4月 04 2019
差押の競合
先日,給与差押えの手続を行ったところ,競合してしまいました。預貯金の競合は結構あるのですが,給与差押えでの競合はあまり無かったので,今回は競合についてまとめてみたいと思います。
差押えの競合とは
原則として,債権を差し押さえた場合,一定期間経過後は直接取り立てて良いこととなっております(民事執行法155条1項)。したがって,預貯金を差し押さえた場合は金融機関と,給与を差し押さえた場合は債務者の勤務先と直接交渉をして支払ってもらうこととなります。
このように差し押さえが1件だけであればその債権者が独占すれば良いため特に問題とはなりませんが,複数人が同一の債権を差し押さえをすることがあります。この場合に,複数人の差押債権額の合計が債務者が有する債権額を超える場合を「競合」といいます。
具体的に記載すると,債権者である甲さんが,債務者である乙さんの預金を差し押さえようと考え,A銀行の預金を差し押さえたとします。ところが,丙さんも乙さんに対して債権を持っており,同一のA銀行の預金を差し押さえました。
この場合に,
(1)甲さんの債権100万円,丙さんの債権50万円,乙さんの預金が200万円という場合であれば,A銀行は甲さんと丙さんにそれぞれ全額支払えば良いだけですので競合とはなりません。
しかし,
(2)甲さんの債権100万円,丙さんの債権50万円,乙さんの預金が120万円という場合,A銀行は甲さんと丙さんに全額弁済することができませんので競合となります。
なお,租税債権等の例外を除き,「債権者平等の原則」により,早い者勝ちとなるわけではなく,金額,支払時期等に関係なく債権者は平等に扱われますので,先に差し押さえた甲さんが全額弁済を受けるということにはなりません。
競合した場合の処理
競合した場合,乙さんの預金があるA銀行は甲さん及び丙さんに弁済することはできなくなります。この場合,A銀行は法務局に預金120万円を供託しなければなりません。これを執行供託といいます。
その後,供託された120万円は裁判所の配当手続によって甲さんと丙さんに配当され,差押手続は終了となります。
ということで,通常の預貯金であればこれで終わるのですが,給与債権の場合は,これが毎月生じることになります。
つまり,債務者の勤務先は競合している以上,毎月手取り給与の25%(民事執行法152条1項)を法務局に供託し,裁判所は毎月配当手続を行うことになります。もっとも,現実的に毎月配当手続を行うことは大変であるため,3~4か月分の給与が供託される度に配当手続を行う裁判所が多いと思います。ただ,3~4か月に一度で良いのは配当手続であって,勤務先が毎月供託することには変わりはありませんので,勤務先は本当に大変だと思います。
ただでさえ,給与の差し押さえとなると手取り給与の25%しか差し押さえができず回収までにそれなりの期間を要するのに,さらに競合したとなるとさらに期間を要することになるので,やはり競合した旨の書類が届いたときはがっくりきます・・・。
なお,競合になるかどうかは差し押さえによる回収が終わるかどうかで決まります。給与の場合は給料日の問題がありますのでなかなか難しいですが,預貯金の差押えの場合は債務者に裁判所から差押えの書類が送達されてから1週間後に直接取立権が生じ,すぐに銀行に連絡して回収することができますので,競合する前に迅速に進められた方が良いかと思います。