12月 16 2016
200円の損害賠償請求
昨日,下記のようなニュースがありました。
以下,よみうりオンライン(http://www.yomiuri.co.jp/national/20161215-OYT1T50110.html)の記事を引用します。
月決め駐車場に約40分間無断駐車した女性に所有者が200円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁(比嘉一美裁判長)が女性に200円の支払いを命じていたことがわかった。
原告は弁護士をつけずに提訴。費用は5000円以上かかったが、「年間100台くらいの無断駐車があり、やめてもらうために訴えた」と話している。
14日に言い渡された判決によると、女性は昨年3月、大阪府摂津市内の駐車場に軽乗用車を無断で止めた。女性側は「駐車場ではなく空き地。車を止めたからといって所有者に損害は発生しない」と主張。比嘉裁判長は「所有者には自分の土地を承諾なく利用されない権利がある」と、これを退け、近隣のコインパーキングの料金から「40分間」の損害額を算定した。
引用終わり
200円の請求というのはなかなか見ませんので,思うところを書いてみたいと思います。
費用について
裁判を起こすためには,裁判所に対して訴える目的の金額(訴額)に応じて収入印紙を納める必要があり,さらに当事者に郵送するための切手を納める必要があります(余った切手は事件終了後に返却されます。)。
記事によれば「費用は5000円以上かかった」と書かれておりますので,収入印紙が1000円,切手代が約4000円になるかと思います。
ただし,勝訴した場合は,その割合に応じて収入印紙や切手代等の訴訟費用は全額相手に支払ってもらうことができます。記事によれば,200円の支払いを求めた訴訟で判決も200円を支払えとなっているそうですので,訴訟費用は全額相手に負担してもらうことができます。
加えて,裁判所に出廷した場合,交通費と日当も訴訟費用の一部として相手に支払ってもらうことができます。
交通費は裁判所までの距離によって一律で決まっており,絶望的に安い金額であるため恐らく赤字です。例えば,当事務所から岡崎の裁判所まで往復交通費は2000円以上かかりますが,交通費は300円しか出ません・・・。また,日当も一律で決まっており,1期日当たり3950円です。
もっとも,上記はあくまで「相手に請求できる」というだけであり,請求しないことも可能です。さらに,請求しても相手が払わないこともありますので,その場合は費用をかけて強制執行をして回収するしかありません。現実問題として,訴訟費用のためだけに強制執行というのは費用倒れになってしまう可能性が十分あるかと思います。
抑止力はあるのか
記事によれば,「年間100台くらいの無断駐車があり、やめてもらうために訴えた」とのことです。
しかしながら,訴訟で求めたのは200円の支払いであり,訴えられた側としては200円を支払えばそれで終わりです(ただし,上記のとおり,別途訴訟費用の支払義務もあります。)。判決が出たからといって,直ちに警察に逮捕されるわけでもありません。
この判決を逆手にとって,「訴えられたところで200円しか払わないでも良い」との認識が広まってしまうと,果たしてこの訴訟に抑止力があるのか難しいところだと思います。
なぜ地裁だったのか
140万円以下の訴訟の場合は,簡易裁判所の管轄となっており,例外的に不動産に関する訴訟や難解な訴訟などは地方裁判所に移送されることがあります。
簡易裁判所の場合,少額訴訟であれば1期日で終わるなど簡単な手続も用意されていますが,地方裁判所だと厳格な方式によって進みますので本人訴訟の当事者にとっては簡裁の方が楽ではないかと思います。
もしかしたら,上記の例に該当して移送された結果が大阪地裁なのかもしれませんが,なぜ地裁での訴訟となったのかよくわかりません。
罰金の看板の有効性
本件とは直接関係ありませんが,駐車場などに「無断駐車をされた場合は罰金として1万円を支払ってもらいます。」というような看板があったりします。
当然,無断駐車はダメなのですが,万が一このような事態が生じたとしても,法的には罰金1万円を支払ってもらうことはできません。理由としては,そのような合意が無いからです。ただし,まったく請求できないかというとそうではなく,本件事件のように近隣の駐車場の相場などから勘案して,止めた時間に応じた損害賠償請求を行うことは可能です。費用対効果が合うかは別ですが・・・。
無断駐車はダメなのは当たり前なのですが,現実問題として無断駐車をされてしまっても土地の所有者の方が満足するような手続がありません。したがって,三角コーンを置いたり入口にチェーンを巻くなどして物理的に無断駐車をされないような対処をしていただくしかないと思います。