12月 12 2013
貸したことがわかれば何でも良い
先日,東京都知事が医療法人から多額の資金を無利息で借りていたとしても問題になっていました。
その際に,借用書の有無が問題になり,都知事が借用書を報道陣に公開したところ,その内容が杜撰だということで更に問題になっていました。
借用書に必要なこと
端的に言えば,①誰が,②誰から,③いつ,④いくら借りた,ということが載っていれば,とりあえず借用書としては問題ありません。
上記都知事の借用書を見ると,
①誰が
→猪瀬直樹氏が
②誰から
→徳田毅氏から
③いつ
→平成24年11月20日に
④いくら借りた
→5000万円借りた
ということが載っていますので,借用書としてとりあえずは問題ありません。
この点,印紙が貼っていない,徳田氏の署名が無い,なんで借用書を借主である都知事が持っているんだ,などのクレームがあるようです。
まず,印紙が貼っていないことと契約が有効か否か,もしくは借用書として成立しているか否かはまったく関係ありません。印紙が貼ってないと,税務署に知られたときに,1.1倍もしくは3倍の過怠税を課されるかどうかだけの問題です。
貸した側の署名が無いことについても,通常「借用書」というものは借りた側が貸主に差し入れるものですので,借用書に関して言えばむしろ貸主の署名が無い方が一般的です。
そして,借用書を借主が持っていることについては,すでに返済したとのことですので,通常は返済と交換で借用書は返還してもらいますし,法的にも返済したら借用書等の債権証書を返還するのが原則となっています(民法487条)。返済したのに借用書が貸主の手元の残っていたら再度請求されるかもしれませんからね。
署名等は証拠力の問題
5000万円という多額の金銭の貸し借りの場合,このような借用書という形式ではなく,ちゃんとした金銭消費貸借契約証書という書面を作成するのが一般的ですし,利息の有無,返済期限,返済方法,遅れた場合の措置(遅延損害金や失期約款等),当事者(少なくとも借主)の署名に加えて実印で捺印し,印鑑証明書までつけると思います。さらに,間違いの無いように現金ではなく銀行振り込みによると思います。
上記のうち,利息や損害金の規定は,元本だけでなくそれ以外の金銭をもらう根拠となるものですが,署名や実印での押印というのは別にパソコンで印字したものに,100円ショップで売っているような認印を押したものでもちゃんと有効な書面となります。それでも,署名を求め,さらに実印での押印を求めるのは証拠力を高めるためです。
つまり,パソコンで印字したものでは本当に本人が関与したものなのかさっぱりわかりません。さらに,認印なんてどこでも買えるので他人が押印している可能性も十分あります。しかし,署名は基本的に本人しか書けないものですし,実印+印鑑証明書があれば極めて高い確率で本人が関与していると裁判所も認定しやすくなりますよね。これが「証拠力を高める」ということです。
今回の都知事の持っているような借用書しかない場合,数十万円程度の借金であれば問題にしないでしょうが,5000万円もの多額の借金だと裁判所もおいそれと簡単には認めてくれない可能性が出てきますので,そうならないように貸主は借主に対し署名に加えて実印+印鑑証明書を求めると思います(それでも都知事の署名があるので認められる可能性は高いと思います)。
借用書じゃなくたっていい
もっと言えば,借用書なんていう書面が無くても良いんです。
知人間の貸し借りで借用書を作っている方が珍しいくらいですよね。あくまで,上記の①誰が,②誰から,③いつ,④いくら借りた,ということが分かれば良いので,以前も書きましたが,
「1か月前に貸した10万円だけどいつごろ返してもらえそうかな?」
↓
「遅くなってごめんね。来月になればボーナスが入るからそれで返せると思うよ。」
というメールのやり取りがあれば,①誰が,②誰から,③いつ,④いくら借りた,ということがわかりますので,十分証拠となります。
とはいえ,証拠があるに越したことはありません。下記のような,本当に簡易な借用書でもあると無いとでは段違いですので,できればもらうようにしてください。
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