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12月 12 2022

家賃を滞納した場合に自動的に明渡したことになる条項の有効性(最高裁判決)

5:23 PM 家賃滞納

アパートのなどの賃貸借契約において、「1か月でも滞納した場合は契約を解除し、すぐに明け渡す。」という趣旨の条項が入っていたとしても、法律上は認められないことになっています。

居宅に関する賃貸借契約はコンビニなどで商品を購入するような一時的な契約ではなく、短くても数か月、長ければ数十年にも及ぶ契約となりますので当事者の信頼関係が重要視されており、居宅は生活の本拠となる場所であるため、そう簡単に解除することは認められていません

なので、賃貸人側から契約を解除するためには、賃借人が生活の本拠を失ってもやむを得ないと思える程度に信頼関係が破壊されているような事情が無ければならず、簡単に契約を解除することができません。

この点、家賃に関して言えば、一般的には3か月分を超える滞納があると信頼関係が破壊されたと考えられる傾向にあります。ただし、あくまで総合的に判断であるため、一概に3か月を超えていれば解除できるというものではありませんし、逆に賃借人に他の悪い事情があれば1か月の滞納でも解除が認められることがあります。

この点の事情については、下記をご覧いただければと思います。

→ 契約違反による賃貸借契約の解除(その1)

→ 契約違反による賃貸借契約の解除(その2)

 

 

さて、本日(令和4年12月12日)、賃貸人ではなく保証会社と賃借人との契約にはなりますが、下記の2つの条項について差止めが認められるかどうか(適格消費者団体が原告となって、上記のような条項を使うことについての差止請求)について最高裁判決がありました。

①賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときは、無催告にて原契約を解除することができる。

②賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、被上告人が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。

→ 最高裁サイト

→ 判決全文(PDF)

 

上記のとおり、居宅に関する賃貸借契約は賃借人が保護されることが多いため認められる可能性は低いと思っていましたが、やはり認められませんでした。

その理由はざっくり申し上げると次のようなものです。

①賃借人が支払いを怠った賃料等の合計額が3か月分以上になった場合、賃貸借契約の当事者ではない保証会社が何の限定もなく賃貸借契約を無催告で解除権できるものとしている点において、賃借人が重大な不利益を被る可能性があり、消費者契約法違反により無効である。

②明け渡したとみなされた場合、賃借人は建物に居住することが一方的に制限されることになる上、賃貸借契約は解除されていないから建物の明け渡す義務を負っていないのに、法律に定める手続によることなく強制的に明渡しが実現された状態に置かれるのであって著しく不当というべきである。

明け渡したとみなすことができる要件のうち、「建物を再び占有使用しない賃借人の意思というものが客観的にみなすことができる事情がある」という要件は、その内容が明らかでないため、賃借人はどのような場合に適用があるのかを判断することができず不利益を被るおそれがある。

賃借人が異議を述べた場合には、保証会社が本件建物の明渡しがあったとみなすことができないものとしているが、賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではないから、賃借人の不利益を回避する手段として十分でない。

以上の理由により、消費者契約法違反により無効である。

 

したがいまして、判決でこのような条項が入った契約書は破棄しなければならないとされており、仮にみなし明渡しの条項が入っていたとしても、通常の明渡手続が必要になることになります。

仮にみなし明渡し条項が入っているからと言って勝手に室内の動産を処分した場合、相当なトラブルになる可能性があります。この点、通常の明渡手続を踏めば、室内の動産を処分することについて裁判所のお墨付きが得られますので、トラブルになる可能性はかなり低いことを考えると、費用も時間もかかるため大変ではありますが、やはり真っ当な方法で進められた方が良いと思います。

なお、判決自体は賃借人保護になりますが、賃貸人側(保証会社側)としては従前より審査が厳しくなって契約に至らないケースが増えることになると思われますので、下記のようなケースがより社会問題になっていくと思います。

 

毎日新聞「入居6回断られ…シングルマザーが直面する「住まいの貧困」とは」2022/12/11 08:00(最終更新 12/12 12:20)

以下、引用

「やっぱり貸せない」。神戸市の女性(43)は2年前、アパートの賃貸契約を交わす直前で、大家から入居を断られた。女性はパート従業員で、小学生から高校生までの3人の子どもを育てていた。家を探していたのは、元夫のドメスティックバイオレンス(DV)から逃れるためだが、断られるのは6回目だった。元夫は定職に就かず、家事や育児は女性任せ。子どもが泣くと、壁をたたいたり暴言を吐いたりした。女性は知人から支援団体を紹介され、別居を決意した。20カ所以上の物件にあたり、ようやく家賃5万2000円のアパートに移り住むことができた。母子4人には狭いが、我慢するしかなかった。「金銭的な不安もある中、心と体を守れる安全な場所にたどり着くための負担が大き過ぎる」と女性は振り返る。

以上で引用終わり

 

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