1月 04 2021
不動産の強制競売について
債権回収を行う際、当然ですが、まずは相手方と交渉を行い、話し合いによって一括または分割で支払ってもらうことがベストです。結果として、回収できる金額が一番大きく、訴訟費用や強制執行に関する費用がまったくかからないためです。
しかし、相手方が交渉に応じない、または交渉をしても合意できない場合は残念ですが、訴訟等の法的手続を執らざるを得ません。訴訟提起後にも訴訟上の和解をすることはありますが、当事務所でお受けしている事件の多くは、相手方が訴訟手続自体を無視して判決まで至ります。
ここまで来てしまうとあまり良くありません。
財産があれば、差押えて回収することができますが、訴訟手続を無視するような方に差し押さえができるような財産があるケースはほとんど無いからです。
この点、財産が無かったとしても勤務先が分かるようであれば給料を差押えて回収することができます(ただし、概ね手取り給与の25%です。)。一方、預貯金の口座を差押えても口座にお金が入っていることはほとんどなく、動産執行をしてもめぼしい財産はまずありません。
あとは、繰り返し強制執行を行うか、どうにかして財産を見つけていただくか、粘り強く交渉を続けるか、という話になってしまいます。
ところで、上記のとおり判決まで行ってしまうとなかなか全額回収が難しくなるのですが、ほぼ確実に回収できるケースがあります。それが不動産執行(不動産の強制競売)です。
財産価値がある不動産であれば少なくとも数百万円は配当に回ります。そして、当事務所の業務の性質上、数百万円、数千万円の債権回収を行うことはありませんので、まず間違いなく全額回収ができます。
とはいえ、100万円前後の負債のために不動産を失っても良いと考える人は多くありませんので、不動産を持っている人を相手に訴訟手続をする場合は、その時点で和解ができることがほとんどなのですが、稀に不動産をお持ちなのに訴訟手続を無視し、競売手続に進んだケースが何度かあります。当事務所でも、現在進行形で競売手続が進んでいる案件があります。
ということで、今回は不動産競売の流れ等についてまとめたいと思います。
競売申立の前提
競売申立を行う前提として、判決等の債務名義を取得している必要があります。
また、当たり前ですが、相手方名義の不動産があることが必要です。
この点、相手方の親族や会社などの第三者名義になっているものは差し押さえることができません。売掛金など会社が相手の場合に社長個人の不動産を差押えたいというお話がありますが、名義が法人と個人では別であるためこちらも差押えることはできません。このような状況で社長個人の財産を差押えるためには、会社に対する債務について社長個人に連帯保証をしてもらっており、かつ、社長個人に対する判決等の債務名義が必要になります。
さらに、実質的な問題として、不動産に価値があることが必要です。
例えば、山奥にある土地や建物については、競売になっても価値が無いと判断されることがあり、競売費用にも満たない場合は裁判所の職権で競売が取り消されてしまいます。競売申立の際に70万円以上の予納金等の実費を納めていますので、逆に損失が増えてしまいます(ただし、予納金等の大部分は還付されます。)。
また、担保権者等がいる場合も注意が必要です。
もし、不動産の価値が2000万円あったとしても、住宅ローンに関する抵当権や税金の差し押さえなどがあり、抵当権者や差押債権者の債権額が2500万円あるのであれば、結果として1円も入ってこないことになりますので無意味です。もっとも、不動産の価値を正確に算出することは難しいですし、住宅ローンの残債額や税金の滞納額などを事前に調査することはできませんので、不動産業者に相談したり、借入時期や差し押さえの内容を見て推測するしかありません。
例えば、住宅ローンを組んだのが20年前であれば返済によりかなり減っていると思いますが、数年前だとほとんど減っていないと思います(返済方式の主流である元利均等払だと借入当初の数年はほとんどが利息に充当されています。)。また、税金の差押えについても、役所が県税事務所であれば自動車税や県民税、商売をされている方であれば事業税や消費税になり、商売をされている方だとかなりの額になることが予想されます。市税事務所であれば、固定資産税や市民税等であり、かなりざっくりですがある程度推測することができます。
このような担保権や差し押さえの有無に関する情報は不動産の登記事項証明書を取得することによって調べることができます。
なお、当事務所では、任意売却や差押関係に強い不動産業者と提携しておりますので、こちらを相談しながら進めていきます。
申立てから配当まで
競売手続のキモは上記がほとんどであり、いったん申立てをしてしまえば、あとは裁判所(及び執行官)が主導して進めてくれますのであまりやることはありませんが、不動産を強制的に売却してしまうという相手方にとってかなりのダメージとなる手続ですので、極めて慎重に手続は進むこととなり時間がかかります。
ざっくりとした流れとしては、①申立て → ②開始決定 → ③現況調査と評価 → ④入札や開札 → ⑤代金納付 → ⑥配当 となり、早くても半年程度、長いと1年程度かかります。
配当の時点で利息等を計算した「債権計算書」を裁判所に提出し、あとは競売申立に要した費用などを含めて配当され、終了となります。
なお、申立ての時点で少なくとも70万円の予納金に加えて、登記事項証明書等の必要書類の取得費用や差し押さえの登記のための登録免許税などの実費もかかりますので、予納金と合計すると申立て時点で72万円~75万円程度の費用がかかりますが、大部分は配当の中で返ってきます。
和解による取下げや任意売却による終了
競売の申立てをしたとしても、必ず強制的に売却されるわけではなく、途中で終わることもあります。
①取下げ
競売手続中に相手方から全額を一括で支払う等の打診があり、和解して取り下げることがあります。上記のとおり最低でも半年以上はかかりますので、和解で解決できるのはベストですし、相手方としても不動産を失わなくて済むのでどちらにとっても良い結論になります。なお、競売手続に要した費用も合わせて支払ってもらわないと和解しませんので、債権者が損をすることはありません。
②任意売却
任意売却とは、競売ではなく通常の売買で不動産を処分することを言います。一般的に競売だと価格が低くなる傾向がありますので、任意売却によって少しでも高く売りたいというケースもありますし、競売だと誰が落札するかは分からないので、相手方が今後も使用するために相手方の親族等が買い、その親族から賃借して居住し続けたいとの理由で、競売申立後に任意売却になることがあります。
この場合も、上記の和解と同様に、任意売却の際に競売申立費用も含めて全額を一括で支払ってもらいますので、競売手続が進むよりもこちらの方が良い結果となります。
そもそも当事務所が行う業務の相手方が不動産を持っていること自体が少なく、さらには競売になっても配当が得られるようなケースは極めて少ないため、なかなか不動産競売まで進まないのが実情ですが、もし該当する場合は、ある程度時間がかかるというデメリットがあるものの、手続に乗せられるようであればほぼ確実に全額回収できるのでかなり良い結果が期待できます。