1月 17 2014
移送申立てという名の時間稼ぎ
裁判を起こす場合,日本全国津々浦々にある裁判所のどこの裁判所に訴えても良いというわけではなく,事件によって訴えが提起できる裁判所が決められています。
例えば,私が司法書士であることで一番問題になるのが140万円という基準で,相手に請求する金額が140万円以下であれば簡易裁判所,140万円超であれば地方裁判所に訴えるのが原則となっています(裁判所法33条)。
ただ,これには例外があり,例え140万円超の訴えでも当事者が簡易裁判所で裁判をすると合意をすれば簡易裁判所で行うことが認められていますし,逆に140万円以下でも合意すれば地方裁判所で行うこともできます(民事訴訟法11条・合意管轄)。
もっとも,140万円超の訴えを簡易裁判所で行うことで合意していたとしても司法書士が代理をすることはできません。
また,上記は裁判所の審級の問題ですが土地(場所)の問題もあります。大阪と東京に住んでいる人が名古屋で裁判をやる意味はあまりありませんよね。
この点について,法律では原則として訴えられる人の住所地を管轄する裁判所で行うこととなっています(民事訴訟法4条・普通裁判籍所在地)が,これはあくまで原則であって,たくさんの例外が規定されています。
例えば,お金の支払いを求める場合は,求める人の住所地を管轄する裁判所で裁判をすることができますし,交通事故など不法行為の損害賠償金を求めるような裁判であれば交通事故が起こった場所を管轄する裁判所で裁判をすることもできます。
そうすると,管轄が複数存在することになり,この場合は訴えをする方(原告)が自由にどこの裁判所で裁判をするかを選ぶことができます。
したがって,裁判を行う場合はお金の支払いを求める裁判が多いと思いますので,原告の住所地を管轄する裁判所に訴え提起することが多いと思います。
さて,上記の通り複数の管轄が認められている場合は原告が自由に決められるのですが,訴えられる被告としては非常に困る場合もあります。また,裁判を行う上で,別の裁判所でやった方が都合が良いという場合もあります。
前者でいうと,仙台に住んでいる一消費者が東京に本社があり仙台にも支社がある大企業と裁判をする場合に,東京の裁判所でやると消費者側としてはもの凄い交通費がかかりますが,仙台でやれば交通費もかかりませんし,大企業側としても仙台に支社があるのであれば,仙台で裁判を行うことが衡平だという場合もあります。
後者だと,東京に住んでいる人と岩手に住んでいる人が仙台で交通事故を起こした場合,事故の目撃者等の証人がたくさんいる仙台で裁判をやった方が都合が良いという場合があると思います。
そのような場合には例え東京に管轄があり原告が東京の裁判所に訴えを提起したとしても,仙台の裁判所でやるように申立てることができます。これを移送(申立て)と言います(民事訴訟法16条以下)。
双方とも移送した方が良いということであれば,基本的には裁判所は移送すると思いますが,移送させたくない場合は反対する旨の意見書を提出し,最終的に裁判官が判断することとなります。
この移送申立てですが,実は結構やられます。
もっぱら原告の代理をすることが多いので移送の申立てをされる側になることが多いのですが,今のところ移送を争って負けたことはありません。ただ,一度だけ絶対に移送されてしまう事案に当たり移送されたことがあります。それは,もともと簡易裁判所に提訴したのですが,相手より140万円超の反訴をされたためです(民事訴訟法274条・反訴提起に基づく必要的移送)。
この,移送申立てですが,実は本当に移送してほしい場合だけでなく時間稼ぎのためにやられることの方が多いです。
というのは,移送の申立てがされた場合,事件の審理に入る前に移送についての判断をしなければなりません。もし,移送が認められた場合,事件の審理をしていたのが無駄になってしまいますからね。
なので,期日の直前に移送の申立てがされてしまうと,その判断のために予定された裁判の期日が延期されたり空転することなります。
上記のとおり,原告の代理をすることが多いので直前に移送申立てが来ると正直なとこ「またか」という感じですが,認められた権利ですのでどうしようもありませんね。
今日もまた移送の申立てがきました・・・。せっせと意見書を作成してFAXします。