10月 22 2021
SNSの情報から給与を差し押さえて全額回収
個人間の債権回収において、相手方と話し合いがまとまり、一括または分割にて回収できるのであればこれに越したことはありません。
訴訟等の法的手続を行う必要がありませんのでその分の費用が節約できますし、手続上は、和解書や合意書等を作成いたしますので平和的に完了することも多いです。
しかし、話し合いがまとまらない場合は訴訟等の法的手続を行わなければならず、そのような場合は判決後に強制執行まで進むことが多いです。
強制執行の方法としては、預貯金の差押え、不動産競売などたくさんの方法がありますが、一番多く回収できるのは給与の差押えです。給与の場合は、一度に手取り金額の25%しか回収できませんが、相手方が退職しない限りは毎月定期的に回収できるので、時間はかかるものの最終的には全額回収できることも多いです。
今回、給与差押えを複数回行ったもののSNSの情報により全額回収できたので、この点についてまとめたいと思います。
なお、事件の特定を防ぐ趣旨で、一定程度フィクションが入っておりますことをご了承ください。
1 前提事情
同棲していた男女間のトラブルであり、交際が終わる際に貸金の返済を求めたものの返済されないまま連絡が取れなくなったというご相談でした。
同棲していたくらいですので、相手方の住所や氏名などは確実に分かっていますし、借用書も作成していたので、法的に請求できることは間違いありませんが、相手方が派遣社員だったため給与の差押えをしても実際に回収できるか微妙な事案でした。
2 訴訟提起
相手方に対して書面を送りコンタクトを試みたもののまったくリアクションがありませんでしたので、訴訟を提起しました。相手方から一括では無理なので分割で支払いたいとの趣旨の回答がありましたが内容的に難しいため判決となりました。
3 差押え
派遣先及び派遣元の会社の情報は依頼者がご存知でしたので、派遣元の会社に対して給与差押えの申立てを行いました。無事、差押えは成功し、毎月の給与から少しずつ返済されました。ただ、派遣社員ということもあり、毎月の回収額はそれほど多くなく、全額回収までには数年かかるような状況でした。
4 退職
相手方は派遣先の会社に住み込みで働いていたのですが、その派遣先及び派遣元との契約も解除してしまい、当然ながら給与が支払われなくなりました。
定期的に住民票の調査も行いましたが、判決時の住所から変更はなく、勤務先どころか住んでいるところもまったく分からなくなりました。
5 SNSでの発見、そして全額回収
上記から約2年後、とある会社の広報として実名でインスタグラムにて会社の情報を発信しているのが発見されました。相手方の写真も載っており、ほぼ相手方に間違いないと思われる状況であり、いろいろと調べてみると派遣という形態はとっていないようでしたので、雇用形態は別としても当該会社に直接雇用されていることが分かりました。
そこで、当該会社の給与差押えの申立てをしたところ、無事成功しました。差し押さえた当初はアルバイトだったようですが、差押え後もしっかり仕事をこなされていたようで、その後に正社員に登用さえ毎月の支払額も多くなりました。
それから約1年後に無事全額回収となりました。
上記のとおり、給与差押えの場合は退職しない限り定期的に回収できるため、回収可能性が高い手続です。ただ、いったん退職されてしまうと次の職場を発見するのが難しいのですが、今回は偶然見つけることができてラッキーな事案でした。
また、給与の差押えを契機として退職させられてしまうこともあるのですが、上記のとおり退職どころか正社員に登用されていたので、相手方の人生を壊してしまうこともなく、こちらとしても安心できました。
以上、SNSの情報から全額回収できた事案でした。