2月 07 2014
期限の利益喪失条項
銀行や信用金庫のような金融機関のみならず,信販会社や消費者金融に至るまで,契約書に必ず入っている大事な条項があります。
しかし,個人間でのお金の貸し借りではそもそも契約書が無いことも多いのですが,仮に契約書があったとしてもこの条項が入っていることはまずありません。
それは「期限の利益喪失条項」というもので,債権者側としては非常に大事な条項となります。
【期限】=【返済しなくて良い期間】
通常,金融機関等からお金を借りる場合,一括で返済するということはほとんど無く分割で返済しますよね。例えば住宅ローンなんかは35年ローンなんてザラにありますし,自動車ローンでも5年くらいはよくあると思います。また,一括で返済する場合でも,借りた翌日に一括で返済するということはなく,例えば1か月後とか1年後とかある程度の期間返済が猶予されますよね。
この,「一定期間返済しなくて良い期間」というのが「期限の利益」というものです。つまり,債権者側の事情により,「ちょっとお金が必要になったから貸したお金すぐに返して」と言われたとしても,債務者側としては「いやいや,期限までは自由に使って良いことになってるんだから一括では返さないよ。」と言って断ることができる権利です。
ちなみに,この期限の利益を債務者側から説明しましたが,債権者側にとっても期限の利益はあります。それは利息です。
例えば,債権者は年利10%で100万円を貸せば,1年後には10万円の利息をもらうことができます。しかし,債務者側の都合により「ちょっとお金の都合ができたから1か月しか経ってないけど100万円と1か月分の利息を返すよ。」と言われてしまった場合,債権者としては本来は利息として10万円がもらえるはずだったのに,1か月分の利息しかもらえないことになってしまいます。
そこで,債権者としては「期限の利益があるのだから,一括で返しても良いけど1年分の利息を支払ってね。」という権利があります(民法136条2項)。
もっとも,一般的には早期に返済した場合はそれまでの分の利息しかもらわないことになっていることが多いと思います。
期限の利益を喪失する場合
さて,最初に記載した期限の利益の喪失条項ですが,具体的には下記のような条項です。
「乙(債務者)が第1項の分割金の支払いを一度でも怠ったときは期限の利益を喪失し,乙は甲に対し,第1項の金員から既払額を控除した残金を直ちに支払う。」
大事なところは,赤くなっている「分割金の支払いを一度でも怠ったときは期限の利益を喪失し」,「残金を直ちに支払う」という部分です。
これがないと分割のときに大変困ります。
例えば,100万円を貸して,10万円を10回分割で返してもらう契約をしたとします。
しかし,最初から返済をせず,2回,3回と返済がされません。とすると,全額返せという訴訟を提起したいのですが,期限が到来している3回分の30万円は返せと請求できますが,残る7回分の70万円については相手に期限の利益があるため請求できません。とすると,毎月毎月滞納するのを確認するごとに請求しなければならなくなり大変です。2回も3回も滞納する人が今後ちゃんと返済してくれるとは到底思えないので早急に手続を進めなければならないのに,期限が到来していない分については指をくわえてみているしかありません。
しかし,期限の利益の喪失条項が入っていれば「残金を直ちに支払う」となっているため,その滞納した時点で残っている全額について期限が到来していなくても請求することができます。
「借用書」ではなく「契約書」にすべき
証拠としては,書面である必要はないので,メールなどでも大丈夫です。ただ,証拠としてはやはり借用書等の書面があった方が良いです。
さらに,借用書だと「いくら借りた」程度のことしか記載されていないので,一括弁済であれば良いのですが,分割弁済の場合だと債権者側としては債権回収手続きをしようにもスムーズに進まないこともあります。
したがって,知人間ではなかなか言い出しづらい部分もあるかと思いますが,できれば契約書を作成するようにしてください。
契約書のサンプルをアップロードしておきますので,こちらを参考に作成していただければと思います。また,契約書の作成に関するご依頼もお待ちしております。