4月 14 2017
民法改正による債権回収への影響
先日,民法の債権分野に関する大改正が衆院を通過し,今国会で成立する見込みとなりました。
以下,時事通信社2017年4月12日20時15分配信の記事を引用します。
債権や契約分野の規定を見直す民法改正案が12日の衆院法務委員会で、与党や共産党、日本維新の会の賛成多数で可決された。13日の衆院本会議で可決、参院に送付され、今国会で成立する見通し。「約款」規定の新設などが柱で、3年間の周知期間を経て、2020年をめどに施行される。債権規定の抜本改正は1896(明治29)年に民法が制定されて以来初めて。約120年にわたる社会経済情勢の変化に対応させた。インターネット通販の利用規約などは約款で取引内容を定めるのが一般的で、現行の民法には約款に関する規定がなく、購入後トラブルとなるケースが多い。改正案では、消費者側の「利益を一方的に害する」約款条項は無効とする。
引用終わり
民法自体は,戦後の相続分野の改正や成年後見制度(旧禁治産者)など何度か改正されておりましたが,契約や連帯保証などといった債権分野については120年前に民法が施行されて初めての改正となります。
債権分野の改正は債権回収に直結する部分ですので,少し気が早いですが改正部分について私自身の備忘録の意味も含めてまとめたいと思います。
ちなみに,あくまで衆院を通過しただけですので,正式に改正されたわけではなく,さらに実際に施行されるまでには上記のとおり3年ほどの時間がありますので,すぐに影響が出るものではありません。
第1 消滅時効
今は,一般的な債権(個人間の貸し借り等)は10年,商取引による債権(売掛金等)だと5年が経過すると時効により消滅してしまいます。さらに,債権の種類によっては1年(飲食代・運送費等)だったり3年(工事代金,診療報酬等)だったりと,短期に消滅してしまうものもあります。
このように債権の種類によって時効期間が違うと,いったいいつ債権が消滅するのかわからくなってしまうという弊害があります。
今回の改正によって次のとおり改正されます。
1 債権の種類に関係なく,債権者が権利を行使できることを知った時から5年または知らなくても権利を行使することができるときから10年経過した場合には消滅時効が完成する。ただし,不法行為に基づく損害賠償請求権は知った時から3年または行使できる時から20年であり,さらに生命身体侵害に関するものに限り知った時から5年または行使できるときから20年となります。
不法行為に関する例外があるものの,基本的には知った時から5年または行使できる時から10年で消滅してしまいます。したがって,現行法では1年ないし5年で消滅してしまう債権については債権者にとって有利ということになりますが,当初から10年だったものについては「知った時から5年」に該当してしまうと債権者にとっては不利になってしまいます。なお,「権利を行使できることを知った時」がいつであるかについての立証責任は債務者側にあります。
2 時効の猶予・更新制度が新たにでき,書面で権利について協議する旨の合意をすれば消滅時効の完成が一定期間猶予されるという制度もできました。
まず現行法の時効の停止や中断に関するものが時効の猶予・更新というものに再構築されただけであまり影響はないかと思いますが,権利について協議をしている間は時効の完成を猶予することができる制度が新しくできました。現行法だと,支払い方法などについて話し合いをしているだけでは中断事由には該当しませんでしたので,中断させるためには訴訟を提起するか債務者に債務承認をしてもらう必要がありました。今回新しくできた制度は,話し合い中は時効の完成を一時的に猶予することができるので,時効中断のために訴訟に踏み切らなくてもじっくり話し合いができるというメリットがあります。ただし,いつまでの時効完成が猶予されるというのはおかしいので,最長で1年となっております。
第2 保証人
改正によって,保証人のかなり保護が図られております。
1 事業資金の個人保証は原則として公正証書が必要。
保証人になろうとする方は,金融機関と事前に保証契約を締結する前に,保証する意思を公正証書で表明しなければならなくなり,口頭で保証契約の内容を公証人に伝える必要があります。恐ろしくハードルが高いです。
ただし,会社の役員や大株主などが会社の債務を保証する場合はこの限りではありません。また,事業資金ではない場合も関係はありません。
2 根保証の場合の極度額の設定
例えば,賃貸借契約の場合,借主に生じた債務についてすべて保証すると,かなり長期間の間,どれくらいの金額になるのかわからないような保証をすることになります。このような包括的な保証のことを根保証といいます。
改正後については,保証額の上限である「極度額」を必ず定めなければならず,極度額を定めなかった場合は,(根)保証契約自体が無効となってしまいますので注意が必要です。
第3 (金銭)消費貸借契約
細かい話になってしまいますが,お金の貸し借りである「金銭消費貸借契約」は,現実的にお金を渡すことが契約の要素となっておりますので,お金を現実的に渡す前に契約書を書いても貸主には「貸す義務」というものは存在しませんでした(現実的にお金を渡していないため,契約自体不成立。)。しかし,改正によって,書面で契約することを条件として現実にお金を渡さなくても合意があれば契約が成立することとなったため,貸主に「貸す義務」が生じるケースがあります。貸すか貸さないか迷っている間に契約書を書いてしまうなんて方はなかなかいらっしゃらないと思いますが,念のため注意です。
第4 賃貸借契約
建物や土地に関する賃貸借契約について,敷金返還や賃借人の原状回復義務などについてトラブルがあったため明確化されました。
1 敷金について
基本的には判例の考え方が明文化されただけであるため,特に大きな変更はありません。例えば,「敷金の返還時期は明け渡し完了後」だったり,「賃借人の方から敷金を未払い賃料に充当することを請求することはできない」などです。
2 原状回復義務
これまた判例どおりですが,通常損耗や経年劣化によるものはすべて賃貸人負担であり,賃借人の負担とすることはできません。ただし,契約書の特約として賃借人が負担することとなっていればそれは有効ですが,賃借人にしっかり説明し,明確に特約を合意していることが必要となりますのでハードルは相当高いと思います。
他にも改正点はたくさんありますが,債権回収に関係がありそうな部分に絞ってまとめてみました。
今後も新たな情報が入り次第,まとめていきたいと思います。