2月 18 2015
未払い賃料回収のケース
昨年,建物ではなく,駐車場の明け渡し及び未払い賃料の請求のご依頼をお受けしました。
延滞されている方は2名おり,ともに年単位の延滞をされていましたので,当然ながら未払い賃料の請求はできますし,明け渡しの請求についても法的な問題はありません。なお,1名についてはすでに亡くなっておられましたので,まずは相続人を探すところから始め,相続人をすべて特定した上で手続を進めました。
まずは,内容証明郵便での催告
依頼者の方は,例え未払い賃料が支払われても契約を継続するつもりは無いとのことでしたが,民法上,まずは一定期間の猶予を与えて未払い賃料の催告をしなければなりません(民法541条)。
つまり,
①一定期間を定めて支払いの催告→②一定期間経過→③解除権が発生→④解除の通知→⑤契約解除
というステップを踏むことになります。
なお,賃貸借契約のような継続的な契約関係の場合は,当事者の信頼関係の上に成り立っている契約であるため,単に不履行(賃料の未払い)があっただけではなく,信頼関係が破壊されたような状況にならなければ解除はできないと考えられています(信頼関係破壊の法理)。したがって,1~2度の延滞では,「信頼関係が破壊された」とは言えないケースが多いため,この時点での契約解除は難しいと思います。
よく,「退去してもらうためには3か月の延滞が必要」というようなことを聞いたことがあると思いますが,まさにこの信頼関係破壊の法理から来ていると思います。
また,多くの賃貸借契約書には,「賃料の支払いが遅れた場合は催告することなく解除することができる。」という特約,いわゆる無催告解除特約が入っていることがあります。
無催告解除ができるとなると,上記の①~③をすべて省略して,いきなり④解除の通知をすることができます。
ただ,無催告解除特約が入っていれば必ずしも催告することなく解除することができるわけではありません。
上記のとおり,契約の解除をすること自体かなり制限されているわけですので,催告すらせずに解除するとなるとハードルがもっと上がります。
この点,判例においては「契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情」があれば,催告することなく解除することができるとしています。つまり,端的に言えば「第三者の目から見ても催告せずに解除されてもしょうがないよね」というような状況のときには無催告解除も認められると考えられます。具体的には,かなり長期の延滞があるような場合には無催告解除が認められる傾向にあります。もっとも,単に延滞期間の長短で決まるわけではなく,個別具体的な事情で変わるため,極めて悪質なケースでは1か月の延滞で無催告解除が認められることもあれば,10か月の延滞でも認められない場合もあります(もちろん,通常の催告をしたうえでの解除は認められる可能性が高いです。)。
では,今回のケースではどうかというと,契約書には無催告解除特約は入っており,かつ,数か月どころか数年単位で延滞していますので無催告解除をしたとしても,恐らく有効だと思います。
しかし,もし訴訟になった場合に,相手が解除の有効性を争ってくる可能性があります。最終的には解除は認められると思いますが,争われるとそれだけで数か月の時間を要する可能性があります。一方,催告をしたとしても,催告の一定期間(通常は1~2週間)を待てば確実に解除が有効となるわけですから,争われる可能性のある無催告解除ではなく,通常の解除手続で進めるべく催告の通知を出しました。
相手からの連絡
契約している方及び契約者が亡くなっている方については相続人の全員に催告をしたところ,ともに連絡がありました。
まず,先に連絡があったのが,亡くなっている方の長男の方からでした。内容としては,「父親が駐車場を借り,そのような状態になっているとは知らず申し訳ない。」というもので,何とその翌日には100万円単位の未払い賃料の全額が一括で返済されました。さらに,その電話をいただいた月の末日をもって契約を解除するということで合意し,無事解決しました。
また,もう一方の方については,1か月程度どのように支払うかという点について話し合いを重ねましたが,最終的には2回分割で支払っていただけるとのことで,こちらも無事解決しました。
ということで,訴訟になった場合に備えていろいろ準備をしていたのですが,事実上,内容証明郵便1本で解決しました。いつもこんな簡単に解決できればいいんですけどね。