10月 07 2014
債権回収に関するよくあるご質問
債権回収(特に個人間の金銭トラブル)に関するご相談をお受けする中で,同じような趣旨のご質問をいただくことが多くありますので,ここでまとめておきたいと思います。
慰謝料を請求したい
金銭の貸し借りについて約束の期日までに返済されないと精神的にはかなりのストレスとなり,当事務所のような司法書士や弁護士に相談したり,ネットでいろいろ検索したりと面倒だったりします。
この点について,損害賠償請求だったり慰謝料だったりを請求したいとお考えになることは良くわかります。
しかし,残念ですが基本的にはこのような請求はできません。
この点,民法419条に,金銭の支払いを求めるような権利を持っている場合,その不履行(支払いの延滞)に関する損害賠償は法定利率によって定めるものとされており,さらに,民法404条で法定利率は5%されております。ただし,当事者の間で5%を超える利率を定めていた場合にはその利率ができようされます(ただし,上限は20%)。
ということで,不履行(支払いの延滞)によって何らかの損害を受けたとしても,原則として法定利率部分の遅延損害金を余分にもらえるだけとなっています。
弁護士や司法書士に支払う報酬分も相手に請求したい
相手がちゃんと支払いをしていれば弁護士や司法書士に依頼することは無かったわけですから,その分も請求したいというお気持ちはよくわかります。
しかし,残念ですがこの分も原則として請求できません。
訴訟手続は基本的にご自身で進められるようになっており,必ずしも弁護士や司法書士に依頼しなくても良いので,ご自身が弁護士等を選任した以上,その報酬も選任した方に支払い義務があります。
なお,訴訟を行った場合には当然裁判所に出廷しますし,訴状に貼付する収入印紙等の実費については,勝訴した場合に限り,相手に請求することができます。
この点は過去に詳しく書いておりますので,こちらをご覧ください。
お金を渡したというメール,相手に振り込んだ明細があるから大丈夫?
知人間のお金の貸し借りの場合,普通は借用書などは作成していないことが多いと思います。
この点,借用書がなければ相手に請求できないと思われている方もいらっしゃいますが,全然そんなことは無くて,メールだったり,最近だとLINEのやり取りでも証拠になります。また,相手に振り込んだという明細も十分証拠になります。
ただし,これで十分かというとそうではない場合も多々あります。
基本的に,お金を返してもらうためには,当たり前ですが,「お金を貸した」という前提が無ければなりません。
この点,相手がお金を借りたこと自体には反論が無くて,単に遅れているというだけであれば問題ないのですが,相手がお金を借りたこと自体を争っている場合は,こちらから証拠を出して「お金を貸した」ということを立証しなければなりません。
さらに,「お金を貸した」を分解すると,
①お金を渡した
②渡したお金について返す約束をした
(③利息を請求するのであれば利息についての合意)
を立証しなければならないことになります。
例えば,相手からのメールで,「5万円助けてくれてありがとう。本当に感謝するよ。」というメールが相手から届いているとします。そうすると,上記①に「お金を渡した」という点についてはこのメールで立証できることになります。振り込みの明細でも同様です。
しかし,お金を返してもらうためには,これだけではなく返す約束がなければなりません。なぜかというと,お金を渡しただけであれば贈与ということもあるからです(贈与であれば返還請求はできません。)。したがって,上記メールや振込の明細しかないのであれば②について別の方法で立証しなければなりません。
例えば,「5万円について,来週が返済の約束の日だけど大丈夫かな?」とメールし,その返信として「ごめん。来週は無理そうだけど月末であれば給料が入るから返せると思うよ。」なんていうメールが届いていれば,②について立証できることになります。
この点,「5万円についていつ返済するんだ」というメールを送ったところ,「とりあえず話し合いたい」という返信が来た場合に,これは相手が借りたことを認めているメールになるのではないか,とご質問をお受けしたことがあります。正直なところ,前後の文脈などによって異なるため絶対というわけではありませんが,この内容だけであれば立証できたとは言えないと思いますので,更なる証拠が必要だと思います。
ということで,メールのやり取りをされる場合は,相手の方が借りたことを認める内容だったり,認めたことを前提とした回答をさせるなどの工夫が必要だと思います。
裁判に勝訴すればお金は返ってくるんですよね?
金銭の支払いを求めた裁判の勝訴判決は,「相手の金銭の支払いを命令するけど,もし命令に従わない場合は相手の財産を強制的に差し押さえて回収しても良いよ。」というものです。
ですので,相手が判決に従って支払いをせず,相手に差し押さえるような財産が無い場合は残念ですが回収することはできません。ただし,今はお金が無くても相手の方がどこかで勤務しているということであれば給料を差し押さえることで,毎月少しずつですが回収できる場合もあります。
あくまで,私の感覚ですが,裁判になるとより態度が強行になり,任意には支払ってもらえないケースが多いと思います。現実的な回収を最優先される場合は裁判よりも話し合いだと思います。
相手が住んでいる場所を探してもらえるんですよね?
弁護士や司法書士は,業務としてご依頼を受けた場合は訴訟の相手方の住民票などを相手の方の同意なしに取ることができます。
ただ,役所に調査を依頼するわけではなく,こちらで住んでいると思われる住所を特定して住民票の請求をしなければなりません。もし,今の住所がわからなくても,以前の住所が分かっていたり,住所はわからなくても本籍地などが分かれば現住所まで調査することができる場合もあります。
しかし,何の情報も無い場合は,弁護士や司法書士でも探し出すことはできません。この点,かなり誤解されている方が多く,弁護士等に依頼すれば自動的に相手の所在がわかると思われているようですが,全然そんなことはありません。さらに,弁護士等が調査できるのは,あくまで書面上,つまり住民票上の住所であって,本当に住民票がある場所に相手が住んでいるのかどうかということはわかりません。
このような場合にお願いされるべき職業は探偵さんとなります。もっとも,探偵さんに依頼する費用は結構高いので,そこまで費用をかけてでも手続を進める意味があるのか十分にご検討された方が良いかと思います。
なお,相手の住所がわからなくても裁判を行うことはできますし,その場合は多くのケースで勝訴判決が出ると思います。
裁判を行う内容が,登記の請求だったり,明け渡しの請求であれば相手が行方不明でも特段問題とはなりませんが,金銭の請求を求める裁判だと,勝訴判決を取っても現実的にはあまり意味が無いかもしれませんので,上記の探偵さん同様に十分ご検討される必要があります。
まだまだよくあるご質問はありますので,また機を見て更新したいと思います。