人であれば,第三者が保証人になってくれれば良いので,不動産担保よりは比較的簡単に担保が取れることになります。
【保証人のデメリット】
・回収可能性が低い
保証人の資力の状況は刻々と変わっていますので,借主が延滞した時点では保証人にも資力がないというケースもあります。場合によっては借主と一緒に行方不明になってしまうこともあります・・・。
・強制的に支払ってもらうためには別途訴訟が必要
不動産担保の場合は登記がしてありますので,延滞が起これば勝手に売却ができますが,保証人の場合は強制的に支払ってもらうためには,保証人を訴えて判決を取らなければなりません。なお,任意に支払ってもらえるのであれば訴訟を行う必要はありません。
【まとめ】
ということで,保証人を取ること自体は比較的簡単ですが,その分,例え保証人を取っていても不動産担保と比べると回収できない可能性は高いと思います。
モノを預かるのは質屋さんだけではありません
モノの担保は不動産だけではなく,動産もあります。動産というのは聞きなれない言葉だと思いますが,不動産と債権以外はすべて動産だと思っていただければ大丈夫です。
具体的には,貴金属,時計,着物,洋服,靴,テレビ,パソコン・・・などなどありとあらゆるものが動産になります。
世間には,質屋さんというものがあり,上記のような動産を預けることでお金を借りることができます。これは質屋さんだけに認められているわけではなく,個人間の貸し借りで動産を担保として取っても大丈夫です(ただし,営業として行うためには許可が必要です。)。
もっとも,現実的には動産を担保として取るのは難しいです。というのは,不動産は担保に入れるというのは単に登記だけの話ですので,借主は何ら問題なくその不動産が使えますが,動産を担保に入れる場合は,その動産を債権者に渡さなければなりません。渡してしまえば当然借主は使うことはできませんし,債権者としてもちゃんと管理をしなければなりません。正直,債権者としては管理が面倒くさいですし,いくらの担保価値があるのかもわかりませんので,現実的にはなかなか使われない制度だと思います。
自動車も担保に取れるんです
自動車は不動産のように登録という制度がありますので,自動車は借主が使いつつも,債権者はその自動車を担保として取ることができます。
ただ,担保価値の減少が著しいです。つまり,自動車というものは高速で移動する動産ですので,使えば使うほど価値が下がるのみならず,事故を起こしてしまえば一瞬にして価値がゼロになってしまうことだってあります。また,不動産は逃げることはありませんが,自動車は動きますので,抵当に入っている旨の登録がしてあったとしても現実的にどこに自動車があるのかわからないということも往々にしてあります。したがって,現実的にはほぼ使われていない制度です。
なお,自動車抵当は普通の自動車のみであり,軽自動車は除外されます。
倉庫内の商品を担保に取ってしまう
これは売掛金の回収など商売を行っている人限定の話となりますが,倉庫内に入っている商品等をまとめて担保に取ることができます。
上に書いた通り,本来であれば動産を担保として取る場合は,その商品を債権者に渡さなければなりません。でも,そんなことしたらその商品は売れないですし,何より債権者はその管理なんてしたくないですよね。それを解決するのが,この動産譲渡登記制度です。
小難しい話になりますので,詳細はこちらをご覧ください。
すごくざっくり言えば,倉庫内に保管してある商品について,担保として商品の所有権は債権者に移転しますが,現実的には借主が保管しており,借主はその商品を普通に売買することができます。ただし,債権者への返済が滞ると確定的にその倉庫内の商品は債権者に移転し,借主はその商品を自分のものとして売れなくなってしまいます。全然ざっくりじゃないですね・・・。
いずれにしても,商品を債権者に引き渡す代わりに登記をすることによって,担保として取ることができる制度ということになります。
ということで,担保として現実的なのは,一番は保証人,次に不動産担保だと思います。
当事務所では,分割払いにするに当たり,保証人や不動産担保を取ったことがありますが,今のところ,支払いが滞ったことはありませんので,やはり担保を取るというのは支払いを継続してもらえる大きな要素になると思います。ただし,どのような担保でも相手の同意が必要ですので,毎回とれる訳ではありませんのでご注意ください。